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眠りん

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十七話 孤独

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 それから皇樹は匠に猛アタックした。
 毎日匠に、

「今日は俺と付き合う気になったか?」

 とか、

「気が変わってきたか?」

 等、匠の様子を見ては撃沈している。匠の返事は毎回同じだった。

「藤倉君と付き合いたくありません」

 同じ敬語だが、奴隷の時に言うような敬語とは訳が違う。声色も冷えきったもので、淡々と業務をこなすように拒絶をしている。
 誰が見ても脈がないのは明らかで、皇樹は周囲を取り巻いていた女子からも見放された。

 そんな冷たい匠も、セックスの誘いなら機嫌良く応じた。だが……恋人がするような甘いセックスをしようとすると、匠が中断して帰ってしまう。
 性奴隷扱いをしなければ捨てられるのは自分だと、必死で匠に気に入られるようにプレイをするが──。


「なんか……飽きてきちゃったな。もう終わりにしよっか、藤倉君?」

 と、ついに終わりを告げられてしまった。

「なんで!? いやだ、やだよ、やだっ。俺の事捨てないで。ねぇ、匠! 待って匠!」

 匠が喜ぶ様に激しいプレイをした直後、匠はさっさと服を着替えると、皇樹のマンションから出ていこうとする。
 皇樹は匠の袖を掴んで制止した。

「でも、そろそろ受験勉強しなきゃだよ?」

「一緒に勉強しよ。匠と同じ高校行きたい」

「僕の志望校、藤倉君が行ける高校よりランク下だよ?」

「いい、そんなのどうでも。匠がいない生活なんて……考えたくないよ。なぁ、次は俺が奴隷になる。匠の言う事なんでもきく。だから捨てないでお願い」

「どうしよっかなぁ。でもこんな大きな子供要らないし。ご主人様でいてくれない藤倉君は正直、一緒にいるメリットないっていうか」

「なる。匠のご主人様になる。だから捨てないでぇ!!」

「じゃあチャンスをあげようね」

「うん!」

「僕に近寄らない、話し掛けない。受験終わるまで出来る? 正直、藤倉君がそうやってしつこいと僕の勉強に支障きたすんだよ」

「じゃあしつこくしないから、そんな事言わないで」

「僕に時間が欲しい。終わったらちゃんと君に向き合うから。一度でも話しかけてきたら、もう藤倉君とはそこで終わり、分かった?」

 皇樹が泣きながら頷くと、匠は一度だけ皇樹の頭を撫でて去っていった。
 そこまで言われてしまえば匠と距離を置くしかなかった。皇樹は、もう匠の言うようなご主人様にはなれないと確信していた。
 次に匠が皇樹と言葉を交わす時が本当の最後なのだと、そんな気がしていた。


 行事ごとも、クリスマスも、年末年始も、クラスメイト達と過ごすのは、匠と過ごす一万分の一程度の価値しか感じられなかった。

 冬休みの最終日、受験前にパーッと遊ぼうという事になり、クラスの男友達や女友達、合わせて七人で街を歩いていた。
 これからボーリングでも行こうとワイワイ盛り上がっていたが、皇樹は無言でついて行っただけだ。
 そんな皇樹の様子に、友人の一人が不満げな声を上げた。

「なぁ藤倉、ノリ悪くね?」

「うるせぇよ」

 匠がいない生活を受け入れてから、生きた心地がしないのだ。ノリが良ければいいとも思えず、皆の後を黙々とついていくだけだった。

 匠に関わる前までは皇樹が先陣を切っていたのだ。一人テンションの低い皇樹を不満に思うのは仕方のない事だ。

「……やっぱ帰るわ」

 皇樹はクラスの仲間から離れて一人で駅へと向かった。

「待って!! 王子!!」

 背後から女子の声が響いた。皇樹に恋をして、匠に悪さをした女の子だ。皇樹を華やかに盛り上げる為の飾りにする為に友達付き合いをしていた相手だ。

 王子という、あだ名で呼ばれるのも違和感でしかない。以前は王子と呼ばれたら天狗になっていたが、今は誇大表現でしかないと思っている。

 王子なんて身分じゃない。恋愛すらまともに出来ないただの人間だ。王子じゃない──と歯ぎしりをした。

「ねぇ、皆怒ってるわけじゃないんだよ。ただ心配なだけ」

「ごめん。話し掛けないで欲しい……」

「須藤のせい?」

「えっ?」

「須藤のせいでしょ? 須藤と絡まなくなってから、王子、なんだかおかしいよ。
 友達なんて沢山いるんだし、たった一人くらいいなくても、皆いるよ!」

「お前に匠の何が分かるんだよ!!」

 咄嗟に怒鳴ってしまい、皇樹は手で口を押さえた。クラスメイトの女子は目に涙を溜めて走って行ってしまった。

「匠の何が分かるんだよ。俺だって知らないのに……」


 一人ドボドボと駅に向かって沢山の人にもみくちゃにされながら電車に乗った。その時、電車内で痴漢をされている女性を見た。
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