あなたに誓いの言葉を

眠りん

文字の大きさ
上 下
21 / 26
二章

七話 海斗と正嗣

しおりを挟む
「とりあえず、仁科さんは距離取って頭冷やして下さい。夫さんは俺が一旦預かります」

 男は今までの挑発的な言い方ではなく、落ち着いた声で一樹に言った。
 怒りの顔を見せる一樹だが、海斗が拒んでいないどころか、安心したような顔になったので、取り返せなくなる。

「……海斗はいいの? 俺と離れてもいいの?」

 泣きそうな声で縋るような目を向けられると、海斗は弱くなるが、男がそれを制した。

「その言い方は卑怯ですよ。相手を思いやってくださいよ、いつもみたいに。じゃあまた明日」

 海斗は男に手を引かれて外に出た。約一ヶ月ぶりの外だ。涼しい風が頬を凪いだ。

「……空気がおいしい」

 ポツリと呟くと、聞いていた男がクスリと笑った。

「ずっとあんな部屋にいたんだから、外の方が気持ち良く感じるだろ」

「そうですね。あ、ありがとうございます。もう一生出られないかと思っていました」

「気にすんなよ。俺も中途半端に関わっちまったから、気になってな。
 そういえば言い忘れてた。俺は清水正嗣っていう。あなたは海斗さん、だよな?」

「はい。清水さん……」

「気軽にマサでいいぜ」

「それで一樹がマサさんって呼んでたんですね」

「ああ」

 二人は外灯と星の明かりだけが頼りの暗い住宅地を歩きだした。

「一樹のストーカーしてたんですか?」

「……ああ」

「まさか今日も……?」

「いや。チャイム鳴らしたけど出ないから、心配でさ。仁科さんが海斗さんを監禁してたのは知ってたし」

「一樹とどういう関係?」

「一樹は職場の先輩なんだよ。まぁ一樹目当てで入社したんだけどな。因みに年は俺の方が上だから」

 ムッとして海斗が睨むと、正嗣は自信ありげな笑みを浮かべた。

「あんな事されても仁科さんが好きなんだ?」

「悪いですか? どんな一樹だって、俺にとっちゃ大事な人には変わりないし」

「なのにDVしてたのか?」

 言い訳のしようもない事実を突きつけられ、海斗は苦い顔になる。

「うっ……。今までずっと自分の事しか大事に出来てなかったんです。一樹を大事にしなきゃって頭では分かっているのに、それが出来なかった」

「皆そんなもんだろ」

「けど、あいつはずっと苦しんできたから、俺が守らなきゃいけなかった。なのに守れないどころか傷付けた。
 また自分を大事にしてしまった」

 海斗は俯いた。外に出れた事は嬉しいが、一樹を思うと出てはいけなかった気がしている。
 そんな海斗を見て、正嗣は溜息をついた。

「はぁ。人間皆そんなもんだろ。海斗君は実家に帰りたいんだっけ?」

「はい」

「なら今日は俺の家で寝て、明日仁科さんが仕事行ってる間に荷物持って実家に帰りな」

 海斗は涙を流した。やっと実家に戻れると思ったらホッとしたのだ。

 正嗣の家は一軒家だ。二階建てで一人暮らしをしている。
 二階は殆ど使っていないので一階の寝室で二人で寝る事にした。夜が更けてからダブルベッドに二人並んで横になる。

「あの、ありがとうございます。ここまでしてもらって」

「仁科さんへの罪滅ぼしの気持ちが強いかな。多分、彼を追い詰めたのは俺だろうし」

「ストーカーしてた件か?」

 ふーっと息を吐く正嗣。言いづらそうに、だがゆっくりと話し始めた。

「信じてもらえないと思うけど。俺さ、最初はストーカーしてる自覚なかったんだよ」

「はぁ?」

「とあるきっかけで仁科さんの事を知って、でも仁科さんは俺の事知らないから、遠くから見守ってた。
 仁科さんが帰り道後ろを警戒するようになって、俺がストーカーだと思われてるって気付いた」

「そこでやめなかったのかよ?」

「怖がらせてでも本気で仁科さんを救うって決めたんだ。ストーカー行為は続行して、海斗君と別れさせるって躍起になってた」

「マジかよ」

 海斗は引いた。自分がした事を棚上げしていると分かっているが、それでも正嗣の行動は理解不能だ。
 もっとやりようはなかったのか。

「海斗君に送っただろ、一樹と職場の先輩のツーショット」

「あ、あれお前か!」

「そう。普通の先輩と後輩って関係で、全く浮気とかしてないから」

「それくらい最初から分かってる。分かってて、一樹を責める口実にしたんだ」

 海斗は唇を噛んだ。そんな事ばかりしてしまった後悔が止まらない。一樹の思いを知ってから、後悔だけが頭から離れないのだ。

「あれは、仁科さんの浮気が原因で別れる期待を込めて送った。まさかそれが原因で仁科さんがここまで暴走するとは……」

「普段大人しい奴ほどって事か?」

「いや、仁科さんの怒りの琴線に触れたんだろう。君からの暴力より、浮気の証拠の捏造に怒っていんだと思う」

「やっぱり俺が一樹の傍にいて変態ストーカーから守らないと」

「俺はもうそんな事しないよ」

 その話を少し安心した海斗は、久々にゆっくり眠れそうだとウトウトした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきな俺たち

眠りん
BL
 二年前、俺はある事情から亡くなった異父兄妹の妹になりすまして中学生活を送っていた。  義理の父に恋をしている俺はその恋心を隠して、彼に気に入られたい一心で母親の喜ぶ事をしていた。  けれど、ある日の球技ボールで同じクラスの怜治に俺のプレイを褒められた。  褒められる事は麻薬のような気持ち良さがあり、欲しい言葉をくれる彼に惚れてしまった。  お義父さんへの恋が霞んでしまう程に。  怜治は俺に「付き合って下さい」と告白してくれた。そこは頷くしかないだろう──と思った瞬間。  「お前みたいなブスに誰が告るかよ!」って暴言吐いてきた。許さん。  その後男の姿に戻った俺は二年遅れで高校生になった。だが入学式、クラスには怜治がいた。しかも俺に絡んでくる。  怜治の弱みを握る事が出来た俺は、罰を与える事にした。これは復讐だ。 表紙:右京 梓様

エゴイスティック・ラブ

眠りん
BL
 恋坂高校には二人の学園アイドル、由那と木元がいる。  主人公の千優は木元に恋をしており、由那を嫌っているが、なんと由那と身体が入れ替わってしまった。  しかも由那の身体は全身が超敏感体質で、セックス依存症でもあった。  由那を狙うイジメの影、アイドルとしての生活──千優は乗り越えられるのか。 ※一部輪姦や残酷表現があるので、苦手な方は気をつけ下さい。 ※エロ要素は少なめです。

『僕は肉便器です』

眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。  彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。  そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。 便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。 ※小スカあり 2020.5.26 表紙イラストを描いていただきました。 イラスト:右京 梓様

誰にも止められない

眠りん
BL
永瀬君は小倉君達のグループに毎日輪姦されています。 永瀬君は嫌がって泣いていますが、クラスの人達は小倉君が怖いので黙っています。 これはいじめです。 許せません。 正義感の強い人、偶然巻き込まれてしまった人、中途半端に首を突っ込んでしまった人、邪な気持ちで助けようとした人……。 様々な人がこのいじめに巻き込まれていきます。 だけど誰も止める事も、助ける事も出来ません。 彼らはどうなってしまうのでしょうか。 ※SM、乱交、輪姦、小スカ、苦痛、リバなどがあります。 ※拘束、監禁、盗撮、盗聴、ストーカーなどの犯罪行為も普通にあります。これらの行為を推奨しているわけではありません。 ※二章はエッチシーン少ないです。 苦手な方、受け付けない方はご注意ください。作中では特に注意書きはしません。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

処理中です...