17 / 67
二章 心を取り戻す為に
三話 救えなかった子供
しおりを挟む
少年は明らかに助けを求めている目で影井を見つめていた。
人身売買等というものは本当に興味がなかった。売っている組織はどちらかというと味方だし、売られていく子供も少しの憐れみはあれど特に感情を向ける事などなかった。
けれど、その少年が影井に救いを求めていると分かってしまうと、どうにも無視が出来ない。
実家にいた頃、よく父に「優しさは捨てろ」と言われてきた。それが反抗する原因となった。
優しさを捨て、利益の事だけを考えて付き合う人間を選べと言われたのだ。影井はそれに賛同する事が出来なかった。
政界や経済界の有名な者の子息や息女ばかりが集まる高校で、会社の利益になる人物と手を組まなければならない。
最初は父親の言う事を聞いていたが、あるきっかけで不良達と付き合うようになった。
そして、父にお前には会社を任せられないと言われて勘当されたのだ。
影井はその時の選択を後悔した事はなかった。
だが、中途半端な優しさが自分の首を絞める事になる事も多かったのは事実だ。
影井は想像した。彼を購入した後、対面した彼は影井をどんな目で見るのだろうか。安心した顔で微笑んでくれるだろうか。
親元に返す事が出来たら感謝されるだろうか。そこまでしたら、きっとあの少年は影井を崇拝して、恩を忘れないだろう。
『影井さんのお陰で幸せです。感謝してもし足りません』
等という想像をし──。
「二千万」
気付くと手を挙げていた。
「影井!?」
隣では峰岸が驚いた顔で影井を見たが、それに気付く事なく、その少年に釘付けになっていた。
だが、すぐに「二千五百万」と手を挙げていた男がいた。松山だ。
影井はマズいと「二千八百万!」と再コールする。
彼の評判は皆知っている。松山は通常のオークションには参加出来ないのだ。今はまだBランクのオークションに参加出来ているが、次に何かあればCランクのオークションにしか参加させないと、組長が憤慨していた。
彼に付いている異名は「少年壊し」。買った後すぐに精神が壊れた状態で戻されるので、組織も迷惑している男である。
価値が下がり、見切り商品を扱うオークションにしか参加出来なくなった男。
彼は「二千九百万」とまた値を上げてきた。
彼に買われてしまえばあの少年は終わる、その未来がすぐに想像出来た影井は「三千万!」と声を上げたが……。
「三千五百万」
「四千万!」
「四千五百万」
「くっ……四千八百万!」
影井の予算は五千万以下だった。松山に五千万と言われてしまえばそこで終わる。
そして松山が五千万で落札したのだ。
松山は金がないわけではない。人間性から値下がっているオークションにしか参加出来ないわけで、元々はもっと高額を競う事も出来る人物である。
逆に影井は四千八百万がギリギリで、本当はそのお金も出来れば散財したくないお金だ。
勝負は歴然だった。
一番驚いていたのは峰岸だ。全てが終わって、落ち込んでいる影井に普段より優しめに声を掛けた。
「影井、どうしたんだ? 買わないって言ってたのに。それもあんな低人気の……」
「何故彼はこんなところに。一番綺麗な見目をしていると思うが」
「プロフ見ろよ。ここで売られる奴って大抵親の借金とか、親の不始末で送られるのが普通だ。けど、彼は始末屋の仕事を目撃したらしい」
プロフィールには、少年が殺された男を助けようとして、殺人現場を目撃したと書かれてある。
「正義感が強い……なるほど。売られた後逃げ出して警察にでも駆け込まれる危険性がある。
そうなったら少年も購入者も消されるだろう」
「そう。しかもそれだけじゃない。彼は出荷前の監禁場所から逃げ出した。行動力もある人間はここでは好まれない。
その罰としてキツい調教を受けたせいでBランク商品になったんだが。
……なんだ、あの子に惚れたか?」
「いや」
ただの下賎な優しさだ。それは可愛い少年に感謝されたい下心だけであり、それが満たされなくても少し残念に思うだけである。
影井はすぐにオークションに参加した事を過去の過ちとし、少年の事は忘れる事にした。
それから影井は闇オークション会場に足を運ぶ事は一度もなかった。
人身売買等というものは本当に興味がなかった。売っている組織はどちらかというと味方だし、売られていく子供も少しの憐れみはあれど特に感情を向ける事などなかった。
けれど、その少年が影井に救いを求めていると分かってしまうと、どうにも無視が出来ない。
実家にいた頃、よく父に「優しさは捨てろ」と言われてきた。それが反抗する原因となった。
優しさを捨て、利益の事だけを考えて付き合う人間を選べと言われたのだ。影井はそれに賛同する事が出来なかった。
政界や経済界の有名な者の子息や息女ばかりが集まる高校で、会社の利益になる人物と手を組まなければならない。
最初は父親の言う事を聞いていたが、あるきっかけで不良達と付き合うようになった。
そして、父にお前には会社を任せられないと言われて勘当されたのだ。
影井はその時の選択を後悔した事はなかった。
だが、中途半端な優しさが自分の首を絞める事になる事も多かったのは事実だ。
影井は想像した。彼を購入した後、対面した彼は影井をどんな目で見るのだろうか。安心した顔で微笑んでくれるだろうか。
親元に返す事が出来たら感謝されるだろうか。そこまでしたら、きっとあの少年は影井を崇拝して、恩を忘れないだろう。
『影井さんのお陰で幸せです。感謝してもし足りません』
等という想像をし──。
「二千万」
気付くと手を挙げていた。
「影井!?」
隣では峰岸が驚いた顔で影井を見たが、それに気付く事なく、その少年に釘付けになっていた。
だが、すぐに「二千五百万」と手を挙げていた男がいた。松山だ。
影井はマズいと「二千八百万!」と再コールする。
彼の評判は皆知っている。松山は通常のオークションには参加出来ないのだ。今はまだBランクのオークションに参加出来ているが、次に何かあればCランクのオークションにしか参加させないと、組長が憤慨していた。
彼に付いている異名は「少年壊し」。買った後すぐに精神が壊れた状態で戻されるので、組織も迷惑している男である。
価値が下がり、見切り商品を扱うオークションにしか参加出来なくなった男。
彼は「二千九百万」とまた値を上げてきた。
彼に買われてしまえばあの少年は終わる、その未来がすぐに想像出来た影井は「三千万!」と声を上げたが……。
「三千五百万」
「四千万!」
「四千五百万」
「くっ……四千八百万!」
影井の予算は五千万以下だった。松山に五千万と言われてしまえばそこで終わる。
そして松山が五千万で落札したのだ。
松山は金がないわけではない。人間性から値下がっているオークションにしか参加出来ないわけで、元々はもっと高額を競う事も出来る人物である。
逆に影井は四千八百万がギリギリで、本当はそのお金も出来れば散財したくないお金だ。
勝負は歴然だった。
一番驚いていたのは峰岸だ。全てが終わって、落ち込んでいる影井に普段より優しめに声を掛けた。
「影井、どうしたんだ? 買わないって言ってたのに。それもあんな低人気の……」
「何故彼はこんなところに。一番綺麗な見目をしていると思うが」
「プロフ見ろよ。ここで売られる奴って大抵親の借金とか、親の不始末で送られるのが普通だ。けど、彼は始末屋の仕事を目撃したらしい」
プロフィールには、少年が殺された男を助けようとして、殺人現場を目撃したと書かれてある。
「正義感が強い……なるほど。売られた後逃げ出して警察にでも駆け込まれる危険性がある。
そうなったら少年も購入者も消されるだろう」
「そう。しかもそれだけじゃない。彼は出荷前の監禁場所から逃げ出した。行動力もある人間はここでは好まれない。
その罰としてキツい調教を受けたせいでBランク商品になったんだが。
……なんだ、あの子に惚れたか?」
「いや」
ただの下賎な優しさだ。それは可愛い少年に感謝されたい下心だけであり、それが満たされなくても少し残念に思うだけである。
影井はすぐにオークションに参加した事を過去の過ちとし、少年の事は忘れる事にした。
それから影井は闇オークション会場に足を運ぶ事は一度もなかった。
2
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
男の子たちの変態的な日常
M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
『僕は肉便器です』
眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。
彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。
そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。
便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。
※小スカあり
2020.5.26
表紙イラストを描いていただきました。
イラスト:右京 梓様
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~
あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。
※R-18作品です。
モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる