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第四章「姫様の盾になる男」
58.ロレンツ、嫉妬する!?
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「あ、おかえりなさいませ。ご主人様!!」
アンナの公務の同行で外出し、夜分遅くなって部屋に戻って来たロレンツ。
イコの世話をお願いしていたメイド服姿のミンファが、ロレンツの帰りを笑顔で迎えた。
「ああ、今戻った。すまねえな」
「いえ。私の仕事でございますから!!」
ミンファは可愛らしいメイド服でにっこりと笑う。ロレンツは気のせいかそのスカート丈が以前より随分短くなっているじゃないかと思ったが、野暮なことを聞くことはよそうと思った。ミンファが言う。
「お洗濯に家事、掃除とお夕飯も作っておきました。お腹がお空きでしょ? ぜひ食べてください。ご希望であれば私が食べさせてあげます」
ロレンツはテーブルの上に置かれた夜食を見て頷いて答える。
「ああ、ありがとう。だが自分で食べられる。もうこんな時間だ。嬢ちゃんは帰んな」
ちょっと不満そうな顔になったミンファ。すぐに笑顔になって答える。
「はい、ありがとうございます。それでは失礼致します。ご主人様っ!!」
「ばいばーい、ミンファお姉ちゃん!!」
ミンファはそれに笑顔で手を振って応えた。
「ねえ、パパ」
ミンファが作ってくれた夜食を食べながらロレンツが答える。
「どうした?」
「明日ね、学校のお友達が家に来るんだけど、いい?」
「ああ、問題ない」
ロレンツは少し嬉しかった。
他国出身で元平民のイコと自分。成り行き上、貴族ばかりの王都学校に入ることになってしまい、イコが苛められてはいないかと常々心配であった。友達が来るというなら大歓迎だ。
「良かった。明日が楽しみ!」
「ああ、明日は俺も休みだからな」
ロレンツは嬉しそうに寝室へ行くイコを優しい眼差しで見つめた。
コンコン……
翌朝、朝食を終えコーヒーを飲んでいたロレンツがドアのノックに気付いた。ソファーに座っていたイコがぴょんと飛び上がって言う。
「あ、来た!!」
そのままドアへと嬉しそうに駆けて行く。ロレンツはコーヒーを飲みながらそれを頷いて見つめた。
「いらっしゃーい、アレックス君!!」
(なにっ!? 友達って言うのは、男なのか!?)
ロレンツはてっきり女友達が遊びに来るのだとばかり思っていた。
「お邪魔します!!」
イコに連れられてやって来たアレックスはくりッとした大きな目、金色のさらさらの髪が美しいイケメン少年だった。アレックスはロレンツの前まで来ると丁寧にお辞儀をして挨拶をした。
「初めまして、ロレロレさん。僕はアレックス・イルフォードと申します。本日はお招き頂きまして誠にありがとうございます」
アレックスはそう言うと手にしていた菓子折りを差し出した。それを受け取りながらロレンツが思う。
(ガ、ガキのくせになんて礼儀正しいんだ!? 生意気なクソガキだったらぶん殴ってやろうかと思ったんだが……)
ロレンツはコーヒーを飲みながら無表情で言う。
「ああ。まあ、ゆっくりしてきな」
「ありがとうございます」
アレックスは大人顔負けに頭を下げてお礼を言う。それを見ていたイコがロレンツに言う。
「パパ~」
「なんだ?」
イコがロレンツとアレックスを見て言う。
「アレックス君はね、パパの大ファンなんだよ!」
「なに!?」
思ってもみなかった言葉。
そう言われたアレックスが持っていた鞄の中からひと振りのおもちゃの剣を取り出す。それは真っ黒な剣。子供用の小さな剣だが、間違いなくロレンツの『呪剣』を模したものだ。アレックスが緊張しながら言う。
「ロレロレさんに憧れています! この剣にサイン、頂けませんか?」
ロレンツはあまり触れて欲しくない『呪剣』のことを思い、断ろうと口を開く。
「ああ、それな。お前ら子供には……」
空気を読んだイコがすかさず口を挟む。
「パパ」
「なんだ、イコ?」
イコがロレンツとアレックスの間に入って言う。
「うちのクラスの男子ね、ロレロレ派とエルグ派に分かれてるんだよ」
「ロレロレ派……、だと!?」
ロレンツがその言葉を繰り返す。イコが言う。
「そうだよ。今はちょっとエルグ派が勝っちゃってるんだけど、イコはパパに頑張って欲しいなあぁ、って思ってるんだ」
(エルグ派に、負けている……)
ロレンツはすぐに手を差し出して言った。
「貸しなさい、少年。サイン位幾らでもしてやろう」
「あ、ありがとうございます!!!」
ロレンツはしたこともないサインを必死にアレックスが作った黒い剣にする。それを見たアレックスが嬉しそうな表情で言う。
「やったー!! これ家宝にするぞ!!」
それを満足そうに見つめるイコ。アレックスに言う。
「じゃあ、アレックス君。お茶にしようか」
「ああ、イコちゃん」
そう言うとアレックスは部屋のソファーへと移動する。イコはキッチンへ行きお湯を沸かし紅茶の準備を始める。コーヒーを飲みながらそれを見ていたロレンツが驚いて固まる。
(イコが、イコが紅茶を淹れているだと!? 俺はそんなことして貰ったこと一度もないんだが……)
娘の成長を喜ばなければならない場面だが、ロレンツはなぜか怒りの感情の方が強くなる。
「パパぁ」
「な、なんだ!!」
紅茶を勧めてくれると思って喜んだロレンツに、非情な言葉が掛けられる。
「クッキーがないの。買って来て」
(なっ!?)
お遣いの命令である。しかもアレックスの分の。
(なぜ俺が……)
そう思いながらもイコの命令には逆らえず、ロレンツは渋々城内の店へと買いに行った。
「買って来たぞ、イコ……」
急いでクッキーを買って来たロレンツ。
しかしドアを開けて娘の姿を見て唖然とした。
「お、おい、イコ。なんだその格好は……」
それは濃紺のドレスに白のエプロン。頭には白のホワイトブリム。可愛らしい格好ではあったが、それはあるはずのないメイド服であった。イコが嬉しそうに言う。
「可愛いでしょ、パパ」
可愛い。
だがなぜそんな物を持っている?
「ミンファお姉ちゃんに貰ったの。イコも欲しいって言ってたら作ってくれたんだ」
短めのスカートもミンファのものと同じ。ロレンツは頭が痛くなってきた。
一方のアレックスは、ロレンツがサインをした黒刀を手に静かにソファーに座っている。ロレンツはため息をつきながらクッキーをイコに渡し、テーブルに戻ってコーヒーを飲み始める。
イコがクッキーの箱を開け、メイド服姿でアレックスにそれを渡しながら言う。
「はい、アレックス君。食べてね」
アレックスがぶっきらぼうに答える。
「俺に触るんじゃねえ。火傷するぜ」
(ぶっ!!)
思わずコーヒーを吹き出しそうになったロレンツ。
(お、俺がいつそんなキザなセリフを言ったんだ!!??)
一体学校で何が流行っているのだろうかと首を傾げるロレンツ。しかしそんな彼をアレックスの前に仁王立ちになり、イコが言った言葉が更に驚愕させた。
「なにそれ!? あなた馬鹿じゃないの!? 馬鹿でしょ、やっぱり馬鹿なんでしょ!!」
(お、おい、待て。そりゃ、まるで嬢ちゃんじゃねえか……)
そんなのどこで覚えたんだろう。見られたことはないはずなのに。
その後もふたりはロレンツとお姫様ごっこをして遊び、夕方過ぎアレックスは丁寧にお礼を言って帰って行った。
ふたりで片づけをしながらロレンツがイコに尋ねる。
「なあ、イコ。お前はああいうのがタイプなのか?」
それを聞いたイコが吹き出しそうになりながら答える。
「パパ、なに言ってるの~? ただの遊びよ、遊び」
「そ、そうなのか……」
ロレンツはそう答えたものの、彼女の言葉の意味は全く分からなかった。イコが言う。
「ねえ、パパ」
「なんだ?」
「お茶飲む? さっきのが余ってるんだ」
「お茶?」
イコはロレンツが紅茶を飲まないことを思い出して言う。
「あ、パパは甘いものが苦手だったよね。じゃあ……」
「貰う、淹れてくれ。俺は紅茶が好きになったんだ」
ロレンツはすぐに答えた。
イコは元気に「はーい」と答えるとすぐにロレンツの為に紅茶の準備を始めた。
アンナの公務の同行で外出し、夜分遅くなって部屋に戻って来たロレンツ。
イコの世話をお願いしていたメイド服姿のミンファが、ロレンツの帰りを笑顔で迎えた。
「ああ、今戻った。すまねえな」
「いえ。私の仕事でございますから!!」
ミンファは可愛らしいメイド服でにっこりと笑う。ロレンツは気のせいかそのスカート丈が以前より随分短くなっているじゃないかと思ったが、野暮なことを聞くことはよそうと思った。ミンファが言う。
「お洗濯に家事、掃除とお夕飯も作っておきました。お腹がお空きでしょ? ぜひ食べてください。ご希望であれば私が食べさせてあげます」
ロレンツはテーブルの上に置かれた夜食を見て頷いて答える。
「ああ、ありがとう。だが自分で食べられる。もうこんな時間だ。嬢ちゃんは帰んな」
ちょっと不満そうな顔になったミンファ。すぐに笑顔になって答える。
「はい、ありがとうございます。それでは失礼致します。ご主人様っ!!」
「ばいばーい、ミンファお姉ちゃん!!」
ミンファはそれに笑顔で手を振って応えた。
「ねえ、パパ」
ミンファが作ってくれた夜食を食べながらロレンツが答える。
「どうした?」
「明日ね、学校のお友達が家に来るんだけど、いい?」
「ああ、問題ない」
ロレンツは少し嬉しかった。
他国出身で元平民のイコと自分。成り行き上、貴族ばかりの王都学校に入ることになってしまい、イコが苛められてはいないかと常々心配であった。友達が来るというなら大歓迎だ。
「良かった。明日が楽しみ!」
「ああ、明日は俺も休みだからな」
ロレンツは嬉しそうに寝室へ行くイコを優しい眼差しで見つめた。
コンコン……
翌朝、朝食を終えコーヒーを飲んでいたロレンツがドアのノックに気付いた。ソファーに座っていたイコがぴょんと飛び上がって言う。
「あ、来た!!」
そのままドアへと嬉しそうに駆けて行く。ロレンツはコーヒーを飲みながらそれを頷いて見つめた。
「いらっしゃーい、アレックス君!!」
(なにっ!? 友達って言うのは、男なのか!?)
ロレンツはてっきり女友達が遊びに来るのだとばかり思っていた。
「お邪魔します!!」
イコに連れられてやって来たアレックスはくりッとした大きな目、金色のさらさらの髪が美しいイケメン少年だった。アレックスはロレンツの前まで来ると丁寧にお辞儀をして挨拶をした。
「初めまして、ロレロレさん。僕はアレックス・イルフォードと申します。本日はお招き頂きまして誠にありがとうございます」
アレックスはそう言うと手にしていた菓子折りを差し出した。それを受け取りながらロレンツが思う。
(ガ、ガキのくせになんて礼儀正しいんだ!? 生意気なクソガキだったらぶん殴ってやろうかと思ったんだが……)
ロレンツはコーヒーを飲みながら無表情で言う。
「ああ。まあ、ゆっくりしてきな」
「ありがとうございます」
アレックスは大人顔負けに頭を下げてお礼を言う。それを見ていたイコがロレンツに言う。
「パパ~」
「なんだ?」
イコがロレンツとアレックスを見て言う。
「アレックス君はね、パパの大ファンなんだよ!」
「なに!?」
思ってもみなかった言葉。
そう言われたアレックスが持っていた鞄の中からひと振りのおもちゃの剣を取り出す。それは真っ黒な剣。子供用の小さな剣だが、間違いなくロレンツの『呪剣』を模したものだ。アレックスが緊張しながら言う。
「ロレロレさんに憧れています! この剣にサイン、頂けませんか?」
ロレンツはあまり触れて欲しくない『呪剣』のことを思い、断ろうと口を開く。
「ああ、それな。お前ら子供には……」
空気を読んだイコがすかさず口を挟む。
「パパ」
「なんだ、イコ?」
イコがロレンツとアレックスの間に入って言う。
「うちのクラスの男子ね、ロレロレ派とエルグ派に分かれてるんだよ」
「ロレロレ派……、だと!?」
ロレンツがその言葉を繰り返す。イコが言う。
「そうだよ。今はちょっとエルグ派が勝っちゃってるんだけど、イコはパパに頑張って欲しいなあぁ、って思ってるんだ」
(エルグ派に、負けている……)
ロレンツはすぐに手を差し出して言った。
「貸しなさい、少年。サイン位幾らでもしてやろう」
「あ、ありがとうございます!!!」
ロレンツはしたこともないサインを必死にアレックスが作った黒い剣にする。それを見たアレックスが嬉しそうな表情で言う。
「やったー!! これ家宝にするぞ!!」
それを満足そうに見つめるイコ。アレックスに言う。
「じゃあ、アレックス君。お茶にしようか」
「ああ、イコちゃん」
そう言うとアレックスは部屋のソファーへと移動する。イコはキッチンへ行きお湯を沸かし紅茶の準備を始める。コーヒーを飲みながらそれを見ていたロレンツが驚いて固まる。
(イコが、イコが紅茶を淹れているだと!? 俺はそんなことして貰ったこと一度もないんだが……)
娘の成長を喜ばなければならない場面だが、ロレンツはなぜか怒りの感情の方が強くなる。
「パパぁ」
「な、なんだ!!」
紅茶を勧めてくれると思って喜んだロレンツに、非情な言葉が掛けられる。
「クッキーがないの。買って来て」
(なっ!?)
お遣いの命令である。しかもアレックスの分の。
(なぜ俺が……)
そう思いながらもイコの命令には逆らえず、ロレンツは渋々城内の店へと買いに行った。
「買って来たぞ、イコ……」
急いでクッキーを買って来たロレンツ。
しかしドアを開けて娘の姿を見て唖然とした。
「お、おい、イコ。なんだその格好は……」
それは濃紺のドレスに白のエプロン。頭には白のホワイトブリム。可愛らしい格好ではあったが、それはあるはずのないメイド服であった。イコが嬉しそうに言う。
「可愛いでしょ、パパ」
可愛い。
だがなぜそんな物を持っている?
「ミンファお姉ちゃんに貰ったの。イコも欲しいって言ってたら作ってくれたんだ」
短めのスカートもミンファのものと同じ。ロレンツは頭が痛くなってきた。
一方のアレックスは、ロレンツがサインをした黒刀を手に静かにソファーに座っている。ロレンツはため息をつきながらクッキーをイコに渡し、テーブルに戻ってコーヒーを飲み始める。
イコがクッキーの箱を開け、メイド服姿でアレックスにそれを渡しながら言う。
「はい、アレックス君。食べてね」
アレックスがぶっきらぼうに答える。
「俺に触るんじゃねえ。火傷するぜ」
(ぶっ!!)
思わずコーヒーを吹き出しそうになったロレンツ。
(お、俺がいつそんなキザなセリフを言ったんだ!!??)
一体学校で何が流行っているのだろうかと首を傾げるロレンツ。しかしそんな彼をアレックスの前に仁王立ちになり、イコが言った言葉が更に驚愕させた。
「なにそれ!? あなた馬鹿じゃないの!? 馬鹿でしょ、やっぱり馬鹿なんでしょ!!」
(お、おい、待て。そりゃ、まるで嬢ちゃんじゃねえか……)
そんなのどこで覚えたんだろう。見られたことはないはずなのに。
その後もふたりはロレンツとお姫様ごっこをして遊び、夕方過ぎアレックスは丁寧にお礼を言って帰って行った。
ふたりで片づけをしながらロレンツがイコに尋ねる。
「なあ、イコ。お前はああいうのがタイプなのか?」
それを聞いたイコが吹き出しそうになりながら答える。
「パパ、なに言ってるの~? ただの遊びよ、遊び」
「そ、そうなのか……」
ロレンツはそう答えたものの、彼女の言葉の意味は全く分からなかった。イコが言う。
「ねえ、パパ」
「なんだ?」
「お茶飲む? さっきのが余ってるんだ」
「お茶?」
イコはロレンツが紅茶を飲まないことを思い出して言う。
「あ、パパは甘いものが苦手だったよね。じゃあ……」
「貰う、淹れてくれ。俺は紅茶が好きになったんだ」
ロレンツはすぐに答えた。
イコは元気に「はーい」と答えるとすぐにロレンツの為に紅茶の準備を始めた。
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