嘘つきな俺たち

眠りん

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三十話 聞きたい

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 その男性は、後ろに若い男女四人を連れて帰ってきた。いつもは車だと潤から聞いているけど、今日は徒歩で帰宅したらしい。

「こんにちは!」

「あ、こんにちは。君は確か潤の……」

「はい。友人の橋村です」

「良かったら君も中に入るかい?」

 優しそうな笑みの男性。でも俺知ってるよ。こういう裏を見せない人って、腹の中で何を隠しているか分かったもんじゃないって。
 潤と同じだ。

「いえ。あの、聞きたい事がありまして、明日の昼とか会えませんか?」

「昼休憩中なら……でも学校は?」

「休みます。お願いします、絶対に知りたい事なんです!」

 頭を下げると、連絡先を交換してくれた。

「あの、この事は潤には……」

「分かった。言わないよ。君達もここで見聞きした事は他言無用だ。息子にも」

 潤のお義父さんがそう言うと、彼らはハイ!と従った。


 帰ってからは、ずっと潤のお義父さんに何を言うか頭の中を整理していた。
 あんまり頭良くないから、ノートに箇条書きで書き出して、どう言うかを纏めていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「はい」

 そう応えると、扉を開けてきたのは姉貴だ。
 珍しい。いつもなら勝手に開けてきて、罵声を浴びせてくるのに。

「あのさ……あんたの彼氏の……アイツ……」

 姉貴は良くも悪くも、ハッキリと物言う性格だ。それで友達も少ない方だし、彼氏作るのも苦労してるみたいだけど、俺はそんなところも、強くて凛々しくて好きだと思ってる。
 歯切れの悪い言い方に違和感を覚えた。

「潤がどうかした?」

「人を殺したって言ってたんだけど、何か知ってる?」 

「はぁ? 潤が? まさかぁ」

「だよね……なんでもない」

 すぐに姉貴は部屋から出てしまった。まともに話したの、いつぶりだろう。
 どうして姉貴に変な態度を取ってしまうのか自分でも分からない。

 好きな人には、昔から素直になれないんだ。
 幼稚園生の時は、好きな女の子の髪留めを取って「お前には似合わねーよ」って言ってしまったし、小学生の時も色んな子に「ブス」とか「近寄んな、バカが移る」とか言ってしまっては後悔していた。

 好きな人を傷付けてしまうから、部活に専念して恋愛なんてしないように、好きな子に近寄らないようにしていたのに。
 風花ちゃんを好きになってしまって、また傷付けてしまったと思った。


 俺は咄嗟に潤の家から持ってきてしまった風花ちゃんの日記を開いた。
 ゆっくりと一ページずつ読んでいくと、やはりおかしいと思う。

 まず性格だ。
 俺の知っている風花ちゃんは友達は作らず、大人しく一人で本を読んでいた。
 けれど、日記の中の風花ちゃんは明るくて、友達の話ばかりしていて、素直だ。

 あと……中学生の時にノートを見た事あるけど、風花ちゃんはこんなに字が汚くなかった。
 日記だからかもしれないけど、お世辞には綺麗な字とは言えない。

 因みに潤は字が綺麗だ。兄妹だから似てるんだろうと思っていたけど……。
 ならこの日記は……? 俺の考え過ぎだろうか。

 あと、言葉遣いだ。中学二年生の頃、風花ちゃんは敬語で、おっとりした喋り方だった。
 家の中では違うのかもしれないけど、日記の中の風花ちゃんは結構流行り言葉を使っている。
 正直、俺が見てもよく分からない単語が頻繁に出てくる。

 確か、中学のバスケ友達が、風花ちゃんが男みたいな喋り方したって言ってたな……。あれはなんだったんだろう。
 聞き間違いだろって冷たくしちゃったけど、実は男勝り?

 まぁ色々ある疑問は、明日潤のお義父さんに会ったら解消しよう。


 あまり眠れないまま翌日を迎えた。学校には親のフリして休む電話を入れた。多分バレてるかもしれないけど。

 両親は共働きだし、姉貴は大学。俺は一度学校に行くフリをして家に戻ってきた。そして、私服に着替えてまた外に出た。

 未成年が平日の昼に外に出ていると不審だから、一応マスクをしておく。もし何か聞かれたら体調不良で病院って言うつもり。
 けど、そんな心配は全く要らなかった。昼前には潤のお義父さんの職場前に着いたので、時間を潰しながら待つと、潤のお義父さんは空に向かってそびえ立っている様なビルから出てきた。

「潤のお義父さん。休憩中にすみません」

「いや。ここまで来てもらってすまない」

「いいえ」

「それで? 聞きたい事はなんだい?」

 俺はカバンから風花ちゃんの日記を取り出して、お義父さんの前に置いた。
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