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第三章「正義のエルク」

18.孤高の騎士

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 ラフェル王国の正騎士団の戦勝パレード。
 魔物討伐を祝して行われたその祝いの場に、似つかわしくない風姿ふうしの男数名が行く手を遮る。全員黒いマスクを被り、手には剣などの武器が握られている。副団長シルバーが馬上から叫ぶ。


「貴様らっ! 我々が正騎士団と知っての蛮行かっ!!!」

 決してあってはならない愚行。正騎士団を汚すような行為。絶対に許すわけにはいかない。槍を手に覆面を被った男が答える。


「ああ、もちろん知ってるよ。なあ、シルバー副団長よ」

 そう言って覆面を外した顔を見て、正騎士団の面々が驚き動揺する。シルバーが言う。

「お、お前は、ヴォーグ歩兵隊長……」

 ヴォーグ歩兵隊長。
 正騎士団の中でも有数の実力者。彼が放つ槍は岩を砕き風を操る。しかしながら、匿名の密告により公金の横領が発覚。法に厳格なエークの独断ですぐさま解雇が言い渡された。ヴォーグが槍をエークに向けて言う。


「ここで俺達と勝負しな、騎士団長さんよ」

 その声と同時に周りにいた男達も覆面を外す。


「なっ!?」

 正騎士団員達に動揺が走る。


「お、お前達は……」

 彼らは全員正騎士団の者であった。そして全員が平民出身。団長エークによって突然解雇が言い渡された者達であった。ヴォーグが言う。

「まあ、俺は悪いことやったんで解雇も当然だがよお、こいつらには何の落ち度もねえ。平民だから? バカ言ってんじゃねえよ。同じ人間だろ。同じラフェルを想う仲間だろ!」

 大声のヴォーグの声は辺り一面によく響く。見守る観衆達も途中から静かになってそれを聞く。ヴォーグが言う。


「あんた、最初から気に入らなかったんだよ。貴族がそんなに偉いのか? 俺も貴族だがこいつらと何ら変わりはねえぞ!!」

 そう言って横に立つ元団員達に手を向ける。静まり返る中、それまで黙っていた騎士団長エークが馬上から言う。


「ヴォーグ、貴殿は貴族でありながらなぜこのような愚行を行うのだ。すぐにそこを退け」

 ヴォーグが槍を手に言い返す。


「だったら実力で通って見ろよ。騎士団長さん!!」

 同時にその槍から放たれる複数の竜巻。周りの観客達は悲鳴を上げて逃げ始める。騎士団員達はすぐに観客の保護に回り防御を固める。


光の魔法障壁ライトシールド!!!」

 エークの後ろにいた重歩兵隊から防御魔法が発動される。同時に竜巻を囲むように発現する光の壁。竜巻を壁が潰しにかかる。


 ゴオオオオオオ!!!!

 観客達は騎士団員達に守られて退避。お祭りムードだった大通りが一転、強者同士が争う場と化した。


「愚か者め。平民と一緒にこの様な愚行を……」

 エークが腰に付けた聖剣を抜く。それを見たシルバーが驚き言う。

「団長、それは幾らなんでも……」


「構わん。愚か者にはの鉄槌を下す!!」

 掲げられた聖剣に力が集まる。


聖剣突きセント・ラッシュ!!!!」


 ゴオオオオオオオ!!!!


「ぐわああああ!!!!」

 騎士団長が馬上から放った銀色に輝く強烈な攻撃は、ヴォーグを含め一緒に居た元団員達を軽々と吹き飛ばした。槍を杖に立ち上がったヴォーグが言う。


「これがあんたの本性かよ。クソがっ!!」

 ヴォーグが槍を手にエークに突撃した。




「派手に負けたな、あのおっさん。って言うか、あれ元騎士団の歩兵隊長じゃねえのか?」

 遠くから見ていたガイルが一度だけ対戦経験のある元歩兵隊長ヴォーグの顔を思い出して言う。レフォードが尋ねる。


「そうなのか? 元歩兵隊長の襲撃。一体何があったんだ」

「どちらでもいいけど、騎士団長さんってなんだか近寄り辛い感じだね」

 ミタリアは遠目ながら冷淡な感じのする騎士団長を見ながら言う。ガイルが言う。


「何があったか知らないけど、規律を破ったのなら長としては厳しくしなきゃならんのだけどな」

「厳しくねぇ~」

 ミタリアが苦笑する。


「ねえ、お兄ちゃん」

「……」

 無言で騎士団を見つめるレフォード。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「あ、いや、何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ。さ、これからどうする?」

 ミタリアが答える。


「うーん、お兄ちゃんと買い物とかご飯とか行きたかったけど、あっちの方大混乱になっているから巻き込まれないうちに帰ろっか」

「そうだな。それがいいな」

 レフォードもミタリアの意見に賛成する。


(騎士団長エーク。一度きちんと会ってみたいものだ……)

 レフォードはヴェルリット家へ帰る馬車の中で、小さくなりつつある王都を見つめながらひとり思った。





「ミタリア様、おかえりなさいませ!!」

 王都から戻ったレフォード達をセバスとジェイク、そしてライドが出迎えた。

「ただいま。今戻ったわ!」

 馬車から降りるミタリアの手をセバスが持つ。

「今日は風がやや冷たいですので、ささ、中へどうぞ」

 セバスは降りて来たレフォード達に軽く挨拶をしてから皆を屋敷の中へと連れて行く。



「みんな留守の間、ありがとうね」

 部屋に入ったミタリアが皆に向かって言う。それまで無口だったジェイクが一歩前に出て頭を下げながら言う。


「ミタリア様、ご不在中に東の村にて蛮族襲撃の報を得ましたので、このジェイクが無事に対処して参りました。怪我人、被害共になし。村人も大変喜んでおりました」

 ジェイクからの報告を聞いたミタリアが嬉しそうな顔になり、彼の手を握って言った。


「まあ、それは素晴らしいです! さすがジェイクさん、本当に頼りになります!!」

 辮髪べんぱつで筋肉隆々のジェイク。冷静沈着で感情を露わさない彼の顔が、真っ赤に染まる。


「も、もったいないお言葉。不肖ジェイク、喜びの極みにございます」

 そう答えるジェイクの体までもが赤くなる。それを後ろで見ていたガイルが小声で言う。


「あいつ、俺に挨拶するより先にミタリアかよ。全く分かりやすいな」

 全身を赤くしてミタリアに頭を下げるジェイクを見てガイルが少し笑って言う。


「おい、ジェイク。顔、真っ赤だぞ!!」

 ジェイクがビクンと体を震わせて答える。


「あ、暑いのです。そう、暑くて……」

 誰もが分かる噓。皆が苦笑する中、レフォードが真面目な顔で言う。


「何だ暑いのか。じゃあ、窓でも開けて……」


「レフォ兄~」

 戦闘はめっぽう強いのに、そっち系はからっきしダメ。だがそんなレフォードだからこそある意味、孤児院時代の妹達とも上手くやれて来られたのだとガイルは思う。
 その後ミタリアが皆に王都の出来事を報告、各自自由となった。




(ちょっと外でも歩くか……)

 レフォードはひとり屋敷の外に出て歩き始める。
 涼しい風が木々の間を優しく舞う。暖かな日差し、少し前の奴隷労働時代からは想像もできない生活だ。だが歩きながらレフォードの頭には王都で見た騎士団長のことで一杯になっていた。


(騎士団長エーク・バーニング。……バーニング家、エルク)

 兜を被っていたので顔は見えなかった。
 だがあの見覚えのある風体、仕草、金色の髪。ミタリアやガイルは何も感じなかったようだが、どう考えてもそう推測する方が合点が行く。


 ――エルク、お前が騎士団長なのか?

 レフォードは目を閉じ、昔孤児院での生活を思い出した。
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