嘘つきな俺たち

眠りん

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二十一話 お義父さんの為に

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「ごめん、怜治!」

 部屋に入ると、怜治が何故かビクッと驚いた様子だ。まるで、悪い事をしている時に警察が来た、みたいな。
 何故かバツが悪そうな顔をしている。

「な……なに? 電話終わったんだ?」

「うん。お義父さん帰ってくるんだ。悪いけど、帰ってもらってもいいかな? ちょっとこれから忙しくて。お姉さんの話は明日、昼休みにしよう」

「……うん。そう、するよ」

 怜治を玄関まで見送った。
 それから大仕事だった。お義父さんからラインで連絡があって、来る人数は五人。
 まず少し散らかっている部屋を掃除して、その人数分の料理を作った。
 お義父さんが世話になっている人達に失礼のないように、と出迎える準備もする。

 お義父さんは七時頃に帰ってきた、連れて来た人達は男性ばかりの中に女性が一人。
 挨拶をしてから料理や酒類やお茶、ジュースをふるまった。
 女性の方に「良い息子さんですね」と褒められるのも嬉しいけど、そう言われたお義父さんが照れて、俺に微笑みかけてくれるのはもっと嬉しかった。

 和気あいあいと談笑を終え、皆帰った後にお義父さんと二人で後片付けをする。二人で洗い物をしていると、お義父さんが自然と会話を始めた。

「今日はありがとうな。裕子に似てしっかりしてる」

 なんで母さん引き合いにして、俺を褒めるの? それ嬉しくない。

「もう大人だし。本当は十八歳だよ」

「それでもだよ。すまない、まだ心の傷も癒えていないだろうに、裕子の話をしてしまって」

 俺が不機嫌になったのを、お義父さんは暗くなったと勘違いしてくれたようだ。

「母さん、俺を恨んでるんだろうね」

「まさか。大事な息子を恨む筈がない」

 そんな事ない。俺の事、本当は嫌いだったみたいだし、妹さえいれば俺は要らなかったんだ。

「まさか、潤。君が死なせてしまったと思っているのか? それは違う。偶然女装がバレてしまって、ショックで亡くなってしまった」

 俺がキレてバラしたんだよ。
 酷い暴言を吐いた。言ってはならない事を言ったせいだ。

「けど、それは事故だ。母さんは風花が亡くなってから廃人のようだったのに、それをあそこまで回復させてくれたのは、潤のお陰なんだ」

 母さんの為じゃないよ。全部、俺があなたに褒められたかったから。それだけで、俺はなんでも出来たからなんだよ。──なんて、言わないけど。

「そうかな?」

「そうだよ」

「お義父さん……ありがとう」

 涙を浮かべて、悲しげに笑ってみせる。良い息子を演じるのは、お義父さんの為なら苦じゃないよ。

「潤、そういえば、帰る時家の前で……」

「何?」

「いや、なんでも。猫がいて写真を撮ろうとしたが逃げられてしまったんだ」

「ふぅん?」

 何を言おうとしたのか? 大した話じゃないだろうと、気にせずにスルーした。


 翌日、学校に行くといつも擦り寄ってくる怜治がいなかった。

「おはよう、関原」

 最初に声を掛けてきたのは中川だ。

「おはよ。あれ、怜治は?」

「それが……昨日熱出たって言って、休んでる。聞いてないのか?」

「聞いてない」

「珍しいな。真っ先に関原に言いそうなのに」

「俺が昨日忙しいって言ったからかも」

「でも橋村って、そういう気遣い出来る奴じゃないと思うんだけどなぁ」

 友達の評価がそれでいいのか。まぁ怜治だから許されるんだろう。
 そこまでの信頼関係があるとも言える。

「そういう時もあるんだろうね」

 話が終わると、中川は自分の友達の元へ戻ったので、俺は一人で授業の準備を始めた。

 怜治……。昨日の帰り際の様子もおかしかったし、どうしたのか聞かないとな。
 俺が橋村姉を脅したのがバレた? 女装してるのもバレたのかもしれない。

 バレたところで……って気持ちもあったから口止めもしなかったし。
 最初は姉の方から俺を攻撃しようとしてきたわけだし。やり過ぎた部分も否めないけど。
 アイツ、シスコンだから怒ってるのかもな。

 今日の帰り、寄ってみるか。
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