少年売買契約

眠りん

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三章 彼に向かう想いは

十五話 柳瀬と

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 放課後になり、サッカー部に入りたい春哉は、山下と別れてグラウンドを見に行った。
 グラウンドはいくつかあるが、その一つはサッカー部用に作られたフィールドになっている。

「わぁ、すごい!」

 まだ部活勧誘が始まっていないので入れないが、フェンスの外から眺める事は出来る。

「あれ、須賀君?」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、柳瀬の姿があった。

「あっ、柳瀬君だ! 柳瀬君もサッカー部?」

「おう。須賀君……須賀でいい?」

「うんいいよ、柳瀬!」

「ははっ。須賀はサッカー部なんだ?」

「うん! 小学生ぶりなんだけどね、僕サッカー好きなんだ!」

「中学は?」

「病気で学校行ってないんだ」

「それでか」

「それでって?」

 春哉は首を傾げる。柳瀬が何を言いたいのか分からない。

「いや。作ってるんだったら痛い奴だと思ったけど、小学生の時のまま止まってるなら仕方ねぇなって」

「え、僕小学生みたい?」

「かなり。ウザいって思われるぞ」

「そうなの!? 僕どうしたらいいかな?」

「その喋り方とか、直した方がいいかもな。近くに大人いないの?」

「むしろ大人しかいないよ」

「特に大人の男の真似してみるのもいいかも」

 近くにいる大人で男と言えば、父親、影井、峰岸くらいだ。彼らを思い出して真似する事にした。

 少し睨むように目を細めて腕を組み、沈黙をする。

「……」

「どうした?」

「いいや、なんでもない」

「もしかして、それ近くにいる大人の真似か?」

「ああそうだ。なるべくこうしているとしよう」

 柳瀬はプッと吹き出した。見た目もそこまで大人に見えない春哉が、壮年の男のような佇まいをしているのは似合っていない。

「あははははっ、なんだよそれ。なんか偉そうな奴だなぁ、おもしれぇ」

「へ、変?」

「あはは、おかしい」

「一番近い人の真似したんだよ。物静かなインテリだよ。すっごく優しい人」

「へぇ。他には?」

 春哉は眉間に皺を寄せて柳瀬を睨んだ。睨んだと言うと語弊がある。眉間の皺のせいで睨んでいるように見えているだけだ。

「おい、笑うな。ぶっ飛ばすぞ。今のは嘘だ、本当に殴りゃしねぇ」

「あははははっ! なにそのキャラ?」

「ドSの変態。だけど変に優しい」

「近くにいるの変なのばっかだなぁ」

「色んな人がいるからね。お父さんの真似すると、ずっと無言になるよ!」

「お前面白いな」

「ほんと!? 褒められると嬉しいなぁ」

「ま、大人になるのは少しずつでいいんじゃね。俺もいるし」

「そうしようかな」

「おう」

 母親には部活見学するから帰りが遅くなると連絡していたので、日が暮れるまで春哉と柳瀬はサッカー部の練習を見ていたのだった。


「そろそろ帰ろっか」

「そうだな、あとは片付けだけみたいだし」

 春哉が鞄を持って歩き出すと、柳瀬も隣を歩く。

「柳瀬はどこ住んでるの?」

「稲橋駅だよ。三つ先の駅」

「ほんと!? 近いねぇ。僕はその更に三つ先だよ」

「マジ? じゃあ一緒に帰ろーぜ」

「うんっ! 柳瀬は中学校でサッカーやってたの?」

「そうだよ。三年間、ずっとスタンドであんまり試合には出られなかったけど」

「強そうなのにね」

 春哉は柳瀬の腹をペタっと触った。

「い、いきなり触るなよ……」

 窘められて春哉はすぐに手を引く。触られた感触が気になるのか、柳瀬は自分の腹をさすっている。

「ごめん。腹筋ついてそうだなぁって。いいなぁ凄い筋肉」

「須賀はひょろひょろだもんな」

「ひょろひょろじゃないもん!」

「そのもんって言うのもガキ臭い」

「えー、ほんと?」

「ほんとほんと。俺の言う通りにしとけば大丈夫だって。言う事聞いておけよ」

 一瞬の沈黙の後に春哉は静かに反論した。

「柳瀬は自分が正しいと思ってる? そうやって人を自分の思い通りに動かそうとするのって、良くないよ」

「あれ、怒った? 結構短気なんだな?」

 柳瀬は「ごめんごめん」と軽く言いながら、膨らんでいるようにも見える春哉の頬を人差し指でつついた。

「怒ってないけど、人を支配しようとする人が好きじゃないだけ」

「そっか。悪かったよ」

「ううん、色々教えてくれてありがとう。これからも仲良くしてね!」

 春哉は柳瀬と顔を合わせると、満面の笑みを見せたのだった。
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