少年売買契約

眠りん

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一章 売られた少年

八話 道具

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 松山は少年の頭を踏みつけた。少年の目の前には精液があり、それを舐めろと言われる。

「グスっ……い、嫌……無理です」

「逆らうな。慣れるまで毎日舐めさせるぞ」

「うう……」

 頭を踏み付けている足の力が強くなった。頭蓋骨が押し潰されるのではないかという恐怖と痛みは十歳の子供が耐えられるものではない。
 少年はゆっくりと舌を伸ばし、それを舐めた。

 口の中で粘つき、青臭さが鼻につく。これ以上は舐められず嘔吐く。
 少年は必死に松山の足を押し戻そうと肩に力を入れた。

「お前……今殺してもいいんだぞ? 死体は発見されない。それでもいいのか?」

 だが松山の恐ろしい脅迫に少年の心は屈してしまった。
 こんな時、感情がある事が邪魔に思えた。味覚や嗅覚も邪魔だ。

(何も感じなければ……)

 ふと、嵐の夜、両親が仕事で帰って来ず、部屋に一人で部屋の隅で震えていた時の事を思い出す。

(楽しい事を考えたら余計不安になって泣いたっけ。それで何も考えないようにって、ずっと数字を数えてて……)

 その時と同じように一から数字を数えた。怖い事はいずれ終わりが来る。数を数えていれば、いつか……。
 先程まで込み上げていた悲しみも、やるせなさも、怒りも徐々に消えていく。
 それでも生理的な涙は流れる。少年はそれに気付かないふりをして、無心に精液を舐めとっては飲み込んだのだった。


 その日から少年から表情が消えた。

 食事はまともなものを出してもらえたが、砂を食べているようで胃に入らない。味覚がなくなってしまった。
 全て食べないと松山に殺すと脅されるので、吐き気を催しながらも全て食べた。
 松山が無理に食べさせなければ拒食症になっていただろう。


 性の道具にされるのは毎日だった。慣れると痛みは感じなくなったので、松山に好きにさせた。
 身体を素早く洗う癖もついた為、初日のような地獄にはならなくなった。
 少年は言葉も発する事をしなくなり、松山に言われた事を黙ってするだけの存在となった。

 人形と変わらない。松山はそれで満足そうにしており、少年に恐喝するような事はしなくなった。


 毎日松山が指示しなければ何もする事がなく、暇な時間を過ごす日々が続いたある日。
 少年は首輪を外して家の中の掃除をしようと思い立った。数字を数え続ける事に飽きていたのだ。
 いくら数えたところで悪夢が終わる予兆もない。それなら何か行動したくなった。

 家の中を自発的に掃除をした時、母に喜ばれて褒められた事を思い出したのだ。
 松山に道具だと言われた。人の役に立つのが道具だと。少年なりに松山に気に入られるように努力しようとしたのだ。
 掃除が終わるといつもの場所に戻り、首輪も自分で戻した。


 夜になり仕事から帰ってきた松山は、いつものように少年には見向きもせず部屋に入った。その途端、すぐに廊下に出てきて少年の顔を殴った。

「おい、お前か!? お前がやったのか!?」

 松山は少年に怒鳴った。鼓膜が破れそうな程の大声だ。少年は耳を塞げない代わりに目を瞑った。

「あ……日中、やる事なくて……」

「勝手な事をするな!! お前、自分で首輪を取ったのか!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい……ぼ、僕は道具だから、ご主人様の役に立とうと……」

「勝手に動く道具がどこにいる? 炊飯器、掃除機、洗濯機、どの道具も勝手には動かない。
 持ち主の操作で動くんだ、指示された通りに。お前は道具だ。これ以上は言わない、分かったな?」

 少年は黙って頷いた。
 それから少年の目から光が消えた。数を数える事も出来なくなった。
 道具なのだ。少年は自身を人形のようだと思っていたが、違う。松山に指示された事に忠実に動く道具で、それ以下でもそれ以上でもない。

(僕は道具だ。道具、道具、道具……道具。だから、人間と同じ事しちゃだめだ。
 人間だった時の事は忘れなくちゃ……)

 そう考えなければ壊れそうだった。道具であると認めると幾らか心が楽になった。






 松山は少年をいたく気に入った。自分の思い通りに動く、ただの道具として存在している少年を愛し始めていた。
 一緒に過ごし始めて一年経つと、道具として自己を失った少年への保護欲が湧き、二年経つと愛しさが深まった。
 三年経つ頃には、少年との結婚を夢見る程に少年に執心していた。

 ……だが。松山も長年同じ道具で性欲を発散させる事に慣れと飽きがきた。段々少年で射精するのが難しくなってきたのだ。
 少年はAV鑑賞の傍ら処理する為に存在していた。少年は本当の意味で道具となっていた。

 ただ、高額で購入した道具を使わないのは勿体ないから。そんな理由で、惰性で使われる存在だ。
 少年は使われても使われなくても、同じ反応しか返さない。無反応だ。
 松山が少年を邪魔だと思うようになったのは、少年が購入されてから六年経った頃だ。

 松山によって、少年は裏社会に売られようとしていたその時、転機が訪れた。
 松山は急な病死を遂げたのである。
 本人も体調不良には気付いていたが、疲れだと思い病院に行く事はなかった。外出中に倒れて、そのまま息を引き取ったのだ。

 もし売られていれば海外に売り飛ばされていたか、臓器等を販売目的で全て取り上げられ死ぬ運命であった。
 だが、少年は別の運命を辿る事になったのだった。
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