少年売買契約

眠りん

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二章 心を取り戻す為に

三話 救えなかった子供

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 少年は明らかに助けを求めている目で影井を見つめていた。

 人身売買等というものは本当に興味がなかった。売っている組織はどちらかというと味方だし、売られていく子供も少しの憐れみはあれど特に感情を向ける事などなかった。
 けれど、その少年が影井に救いを求めていると分かってしまうと、どうにも無視が出来ない。

 実家にいた頃、よく父に「優しさは捨てろ」と言われてきた。それが反抗する原因となった。
 優しさを捨て、利益の事だけを考えて付き合う人間を選べと言われたのだ。影井はそれに賛同する事が出来なかった。

 政界や経済界の有名な者の子息や息女ばかりが集まる高校で、会社の利益になる人物と手を組まなければならない。
 最初は父親の言う事を聞いていたが、あるきっかけで不良達と付き合うようになった。

 そして、父にお前には会社を任せられないと言われて勘当されたのだ。
 影井はその時の選択を後悔した事はなかった。
 だが、中途半端な優しさが自分の首を絞める事になる事も多かったのは事実だ。

 影井は想像した。彼を購入した後、対面した彼は影井をどんな目で見るのだろうか。安心した顔で微笑んでくれるだろうか。
 親元に返す事が出来たら感謝されるだろうか。そこまでしたら、きっとあの少年は影井を崇拝して、恩を忘れないだろう。

『影井さんのお陰で幸せです。感謝してもし足りません』

 等という想像をし──。 
 
「二千万」

 気付くと手を挙げていた。

「影井!?」

 隣では峰岸が驚いた顔で影井を見たが、それに気付く事なく、その少年に釘付けになっていた。

 だが、すぐに「二千五百万」と手を挙げていた男がいた。松山だ。
 影井はマズいと「二千八百万!」と再コールする。
 彼の評判は皆知っている。松山は通常のオークションには参加出来ないのだ。今はまだBランクのオークションに参加出来ているが、次に何かあればCランクのオークションにしか参加させないと、組長が憤慨していた。

 彼に付いている異名は「少年壊し」。買った後すぐに精神が壊れた状態で戻されるので、組織も迷惑している男である。
 価値が下がり、見切り商品を扱うオークションにしか参加出来なくなった男。
 彼は「二千九百万」とまた値を上げてきた。

 彼に買われてしまえばあの少年は終わる、その未来がすぐに想像出来た影井は「三千万!」と声を上げたが……。

「三千五百万」

「四千万!」

「四千五百万」

「くっ……四千八百万!」

 影井の予算は五千万以下だった。松山に五千万と言われてしまえばそこで終わる。
 そして松山が五千万で落札したのだ。

 松山は金がないわけではない。人間性から値下がっているオークションにしか参加出来ないわけで、元々はもっと高額を競う事も出来る人物である。
 逆に影井は四千八百万がギリギリで、本当はそのお金も出来れば散財したくないお金だ。
 勝負は歴然だった。

 一番驚いていたのは峰岸だ。全てが終わって、落ち込んでいる影井に普段より優しめに声を掛けた。

「影井、どうしたんだ? 買わないって言ってたのに。それもあんな低人気の……」

「何故彼はこんなところに。一番綺麗な見目をしていると思うが」

「プロフ見ろよ。ここで売られる奴って大抵親の借金とか、親の不始末で送られるのが普通だ。けど、彼は始末屋の仕事を目撃したらしい」

 プロフィールには、少年が殺された男を助けようとして、殺人現場を目撃したと書かれてある。

「正義感が強い……なるほど。売られた後逃げ出して警察にでも駆け込まれる危険性がある。
 そうなったら少年も購入者も消されるだろう」

「そう。しかもそれだけじゃない。彼は出荷前の監禁場所から逃げ出した。行動力もある人間はここでは好まれない。
 その罰としてキツい調教を受けたせいでBランク商品になったんだが。
 ……なんだ、あの子に惚れたか?」

「いや」

 ただの下賎な優しさだ。それは可愛い少年に感謝されたい下心だけであり、それが満たされなくても少し残念に思うだけである。
 影井はすぐにオークションに参加した事を過去の過ちとし、少年の事は忘れる事にした。

 それから影井は闇オークション会場に足を運ぶ事は一度もなかった。
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