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二話 親の罪
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アパートの外に黒い車が停車されていて、その車の後ろの席に乗せられた。
住宅地を抜けて、繁華街を通っていく。賑やかな道を少し外れると、人通りがほとんどない閑散とした道になった。
オレは外をボーッと眺めていた。
運転しているのは部屋に入ってきたヤクザだ。助手席には、また違った厳つい顔したヤクザが座っている。
「普通は泣いたりビビったりするもんだが、お前は肝が座ってんな」
運転席のヤクザが言ってきた。だって、辛い目に遭うのは分かってるし。何されるかは分からないけど、逃げようがないなら受け入れるしかないじゃん。
本当は泣きたいのは我慢し、ビビってるの見せないようにしてるんだ。
半年もしたら中学生だし、しっかりしなくちゃ。
「オレはもう十二歳だからね。子供じゃないから子供みたいに泣かないんだよ」
「ブフッ……! 確かに十二歳はガキじゃねぇかもな」
なんで笑われたのか。答えは分かりきっている。ガキだと思ってバカにしてるんだ。
でも相手はヤクザだ。言い返したらオレが危ないのかもしれない。
その代わり情報収集をする事にした。
「おじさんたちはヤクザなんだよね? どこの組の人なの?」
「澤田組っつーんだ。お前には分からないだろ?」
「少しは分かるよ! テレビで見たんだ、大人は借金が払えなくなると子供を置いて逃げるんでしょ?」
「それはテレビの見過ぎだ。まぁ借金は借金だけどな。時は五年前に遡る。お前の親父さんが友達の連帯保証人になったんだ。
連帯保証人は分かるか?」
「分かるよ。連帯保証人だけはなるなってお母さんが言ってた。それになると、借金してないのにした事になっちゃうんでしょ?」
「そう。それで、親父さんの友達が逃げてな。親父さんには五百万の借金が残ったわけだ」
「それでお母さんが男の人と遊ぶ仕事をし始めたんだね?」
「そういう事だ」
思い返せば、その頃にお母さんがお父さんに怒鳴った事があった。お父さんは必死に土下座してて謝ってた。
その後お父さんは仕事が上手くいかなくて、パチンコに逃げたってお母さんが言ってた。
「借金はあとどれ位なの?」
「あと一千万だ」
「増えてるじゃんか」
「そりゃー、利子がつくからな」
「それって犯罪なんじゃないの?」
法律のテレビで見た事がある。返済の義務はなくなるんじゃなかったっけ?
「お前、ガキの割に分かってるじゃないか。だが、奴らは弁護士には頼れないんだ。お前の親のもっとヤベー犯罪の証拠をウチの組が掴んでるからな。
俺達が決めた利子に歯向かうことなんて出来なかったのさ」
「お父さんとお母さんが!?」
「厳密に言えば母親がな。アイツは今の旦那と結婚する前に別の男と結婚しててな、保険金殺人やってたんだよ。お前は元旦那の息子。
今の親父とは血の繋がりはない」
突然の驚愕の事実だ。開いた口が塞がらないって状態をオレは今自分で体現してる。
ずっとお父さんはオレのお父さんだと思ってたのに。そりゃあお父さんにオレは要らないよね。他人の子なんだもん。
早く言ってくれれば良かったのに……。
「なんでそれをあなたが知ってるの?」
運転席のヤクザは答えない。けれど、その代わりに助手席のヤクザが答えた。
「コイツ、お前のかーちゃんと古い付き合いがあってな、保険金殺人に加担してんだよ。共犯者ってわけだ」
つまり、お母さんがそんな事してなければ、オレはこんな事になってなかったってわけか。
人生詰んだ。これからどうなるんだろう。まともな事にならないのは分かる。
痛かったら嫌だな……。
「ねぇ、これからオレが借金を返す事になるんだよね?」
「そうだ。親が憎いか?」
「うーん、お父さんはちょっとだけ憎いかも。でも返したら、これ以上お母さんを追わないでよ。苦しめないであげて。
オレ頑張るからさ」
「かーちゃんが好きなんだな。捨てられたっていうのに」
「好きだよ、悪いかよ!?」
「いんや。俺もかーちゃんは好きだったからな。気持ちは分かるぜ」
過去形……。この人のお母さんはもういないのかな。可哀想。
ボロいビルの前で車が止まった。オレが大人しくしてるからか、普通に車を降りろと言われた。
二人のヤクザについてビルの中に入った。電気は点いている筈なのに薄暗い。
地下に降りて、廊下の先をずっと進むと、鍵のかかった分厚い扉があった。
そこを開くと廊下のような通路が奥まで続いていた。そこも同じように薄暗くて、なんか不気味だ。
両方の壁には牢屋みたいに鉄格子の部屋が向かい合うようにズラリと並んでいて、その一つ一つの部屋には子供が入っていた。
空いてる部屋も幾つかあったけど、オレと同じくらいの歳の子供が十人くらいはいるように見えた。
「これから、お前が売りに出されるまで過ごす部屋だ」
「どこに売られるの? 売られた後はどうなるの?」
怖くなって聞いた。だって、買った人に虐められるかもしれないじゃん。怖いよ。
せめて痛い思いしないところに買われたい。
「知らねぇよ。お前は若いし、新品だし、上客に高値で売られるだろうよ。その後は未知の世界だ。
自分の子供のように可愛がるやつもいれば、使い捨てにして殺すやつもいる。買ったやつ次第だ」
「可愛がってくれる人に買われるにはどうしたらいい?」
「さぁな、せいぜい媚び売れよ。オークションが始まれば媚び売る暇なんてないけどな。
後は運次第だな」
オレはドンッと突き飛ばされて、空いている牢屋に倒れ込んだ。すぐに扉が閉まって鍵をかけられる。
「あばよ、達者でな」
ヤクザ達は慈悲など一切なく、去ってしまった。一人の子供が「待ってください! 助けて!」と叫んでいたが、無常にも分厚い扉がバタンと閉まる。
子供達の泣きじゃくる声だけが響いていた。
住宅地を抜けて、繁華街を通っていく。賑やかな道を少し外れると、人通りがほとんどない閑散とした道になった。
オレは外をボーッと眺めていた。
運転しているのは部屋に入ってきたヤクザだ。助手席には、また違った厳つい顔したヤクザが座っている。
「普通は泣いたりビビったりするもんだが、お前は肝が座ってんな」
運転席のヤクザが言ってきた。だって、辛い目に遭うのは分かってるし。何されるかは分からないけど、逃げようがないなら受け入れるしかないじゃん。
本当は泣きたいのは我慢し、ビビってるの見せないようにしてるんだ。
半年もしたら中学生だし、しっかりしなくちゃ。
「オレはもう十二歳だからね。子供じゃないから子供みたいに泣かないんだよ」
「ブフッ……! 確かに十二歳はガキじゃねぇかもな」
なんで笑われたのか。答えは分かりきっている。ガキだと思ってバカにしてるんだ。
でも相手はヤクザだ。言い返したらオレが危ないのかもしれない。
その代わり情報収集をする事にした。
「おじさんたちはヤクザなんだよね? どこの組の人なの?」
「澤田組っつーんだ。お前には分からないだろ?」
「少しは分かるよ! テレビで見たんだ、大人は借金が払えなくなると子供を置いて逃げるんでしょ?」
「それはテレビの見過ぎだ。まぁ借金は借金だけどな。時は五年前に遡る。お前の親父さんが友達の連帯保証人になったんだ。
連帯保証人は分かるか?」
「分かるよ。連帯保証人だけはなるなってお母さんが言ってた。それになると、借金してないのにした事になっちゃうんでしょ?」
「そう。それで、親父さんの友達が逃げてな。親父さんには五百万の借金が残ったわけだ」
「それでお母さんが男の人と遊ぶ仕事をし始めたんだね?」
「そういう事だ」
思い返せば、その頃にお母さんがお父さんに怒鳴った事があった。お父さんは必死に土下座してて謝ってた。
その後お父さんは仕事が上手くいかなくて、パチンコに逃げたってお母さんが言ってた。
「借金はあとどれ位なの?」
「あと一千万だ」
「増えてるじゃんか」
「そりゃー、利子がつくからな」
「それって犯罪なんじゃないの?」
法律のテレビで見た事がある。返済の義務はなくなるんじゃなかったっけ?
「お前、ガキの割に分かってるじゃないか。だが、奴らは弁護士には頼れないんだ。お前の親のもっとヤベー犯罪の証拠をウチの組が掴んでるからな。
俺達が決めた利子に歯向かうことなんて出来なかったのさ」
「お父さんとお母さんが!?」
「厳密に言えば母親がな。アイツは今の旦那と結婚する前に別の男と結婚しててな、保険金殺人やってたんだよ。お前は元旦那の息子。
今の親父とは血の繋がりはない」
突然の驚愕の事実だ。開いた口が塞がらないって状態をオレは今自分で体現してる。
ずっとお父さんはオレのお父さんだと思ってたのに。そりゃあお父さんにオレは要らないよね。他人の子なんだもん。
早く言ってくれれば良かったのに……。
「なんでそれをあなたが知ってるの?」
運転席のヤクザは答えない。けれど、その代わりに助手席のヤクザが答えた。
「コイツ、お前のかーちゃんと古い付き合いがあってな、保険金殺人に加担してんだよ。共犯者ってわけだ」
つまり、お母さんがそんな事してなければ、オレはこんな事になってなかったってわけか。
人生詰んだ。これからどうなるんだろう。まともな事にならないのは分かる。
痛かったら嫌だな……。
「ねぇ、これからオレが借金を返す事になるんだよね?」
「そうだ。親が憎いか?」
「うーん、お父さんはちょっとだけ憎いかも。でも返したら、これ以上お母さんを追わないでよ。苦しめないであげて。
オレ頑張るからさ」
「かーちゃんが好きなんだな。捨てられたっていうのに」
「好きだよ、悪いかよ!?」
「いんや。俺もかーちゃんは好きだったからな。気持ちは分かるぜ」
過去形……。この人のお母さんはもういないのかな。可哀想。
ボロいビルの前で車が止まった。オレが大人しくしてるからか、普通に車を降りろと言われた。
二人のヤクザについてビルの中に入った。電気は点いている筈なのに薄暗い。
地下に降りて、廊下の先をずっと進むと、鍵のかかった分厚い扉があった。
そこを開くと廊下のような通路が奥まで続いていた。そこも同じように薄暗くて、なんか不気味だ。
両方の壁には牢屋みたいに鉄格子の部屋が向かい合うようにズラリと並んでいて、その一つ一つの部屋には子供が入っていた。
空いてる部屋も幾つかあったけど、オレと同じくらいの歳の子供が十人くらいはいるように見えた。
「これから、お前が売りに出されるまで過ごす部屋だ」
「どこに売られるの? 売られた後はどうなるの?」
怖くなって聞いた。だって、買った人に虐められるかもしれないじゃん。怖いよ。
せめて痛い思いしないところに買われたい。
「知らねぇよ。お前は若いし、新品だし、上客に高値で売られるだろうよ。その後は未知の世界だ。
自分の子供のように可愛がるやつもいれば、使い捨てにして殺すやつもいる。買ったやつ次第だ」
「可愛がってくれる人に買われるにはどうしたらいい?」
「さぁな、せいぜい媚び売れよ。オークションが始まれば媚び売る暇なんてないけどな。
後は運次第だな」
オレはドンッと突き飛ばされて、空いている牢屋に倒れ込んだ。すぐに扉が閉まって鍵をかけられる。
「あばよ、達者でな」
ヤクザ達は慈悲など一切なく、去ってしまった。一人の子供が「待ってください! 助けて!」と叫んでいたが、無常にも分厚い扉がバタンと閉まる。
子供達の泣きじゃくる声だけが響いていた。
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