上 下
36 / 67
第四章 夢

神様の夢

しおりを挟む
とても久しぶりに僕は、神様の夢を見る。

僕の周囲には、何もない。ただただ光だけが満ちている。光があまりにも強すぎて、自分の体すら、どこにあるかわからない。もしかしたら僕には体なんてなくて、意識だけが光の中に浮いているのかもしれない。


『僕』はどこ?
僕って、いったいなんだ?
自分の体が見当たらなくても、僕だって言っていいの?



でも、僕は確かに光の中にいる。それはわかるんだ。だって『暖かい』し『眩しい』のを感じるから。

刺激に対する知覚、そしてはっきりしとした感覚。それらがあるから、僕はちゃんとここに存在しているんだって思える。

僕は疑いようもなく確実に、光の中にいる。



僕の全身を、光の粒子が包み込む。光に実体はないはずなのに、それは僕の肌に『触れられた』感触として残る。

ピッタリとした膜が、僕の全身に張り付いていく感じ。その膜は空気の存在を許さないほど隙間なく全身を覆うから、当然僕の体の内部にも侵入してくる。鼻の穴から、耳の穴から、口の中にも。


でも不思議と苦しくないし痛くない。不快感もない。あるのは全てを許されたという安心感と気持ちよさだけだ。


僕の全体が、光の薄膜に覆われていく。皮膚だけでなく、体の内側にある臓器も全部。

その光はごく薄い膜のはずなのに柔らかくて、弾力があって、つるつるしているようなすべすべしているような、でもふわふわもしていて、すごく懐かしさがある。

この正体不明の『懐かしさ』は、なにか生命の根源的な記憶に根ざしている気がする。

きっと全ての人はみな例外なく、生まれる前にこの光の膜に包まれたことがあるに違いない。



僕はこの光の膜そのものが、神様なのだと思う。

光は全てを分け隔てなく照らしてくれる。光があれば、闇は消えてしまう。闇の中に光を射すことはできても、光の中に闇を射すことはできない。光はどこまでもまっすぐで、強くて、平等だ。

僕は光に包まれたい、神様に愛されたい。そのためなら、死んでもいい。改めて、強くそう思う。


この世の誰よりも強く光を求めるから、この世の誰よりも強く神様のことを思うから、だから僕のことを愛して欲しい。僕の中にある闇を光で消し去って、癒して欲しい。

もっと愛して、もっと愛して、もっともっと愛して……。目覚めずにいつまでも見ていたい夢だったのに、エクスタシーを感じる直前でその夢は終わってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...