少年売買契約

眠りん

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二章 心を取り戻す為に

十二話 感情表現

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 影井は少年の事を最初から細かく説明した。
 
 十歳の時に人身売買に売られていた事。
 その時偶然オークション会場に足を運んだ影井が買おうとしたが、松山に買われてしまった事。
 松山は少年の心を壊してしまうという悪い評判があり、六年もの間道具として扱われ感情がなくなってしまった為、今でも自発的な行動があまり出来ない事。

 松山の死後、またオークションで売られ、峰岸に買われた事。二年もの間、峰岸の好きなプレイを遠慮なくしてきた為、痛みに鈍感になってしまった事。

 そして影井のところに来てから、少しずつ心を開き始めている兆候が見られるようになった事。
 外に連れて一泊した話も、昨日少年に感情的になり声を荒らげてしまった事も包み隠さず話した。

 詩鶴はたまに峰岸を睨みながら影井の話を頷きながら聞いていた。

「俺は彼に人間として生きて欲しい。感情や自我を取り戻させ、高校からでも学校に通わせて、幸せになって欲しいんだ。どうしたらいいのか分からない」

 影井が全て話し終わると、詩鶴は静かに口を開いた。

「影井さんは、人が生まれながらに笑うわけではないのを知ってる?」

「いや。そうなのか? 自然に笑うようになるんじゃ?」

 あまり見た事はないが、母親が赤ん坊をあやしてキャッキャと笑っているところを、どこかで見た覚えがあった。

「赤ちゃんは泣くのが仕事っていうでしょ?
 泣くのはね、泣かないと何もしてもらえないからよ。自分では動けないものね。
 でもね、泣き方は知っていても、笑い方は知らないの。親が笑いかけるからこそ、笑い方を知るものなのよ」

「やはり、親の愛が必要なのか……」

「それは違う。感情っていうのは、相手がいるから育つものなの。例えば笑顔を向けたら笑顔で返すでしょ。
 楽しい時に笑顔になるという事を学んで、子供は表情で感情を表す事を知るの」

「でも、彼が何を楽しいと思うか分からない」

「そんなのいいのよ。その子を相手する私達が楽しんで笑顔を見せる事が大事だから」

 影井は思い返した。「自分が楽しむ」という事はしてこなかったと。
 少年の自立心を育てる為、選択肢を並べて選ばせようとする事しかしてこなかったのだ。

「人とコミュニケーションを取らなければ、人は感情を表現する事なんか出来ない。
 道具にする為に、暴力によって感情表現を禁じられていたなら、取り戻すのは時間がかかるでしょうね」

「そうだな」

「ある意味、災害と同じよ。大震災の時に心的外傷後ストレス障害になった人がいたでしょ。
 それと同じで、表情を作ろうとするとまた怖い目に遭うんじゃないかって恐怖してるんだと思う」

「PTSD……か」

「そう。感情を出して怖い思いしたんだもの怖くて出来ないよね。今一番苦しんでいるのはその子よ」

 少年の立場に立った事のない影井には理解出来ない事だ。

「それはこちらが笑顔を見せれば、良くなるものなのか?」

「感情を出す事が怖い事じゃないと思い出させる必要があるから。
 あなたが笑顔を向ければ、その子も釣られて笑顔になればいいんだけどねぇ。簡単にはいかないかも」

「……そんな事で感情を見せてくれるのか?」

「それは分からないけど。一番大事なのは影井さんが笑顔を見せる事。そんな仏頂面でその子が笑顔を向けてくれると思う方が烏滸がましいのよ」

「うっ……それは」

 感情表現は苦手である。父親の跡継ぎをするべく感情のコントロールをする訓練を受けた。
 笑顔は特に苦手だ。

「影井さんはスパルタ教育受けてたんだっけ。
 あ、そうだ! 今度皆でパーティーでも開かない?
 その子連れてきてさ、私の友達も連れてくるからさ。気分転換にもなるし!」

「いいのか?」

「もちろん。人とコミュニケーションを取らなければ、その子の感情を取り戻す事は不可能だよ。私の友達皆、その子の友達にしてあげる。
 善は急げね、私皆に連絡取るわ。週末がいいわね、時間は夕方以降で、場所はここでいいかしら。
 マスター。次の土曜、貸切にしてくれるかしら?」

「土曜ですか、良いですよ」

 話を聞いていたであろうが、一切口を挟まずに峰岸にカクテルを作っていたマスターが、にこやかに答えた。

「よしっ! 楽しくなってきたわね、じゃ土曜の十八時ここに集合で。あ、峰岸は来んなよ」

「なんだと?」

 詩鶴がギロっと峰岸を睨むと、峰岸は睨み返した。二人の間に火花が散る。

「あんたは恐怖の対象でしかないから来るな。分かった? じゃ、影井さん。その子絶対連れてきてね」

 影井にウインクをすると、詩鶴は店を出て行ってしまった。

「あ、ちょっと……会計……」

「いいよ。俺払う」

 影井は知らない事だが、詩鶴を店に呼んのだは峰岸だ。詩鶴は、峰岸から影井が困っていると聞いてバーに足を運んだのだ。
 それを峰岸は言わない。あくまで詩鶴が、偶然バーに立ち寄ったところ、影井と峰岸の会話を聞いたという事にしている。

 峰岸は諦めた顔で自分と詩鶴、二人分の金額を支払った。彼は彼で不器用なのであった。
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