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最終章「ふたりの想い」
85.アンナの悪戯
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「ろれんちゅさ~ん、わたひぃ~、重ひでしょ~??」
店を出たふたり。酒に酔って歩けなくなったアンナをロレンツが負ぶって歩く。夜も更け、通行人も少なくなったが、すれ違う人達はそんなふたりを微笑みながら見て行く。
「わたひぃ~頑張ってぇダイエットしてね~、うっ、うえっ、うおおぇぇ……」
「うわっ!! もういいから喋るな、嬢ちゃん!!」
同時に首から背中にかけて感じる生暖かい感触。酸味を帯びた匂い。ロレンツは首を振りながらまっすぐ歩く。
「ふう……」
泥酔したアンナ。ゲロまみれのロレンツ。
宿を数件当たってようやく泊めて貰えた部屋に入ったロレンツがため息をつく。アンナをソファーに下ろしたロレンツが言う。
「嬢ちゃん、後はひとりでいいな? 俺は自分の部屋に戻るから」
それを聞いたアンナ。ぐったりして天井を向いていたがすぐにロレンツを見て言う。
「ダメ~!! ろれんちゅもぉ~、一緒にねんねするのー!!」
「ねん……、い、いや、そりゃ無理だ!!」
アンナは頬を膨らませて言う。
「どーしてぇ?? どーしてぇ、ダメなの~?? あんにゃのこと、嫌いなのぉ??」
(うっ)
ゲロまみれだがそう言ってロレンツを見つめるアンナは可愛い。それでも姫と『護衛職』、外出中の宿で同じ部屋で過ごす訳には行かない。ロレンツが言う。
「俺はおめえさんの『護衛職』、ここで一晩過ごす訳には……」
「イヤイヤイヤイヤーーーーー!!! イヤなの!!!」
酒に酔って真っ赤なアンナの顔。その目も涙を浮かべて赤くなっている。
「一緒がいいのぉ!!! いっちょぉ!!! もう、ひとりはイヤだよぉ……」
そう言って立ち上がりロレンツに抱き着いて泣き始めるアンナ。ロレンツはそんな彼女を優しく抱きしめ落ち着かせる。
「わ、分かった。とりあえず嬢ちゃんはまずはシャワー浴びて来な」
汚れたアンナをきれいにさせ、早く休ませてあげたかった。その意味で言ったロレンツだが、アンナには一瞬、全く別の意味で通じてしまった。
「ろれんっちゅ~」
アンナがロレンツをとろんとした目で見つめながら言う。
「ろれんっちゅのえっちぃ~、あんにゃを、手籠めにするのぉ~??」
「は!? ば、馬鹿、そういうんじゃねえ!!!」
慌てるロレンツを見てアンナが笑いながら言う。
「きゃははははっ!!! しょーだんよぉ、しょ~たん!!」
そう言いながらふらふらと千鳥足で歩き出すアンナ。バスルームのドアの前でゆっくりロレンツの方を振り返りながら言う。
「いっちょに、入るぅ~??」
「馬鹿言ってんじゃねえ!!」
「きゃははっ!! ろれんちゅ、こわ~い!!」
アンナはそう笑って言いながらバスルームへと消えて行く。
「はあ……」
ひとり部屋に残ったロレンツが頭をぼりぼりと掻く。
(まさか記憶が戻ってんじゃねえのか……)
そう思うほど酔った時の彼女は以前のようである。
「さて、俺もシャワーでも浴びてくるか。ゲロ臭せえ……」
ロレンツもひとり自分の部屋へシャワーを浴びる為に戻った。
「ふう……」
部屋に戻ったロレンツはシャワーを浴び、ソファーに座ってグラスに入れた水を一気に飲み干した。
「嬢ちゃん、大丈夫か……」
水を飲みながらも、酔ったまま部屋にひとり置いて来たアンナを心配するロレンツ。バスルームで滑って頭でも打っていたら大変である。ロレンツが思う。
(俺は『護衛職』、彼女の安全は何よりも優先すること……)
ロレンツは立ち上がると勢いよく部屋を出た。
コンコン……
「嬢ちゃん、入るぞ……」
返事がない。
不安になったロレンツが持っていた鍵でアンナの部屋に入る。
(いない……)
部屋の中にはアンナの姿はない。
靴もあり外出した形跡もない。そもそもあれだけ酔っていたら外など行けるはずもない。ロレンツは慌ててバスルームのドアを叩く。
ガンガン!!
「嬢ちゃん、いるか!!」
やはり返事はない。ロレンツの鼓動が早くなる。
「嬢ちゃん、開けるぞ!! いるなら返事しろ!!!」
バン!!!
そう言いながらロレンツがバスルームのドアを勢い良く開ける。
「嬢、ちゃん……」
アンナは更衣室で服を着たまま壁にもたれて座っていた。すぐにロレンツが額に手をやり生存を確認。無事眠っているだけと分かりふうと息を吐いて安堵する。
(シャワーは浴びたようだな)
座って眠っているアンナだが酔いながらもシャワーは浴び、宿の服に着替えている。ロレンツは脱衣所に脱いだままになっているゲロまみれのアンナの服を洗面台に置くと声をかけた。
「おい、嬢ちゃん。歩けるか? ここで寝ると風邪ひくぞ」
「う~ん、にゃむにゃむ……」
ぐっすりと眠っておりとてもひとりで歩ける状態ではない。
(やれやれ……)
ロレンツは座り込んでいるアンナを抱き上げると、そのまま部屋のベッドへと運び込んだ。ベッドの上で寝かされるアンナ。きちんと止められていない服のボタンや、ずれて肌が見えてしまっている太ももなどかなり色っぽい。
(なんて無防備なんだ。俺も男だぜ、一応……)
ロレンツはそんなアンナに布団をかけながらその無防備な寝顔を見つめる。寝息を立てて眠るその姿を見ていると昔のことが思い出されて来る。そして思う。
(出会えて良かった。本当に感謝している。嬢ちゃんが良けりゃ、ずっと俺がお前を……)
そこまで考えたロレンツは、脱衣場に放置されているアンナの服を思い出した。
「そうだな、服を洗わなきゃ明日来て帰る服がねえよな」
自分の服は既に洗濯済みである。
ロレンツはバスルームへ行き棚の上に置いたアンナの汚れた服を手にする。自分の服同様、ゲロまみれである。
ロレンツがそれを無言で洗い始める。幸い外出用のラフな服であった為洗いやすい。しかしそんなロレンツに最大の試練が訪れる。
(こ、これは……、下着!?)
当然ながらそこにはアンナの下着が一緒に置かれている。
まだ子供のイコのものなら洗ったことはあるが、大人の女性の下着を洗ったことなどない。と言うか触ったことすらない。
(こ、これはどうすればいいんだ……)
特に汚れてはいない。
とは言えこれだけをこのまま放置しておくのも不自然である。
(とりあえずこのまま服と一緒に干しておくか……)
別に濡れてもいないのに洗った服と一緒に干しだすロレンツ。干しながら思う。
(なんて小せえんだ。こんなんで大丈夫なのか……??)
アンナの小さな下着を干しながらロレンツが純粋に不思議に思う。とは言え今の状況を客観的に見れば何とも恥ずかしい姿であり、全身から汗が吹き出す。
「さて、こんなもんだな」
服を洗濯し終わったロレンツがバスルームを出てベッドの上で眠るアンナを見つめる。しかし彼女を見ながらあることに気付いた。
(ちょっと待て。下着を洗ったってことは、さっき俺が運んだ時は何もつけていなかったってことか!!??)
ロレンツの手に残るアンナの体の柔らかい感触。
ロレンツはこれ以上ここに居ると自分が抑えられなくなると思い、急いで自分の部屋へと帰って行った。
「う、ううん……」
翌朝ベッドで目を覚ましたアンナは、見知らぬ部屋を見て驚く。
「あれ? ここ、どこだろう……、そう言えば昨日お酒を飲んで……」
ロレンツと一緒に『覆面バー』に入ってお酒を飲んだ。そこまでは覚えている。
だがそこから先の記憶がない。そしてアンナを襲う二日酔いの頭痛。
「あいたたたた……、って、ええ!?」
服が違っている。
全く見覚えのない服を着ている。しかも下着を全くつけていない。
「やだ、これって……」
アンナの顔が真っ赤になりまさかの事態を想像する。
「ここはどこ? ロレンツさんは、どこにいるの??」
周りを見回す。どうやらどこかの宿屋のようだがどうしてここへ来たのか分からない。
「ううっ、気持ち悪い……」
アンナは取りあえず洗面所があるバスルームへと這うようにして移動する。そしてドアを開けて驚いた。
「え? ええっ!!??」
そこにはきちんと洗濯されて干されている自分の服。そして下着。
「な、なにこれ!? 私洗っていないし、一体誰が……、まさかロレンツさん??」
二日酔いの頭で予想外の状況を理解しようとする。あの武骨で無口な銀髪の男がまさか自分の下着を洗ったなど想像できない。
「と、とりあえず……」
アンナは干された服を手にしてもう乾いていることを確認。すぐに下着をつけ部屋着を着る。
コンコン
「嬢ちゃんいるか?」
「あ、ロレンツさん!」
そんなアンナの耳にロレンツがドアを叩く音が聞こえる。
「は、はい!! 今……」
二日酔いの頭を押さえながらアンナがドアを開く。ロレンツが言う。
「大丈夫か? 昨夜は随分酔っていたが」
アンナは改めて自分がまた酔って人に迷惑をかけたことを反省した。アンナは軽く謝罪をしてからロレンツを部屋に入れる。
「座って下さい……」
二日酔いの頭。喋るだけで頭が痛い。
ロレンツは椅子に座ると昨夜のことを説明した。飲み比べのこと、嘔吐したこと、バスルームで座って寝ていたからベッドへ運んだことなど。
(恥ずかしい!!)
覚えていないがやはり恥ずかしい。
そんなアンナを前に、ロレンツがぎこちない顔で言った。
「あ、その、なんだ……、服がないと困ると思って、置いてあった服を洗濯しておいた」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう答えながらもアンナに大きなロレンツが自分の下着を洗う姿が浮かぶ。だから思わず言ってしまった。
「あ、あの、ロレンツさん」
「なんだ?」
アンナが顔を赤くして言う。
「ネガーベルの習わしで、独身女性の下着を洗った男性は一生その女性の面倒を見なきゃいなきゃいけないってのがあるんです」
「え?」
ロレンツが真顔になってアンナを見つめる。
「い、いや、俺りゃ、そんなの知らなくて……」
二日酔いと少しの興奮が混ざったアンナ。
頬を赤くしてロレンツに言う。
「責任、取って下さいね」
ロレンツが立ち上がって狼狽する。
「い、いや、だから俺はそんなこと知らなくて……」
そんなロレンツをじっと見つめるアンナ。ロレンツが少し間を置いてから覚悟を決めて答える。
「わかっ……」
「冗談で~す!!」
「は?」
ベッドに座り笑い出すアンナ。
「きゃははははっ!!! ごめんなさーい、ちょっと悪い悪戯ですぅ!!」
「おいおい……」
ロレンツもそんな無邪気に笑うアンナを見て、もう怒る気など到底消え去っていた。
店を出たふたり。酒に酔って歩けなくなったアンナをロレンツが負ぶって歩く。夜も更け、通行人も少なくなったが、すれ違う人達はそんなふたりを微笑みながら見て行く。
「わたひぃ~頑張ってぇダイエットしてね~、うっ、うえっ、うおおぇぇ……」
「うわっ!! もういいから喋るな、嬢ちゃん!!」
同時に首から背中にかけて感じる生暖かい感触。酸味を帯びた匂い。ロレンツは首を振りながらまっすぐ歩く。
「ふう……」
泥酔したアンナ。ゲロまみれのロレンツ。
宿を数件当たってようやく泊めて貰えた部屋に入ったロレンツがため息をつく。アンナをソファーに下ろしたロレンツが言う。
「嬢ちゃん、後はひとりでいいな? 俺は自分の部屋に戻るから」
それを聞いたアンナ。ぐったりして天井を向いていたがすぐにロレンツを見て言う。
「ダメ~!! ろれんちゅもぉ~、一緒にねんねするのー!!」
「ねん……、い、いや、そりゃ無理だ!!」
アンナは頬を膨らませて言う。
「どーしてぇ?? どーしてぇ、ダメなの~?? あんにゃのこと、嫌いなのぉ??」
(うっ)
ゲロまみれだがそう言ってロレンツを見つめるアンナは可愛い。それでも姫と『護衛職』、外出中の宿で同じ部屋で過ごす訳には行かない。ロレンツが言う。
「俺はおめえさんの『護衛職』、ここで一晩過ごす訳には……」
「イヤイヤイヤイヤーーーーー!!! イヤなの!!!」
酒に酔って真っ赤なアンナの顔。その目も涙を浮かべて赤くなっている。
「一緒がいいのぉ!!! いっちょぉ!!! もう、ひとりはイヤだよぉ……」
そう言って立ち上がりロレンツに抱き着いて泣き始めるアンナ。ロレンツはそんな彼女を優しく抱きしめ落ち着かせる。
「わ、分かった。とりあえず嬢ちゃんはまずはシャワー浴びて来な」
汚れたアンナをきれいにさせ、早く休ませてあげたかった。その意味で言ったロレンツだが、アンナには一瞬、全く別の意味で通じてしまった。
「ろれんっちゅ~」
アンナがロレンツをとろんとした目で見つめながら言う。
「ろれんっちゅのえっちぃ~、あんにゃを、手籠めにするのぉ~??」
「は!? ば、馬鹿、そういうんじゃねえ!!!」
慌てるロレンツを見てアンナが笑いながら言う。
「きゃははははっ!!! しょーだんよぉ、しょ~たん!!」
そう言いながらふらふらと千鳥足で歩き出すアンナ。バスルームのドアの前でゆっくりロレンツの方を振り返りながら言う。
「いっちょに、入るぅ~??」
「馬鹿言ってんじゃねえ!!」
「きゃははっ!! ろれんちゅ、こわ~い!!」
アンナはそう笑って言いながらバスルームへと消えて行く。
「はあ……」
ひとり部屋に残ったロレンツが頭をぼりぼりと掻く。
(まさか記憶が戻ってんじゃねえのか……)
そう思うほど酔った時の彼女は以前のようである。
「さて、俺もシャワーでも浴びてくるか。ゲロ臭せえ……」
ロレンツもひとり自分の部屋へシャワーを浴びる為に戻った。
「ふう……」
部屋に戻ったロレンツはシャワーを浴び、ソファーに座ってグラスに入れた水を一気に飲み干した。
「嬢ちゃん、大丈夫か……」
水を飲みながらも、酔ったまま部屋にひとり置いて来たアンナを心配するロレンツ。バスルームで滑って頭でも打っていたら大変である。ロレンツが思う。
(俺は『護衛職』、彼女の安全は何よりも優先すること……)
ロレンツは立ち上がると勢いよく部屋を出た。
コンコン……
「嬢ちゃん、入るぞ……」
返事がない。
不安になったロレンツが持っていた鍵でアンナの部屋に入る。
(いない……)
部屋の中にはアンナの姿はない。
靴もあり外出した形跡もない。そもそもあれだけ酔っていたら外など行けるはずもない。ロレンツは慌ててバスルームのドアを叩く。
ガンガン!!
「嬢ちゃん、いるか!!」
やはり返事はない。ロレンツの鼓動が早くなる。
「嬢ちゃん、開けるぞ!! いるなら返事しろ!!!」
バン!!!
そう言いながらロレンツがバスルームのドアを勢い良く開ける。
「嬢、ちゃん……」
アンナは更衣室で服を着たまま壁にもたれて座っていた。すぐにロレンツが額に手をやり生存を確認。無事眠っているだけと分かりふうと息を吐いて安堵する。
(シャワーは浴びたようだな)
座って眠っているアンナだが酔いながらもシャワーは浴び、宿の服に着替えている。ロレンツは脱衣所に脱いだままになっているゲロまみれのアンナの服を洗面台に置くと声をかけた。
「おい、嬢ちゃん。歩けるか? ここで寝ると風邪ひくぞ」
「う~ん、にゃむにゃむ……」
ぐっすりと眠っておりとてもひとりで歩ける状態ではない。
(やれやれ……)
ロレンツは座り込んでいるアンナを抱き上げると、そのまま部屋のベッドへと運び込んだ。ベッドの上で寝かされるアンナ。きちんと止められていない服のボタンや、ずれて肌が見えてしまっている太ももなどかなり色っぽい。
(なんて無防備なんだ。俺も男だぜ、一応……)
ロレンツはそんなアンナに布団をかけながらその無防備な寝顔を見つめる。寝息を立てて眠るその姿を見ていると昔のことが思い出されて来る。そして思う。
(出会えて良かった。本当に感謝している。嬢ちゃんが良けりゃ、ずっと俺がお前を……)
そこまで考えたロレンツは、脱衣場に放置されているアンナの服を思い出した。
「そうだな、服を洗わなきゃ明日来て帰る服がねえよな」
自分の服は既に洗濯済みである。
ロレンツはバスルームへ行き棚の上に置いたアンナの汚れた服を手にする。自分の服同様、ゲロまみれである。
ロレンツがそれを無言で洗い始める。幸い外出用のラフな服であった為洗いやすい。しかしそんなロレンツに最大の試練が訪れる。
(こ、これは……、下着!?)
当然ながらそこにはアンナの下着が一緒に置かれている。
まだ子供のイコのものなら洗ったことはあるが、大人の女性の下着を洗ったことなどない。と言うか触ったことすらない。
(こ、これはどうすればいいんだ……)
特に汚れてはいない。
とは言えこれだけをこのまま放置しておくのも不自然である。
(とりあえずこのまま服と一緒に干しておくか……)
別に濡れてもいないのに洗った服と一緒に干しだすロレンツ。干しながら思う。
(なんて小せえんだ。こんなんで大丈夫なのか……??)
アンナの小さな下着を干しながらロレンツが純粋に不思議に思う。とは言え今の状況を客観的に見れば何とも恥ずかしい姿であり、全身から汗が吹き出す。
「さて、こんなもんだな」
服を洗濯し終わったロレンツがバスルームを出てベッドの上で眠るアンナを見つめる。しかし彼女を見ながらあることに気付いた。
(ちょっと待て。下着を洗ったってことは、さっき俺が運んだ時は何もつけていなかったってことか!!??)
ロレンツの手に残るアンナの体の柔らかい感触。
ロレンツはこれ以上ここに居ると自分が抑えられなくなると思い、急いで自分の部屋へと帰って行った。
「う、ううん……」
翌朝ベッドで目を覚ましたアンナは、見知らぬ部屋を見て驚く。
「あれ? ここ、どこだろう……、そう言えば昨日お酒を飲んで……」
ロレンツと一緒に『覆面バー』に入ってお酒を飲んだ。そこまでは覚えている。
だがそこから先の記憶がない。そしてアンナを襲う二日酔いの頭痛。
「あいたたたた……、って、ええ!?」
服が違っている。
全く見覚えのない服を着ている。しかも下着を全くつけていない。
「やだ、これって……」
アンナの顔が真っ赤になりまさかの事態を想像する。
「ここはどこ? ロレンツさんは、どこにいるの??」
周りを見回す。どうやらどこかの宿屋のようだがどうしてここへ来たのか分からない。
「ううっ、気持ち悪い……」
アンナは取りあえず洗面所があるバスルームへと這うようにして移動する。そしてドアを開けて驚いた。
「え? ええっ!!??」
そこにはきちんと洗濯されて干されている自分の服。そして下着。
「な、なにこれ!? 私洗っていないし、一体誰が……、まさかロレンツさん??」
二日酔いの頭で予想外の状況を理解しようとする。あの武骨で無口な銀髪の男がまさか自分の下着を洗ったなど想像できない。
「と、とりあえず……」
アンナは干された服を手にしてもう乾いていることを確認。すぐに下着をつけ部屋着を着る。
コンコン
「嬢ちゃんいるか?」
「あ、ロレンツさん!」
そんなアンナの耳にロレンツがドアを叩く音が聞こえる。
「は、はい!! 今……」
二日酔いの頭を押さえながらアンナがドアを開く。ロレンツが言う。
「大丈夫か? 昨夜は随分酔っていたが」
アンナは改めて自分がまた酔って人に迷惑をかけたことを反省した。アンナは軽く謝罪をしてからロレンツを部屋に入れる。
「座って下さい……」
二日酔いの頭。喋るだけで頭が痛い。
ロレンツは椅子に座ると昨夜のことを説明した。飲み比べのこと、嘔吐したこと、バスルームで座って寝ていたからベッドへ運んだことなど。
(恥ずかしい!!)
覚えていないがやはり恥ずかしい。
そんなアンナを前に、ロレンツがぎこちない顔で言った。
「あ、その、なんだ……、服がないと困ると思って、置いてあった服を洗濯しておいた」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう答えながらもアンナに大きなロレンツが自分の下着を洗う姿が浮かぶ。だから思わず言ってしまった。
「あ、あの、ロレンツさん」
「なんだ?」
アンナが顔を赤くして言う。
「ネガーベルの習わしで、独身女性の下着を洗った男性は一生その女性の面倒を見なきゃいなきゃいけないってのがあるんです」
「え?」
ロレンツが真顔になってアンナを見つめる。
「い、いや、俺りゃ、そんなの知らなくて……」
二日酔いと少しの興奮が混ざったアンナ。
頬を赤くしてロレンツに言う。
「責任、取って下さいね」
ロレンツが立ち上がって狼狽する。
「い、いや、だから俺はそんなこと知らなくて……」
そんなロレンツをじっと見つめるアンナ。ロレンツが少し間を置いてから覚悟を決めて答える。
「わかっ……」
「冗談で~す!!」
「は?」
ベッドに座り笑い出すアンナ。
「きゃははははっ!!! ごめんなさーい、ちょっと悪い悪戯ですぅ!!」
「おいおい……」
ロレンツもそんな無邪気に笑うアンナを見て、もう怒る気など到底消え去っていた。
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