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二章
九話 一樹の夢
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海斗は訳が分からないながらも、正嗣について行った。家に着くなり正嗣は寝室へと向かった。
そして、ベッドの前で立ち止まる。
「海斗君。俺が他人の夢の中を自由に動けるって言ったら信じるか?」
正嗣にいきなり言われた言葉に、海斗は唖然とした。咄嗟に出た言葉は「はぁ?」となんとも間抜けな声だ。
「そんなの……信じるわけないだろ」
「俺は夢の中で仁科さんを知った。
その後街で仁科さんを見掛けてさ、心配になって後をつけたんだよ。それから、明晰夢を見る仁科さんと対面した」
「ちょっと待て、よく意味が分からないんだが」
「俺の力で海斗君も夢の中で動けるようにする事が出来る。実際やってみれば分かるさ」
正嗣が手を差し伸べてきた。気味が悪いので海斗はその手を取るなんて考えられない。
「早く。俺と手を繋いで寝て欲しい。そうすれば全て分かるから」
正嗣は先にベッドの上で仰向けになった。
一樹の為。今、海斗が望まない行動を取るのは偏に一樹の為だと思うからだ。
意を決してベッドに横になり、正嗣と手を繋いだ。
「ど、どうすりゃいい?」
「このまま眠ればいいよ。そうすれば必ず明晰夢を見るから」
「明晰夢……?」
海斗は夢を見るタイプではないので明晰夢も体験した事がないが、意味くらいは知っている。
半信半疑ながらゆっくりと目を閉じた。
寝ようと思えばすぐに眠れる。微睡みから、段々と深い眠りの奥へと沈んでいった。
目を覚ますと正嗣と宇宙のような空間にいた。暗い中に星のような光が幾つもある。
その中に夥しい数の扉が浮かんでいる。
「ここが俺の夢の中だ。今、君は夢を見ている」
正嗣が説明して初めてここが夢の中だと気付いた。夢の中にいるという自覚はない。おかしな世界に飛ばされた方がまだ信じられる。
「これが明晰夢……? 起きてるんじゃなくて?」
「普通の明晰夢とは違う。普通ならここまでハッキリとした意識はないから。
嘘だと思うなら頬でも抓ってみな。痛くないから」
「いや、信じるよ。この大量の扉は……?」
「他人の夢への扉だ。俺はこの扉の先が誰に繋がっているか分かってて、好きに他人の夢の中に入れる。ほら、この扉が仁科さんのだよ」
目の前に現れたのは、シンプルな木造の扉だ。ドアノブは丸く、回すタイプだ。
海斗はこの扉に見覚えがあった。
「この扉、学生時代に夏休みになると一樹と毎回行ってたコテージのドアだ」
ぽつりと呟くと、正嗣が説明する。
「その人の一番心に残っている扉だよ。実家の自分の部屋だったり、今住んでる家の扉だったり」
「今住んでる部屋は落ち着く場所ではないって事なんだな」
「そればかりは何とも言えない。中には刑務所の扉なんて奴もいたしな」
コテージの扉を開くと、その向こうは空が広がっていた。真っ白な綿菓子のような雲が床のように一面に広がっている。
正嗣は迷わず雲の上を歩き出した。
「あ、歩けるのか!?」
「そりゃー夢だもん。仁科さんってこの手の夢多いんだよね。絶望してる時とか、何かを諦めた時は空の上だ。
解放されたい願望の表れかもな」
「俺から解放されたかったのかな」
「さぁ? 本人に会って聞いてみなよ。夢の中ってさ、結構自分の本性が解放されるから。
あ、俺と一緒に寝た海斗君はいつもの君だから」
綿菓子のような雲の上を二人で歩いた。足を踏みしめるとトランポリンのようなのに、立ち止まると綿の様に柔らかい。
その雲の先、一人の男が雲の上に横になって横向きにゴロゴロと転がっているのが見えた。
「なにごと!?」
変な奴に驚いた海斗だが、その男が一樹と分かるとすぐに走り出した。
「待って、海斗君!」
正嗣の静止は聞こえない。一樹しか見えない。
「一樹!! 一樹ぃ!!」
ゴロゴロ転がる一樹がムクリと起き上がった。そして、海斗の顔を見ると青ざめた。
「海斗……何で!? 俺、ここに海斗が現れるって望んでないのに!!」
一樹は混乱しているようだ。
だが、海斗の後から現れた正嗣を見て、困惑顔が怒りの表情へと変わった。
「あれ、明晰夢を見てるんですか? 最近は全然だったのに。もしかして自殺してからずっと夢で意識あったり?」
「マサさん。海斗がここにいるのってアンタのせい?」
「そうですね。夢の中だと素直ですね、怒りを隠さない」
「どうせ起きたら忘れる記憶だしな。早く海斗連れて帰れって。俺をまだ苦しめたいの?」
一樹と正嗣の攻防だったが、その一言で海斗は我慢出来ず一樹に詰め寄った。
「……俺がいたら苦しいの?」
否定を望んだ問いだった。だが、夢の中の一樹は一切思いやる事はしなかった。
「苦しい。早く海斗の事忘れたいから何も無いところで死ぬの待ってたのに。全部台無しだ」
───────────────────
ここまで読んでくださってありがとうございます。
この作品はあと二話で最終話を迎えます。
二日に一話ずつ投稿する予定ですので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
そして、ベッドの前で立ち止まる。
「海斗君。俺が他人の夢の中を自由に動けるって言ったら信じるか?」
正嗣にいきなり言われた言葉に、海斗は唖然とした。咄嗟に出た言葉は「はぁ?」となんとも間抜けな声だ。
「そんなの……信じるわけないだろ」
「俺は夢の中で仁科さんを知った。
その後街で仁科さんを見掛けてさ、心配になって後をつけたんだよ。それから、明晰夢を見る仁科さんと対面した」
「ちょっと待て、よく意味が分からないんだが」
「俺の力で海斗君も夢の中で動けるようにする事が出来る。実際やってみれば分かるさ」
正嗣が手を差し伸べてきた。気味が悪いので海斗はその手を取るなんて考えられない。
「早く。俺と手を繋いで寝て欲しい。そうすれば全て分かるから」
正嗣は先にベッドの上で仰向けになった。
一樹の為。今、海斗が望まない行動を取るのは偏に一樹の為だと思うからだ。
意を決してベッドに横になり、正嗣と手を繋いだ。
「ど、どうすりゃいい?」
「このまま眠ればいいよ。そうすれば必ず明晰夢を見るから」
「明晰夢……?」
海斗は夢を見るタイプではないので明晰夢も体験した事がないが、意味くらいは知っている。
半信半疑ながらゆっくりと目を閉じた。
寝ようと思えばすぐに眠れる。微睡みから、段々と深い眠りの奥へと沈んでいった。
目を覚ますと正嗣と宇宙のような空間にいた。暗い中に星のような光が幾つもある。
その中に夥しい数の扉が浮かんでいる。
「ここが俺の夢の中だ。今、君は夢を見ている」
正嗣が説明して初めてここが夢の中だと気付いた。夢の中にいるという自覚はない。おかしな世界に飛ばされた方がまだ信じられる。
「これが明晰夢……? 起きてるんじゃなくて?」
「普通の明晰夢とは違う。普通ならここまでハッキリとした意識はないから。
嘘だと思うなら頬でも抓ってみな。痛くないから」
「いや、信じるよ。この大量の扉は……?」
「他人の夢への扉だ。俺はこの扉の先が誰に繋がっているか分かってて、好きに他人の夢の中に入れる。ほら、この扉が仁科さんのだよ」
目の前に現れたのは、シンプルな木造の扉だ。ドアノブは丸く、回すタイプだ。
海斗はこの扉に見覚えがあった。
「この扉、学生時代に夏休みになると一樹と毎回行ってたコテージのドアだ」
ぽつりと呟くと、正嗣が説明する。
「その人の一番心に残っている扉だよ。実家の自分の部屋だったり、今住んでる家の扉だったり」
「今住んでる部屋は落ち着く場所ではないって事なんだな」
「そればかりは何とも言えない。中には刑務所の扉なんて奴もいたしな」
コテージの扉を開くと、その向こうは空が広がっていた。真っ白な綿菓子のような雲が床のように一面に広がっている。
正嗣は迷わず雲の上を歩き出した。
「あ、歩けるのか!?」
「そりゃー夢だもん。仁科さんってこの手の夢多いんだよね。絶望してる時とか、何かを諦めた時は空の上だ。
解放されたい願望の表れかもな」
「俺から解放されたかったのかな」
「さぁ? 本人に会って聞いてみなよ。夢の中ってさ、結構自分の本性が解放されるから。
あ、俺と一緒に寝た海斗君はいつもの君だから」
綿菓子のような雲の上を二人で歩いた。足を踏みしめるとトランポリンのようなのに、立ち止まると綿の様に柔らかい。
その雲の先、一人の男が雲の上に横になって横向きにゴロゴロと転がっているのが見えた。
「なにごと!?」
変な奴に驚いた海斗だが、その男が一樹と分かるとすぐに走り出した。
「待って、海斗君!」
正嗣の静止は聞こえない。一樹しか見えない。
「一樹!! 一樹ぃ!!」
ゴロゴロ転がる一樹がムクリと起き上がった。そして、海斗の顔を見ると青ざめた。
「海斗……何で!? 俺、ここに海斗が現れるって望んでないのに!!」
一樹は混乱しているようだ。
だが、海斗の後から現れた正嗣を見て、困惑顔が怒りの表情へと変わった。
「あれ、明晰夢を見てるんですか? 最近は全然だったのに。もしかして自殺してからずっと夢で意識あったり?」
「マサさん。海斗がここにいるのってアンタのせい?」
「そうですね。夢の中だと素直ですね、怒りを隠さない」
「どうせ起きたら忘れる記憶だしな。早く海斗連れて帰れって。俺をまだ苦しめたいの?」
一樹と正嗣の攻防だったが、その一言で海斗は我慢出来ず一樹に詰め寄った。
「……俺がいたら苦しいの?」
否定を望んだ問いだった。だが、夢の中の一樹は一切思いやる事はしなかった。
「苦しい。早く海斗の事忘れたいから何も無いところで死ぬの待ってたのに。全部台無しだ」
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ここまで読んでくださってありがとうございます。
この作品はあと二話で最終話を迎えます。
二日に一話ずつ投稿する予定ですので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
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