嘘つきな俺たち

眠りん

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三十一話 胸の痛み

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 潤のお義父さんは風花ちゃんの日記を見て目を少し大きくさせた。

「あの、俺、風花ちゃんと中学二年の時同級生だったんです。三年になって転校したと聞いていましたが、でも実際は自殺したと……」

「ちょっと待ってくれ。自殺した、というのは潤から聞いたのか?」

 なんだかお義父さんの様子がおかしい。眉間に皺を寄せている。

「はい。実は、中学二年生の時、俺は風花ちゃんに告白したんですが、酷い暴言を吐いてしまいました。そのせいで風花ちゃんは自殺したと……。
 それは……本当に反省してます」

「違う。それは違う。娘は……風花は、中学一年の時交通事故で亡くなったんだ」

 お義父さんが何言ってるか頭に入ってこない。ていうか、意味が分からない。

「は? ……え? いやいや、俺、風花ちゃんが中学二年の時に転校してきて、同じクラスだったんですよ」

「すまない。驚くだろうが、聞いて欲しい。それは潤なんだ」

「はい?」

「中学二年のクラスに潤が風花として転校したんだ」

 しん……と時間が止まった気がした。
 思考が上手く働かない。俺の初めて本気で恋をした女の子──風花ちゃんは潤だったって?

 いやいや、まさか。まさか。まさか。
 そんな事信じたくない。だって、俺、俺──潤に恋をしてたって事になるじゃないか。

「なんでそんな事……」

「あの頃風花が死んで、妻がおかしくなったんだ。潤は母親の為に、風花になる事を選んだ。
 妻は潤に注ぐべき愛を全て風花に与えていたから、きっと潤はそれを感じ取っていたんだろう」

「それで潤が女装して俺のいた中学に通ってたって?」

「そうだ」

 沸々と怒りが込み上げてきた。だっておかしいだろ? 俺、風花ちゃんは俺の暴言のせいで自殺したって聞いたんだぞ。

 だから、潤のいう事は全部聞いた。それが贖罪になると思ったから。
 ──その前提が違ったとしたら。

「じゃあ潤がまた転校していった理由は?」

「母親が亡くなって、もう風花のふりをする必要がなくなったんだ」

「じゃあ俺……あいつに騙されて……?」

 震えが止まらない。
 あんなに潤に謝って、脅迫されて性処理道具みたいな扱い受けて、でも俺は償わなきゃって思ってた。

 潤の事知れば知る程、心を許してた。
 優しくて、穏やかで、綺麗な人だって思ってたのに。

 俺の中のアイツが腐っていく。汚くて、気持ち悪い、汚物のように思えてきてならない。

「何があったのか、話してくれないか?」

 俺が嫌悪感を表面に出したからか、潤のお義父さんが優しい顔で聞いてくれた。

 俺は、高校生になってから、潤にされた事を話した。
 風花ちゃんは俺のせいで自殺したって。償いに身体の関係を強要されたと。

 話してしまうと、潤のお義父さんは少し待っててくれと店を出た数十分後に戻ってきて俺に封筒を渡してた。

「五十万入ってる」

 言葉の意味が分からない。

「それは……どういう?」

「これで忘れてくれ。あの子には俺からキツく言っておく。なんなら高校もやめさせて、君には近付かないようにさせる」

「誰にも言うなって事……」

 本当、血の繋がりって関係ないんだな。
 父親と子供で似てるじゃねぇか。優しい顔をしながらやってる事は、金で脅して俺を操作しようとしてる。
 コイツも、潤も、内面の醜さは同じだ。

「ふざけんな。そんなんで忘れられるかよ」

「橋村君」

「言わねぇよ! つか、言えるかよ」

 金は受け取らずに、潤のお義父さんを放置して店を出た。不愉快でたまらない。

 あーもう許さねぇ。せめて潤には報復しなきゃ。今までされてきた事、何倍にして返してやる! そう決めた。


 そろそろ学校も終わる時間になって、俺は潤の家の前で待つ事にした。
 いつまで経っても帰ってこないからイライラする。
 少しして、ようやく潤が帰ってきた。

 いつもと同じような優しい顔で、心配してるような態度だった。
 もう潤を綺麗な人とは思えなかった。

 めちゃくちゃに穢してやりたい気持ちを押さえられずに、潤を犯した。犯して、ボロボロにしてやった。
 不思議と罪悪感とかはなくて、内心ザマァミロって思ったのに……。

 なのに、胸の奥は痛くてたまらなかった。
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