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二章
七話 海斗と正嗣
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「とりあえず、仁科さんは距離取って頭冷やして下さい。夫さんは俺が一旦預かります」
男は今までの挑発的な言い方ではなく、落ち着いた声で一樹に言った。
怒りの顔を見せる一樹だが、海斗が拒んでいないどころか、安心したような顔になったので、取り返せなくなる。
「……海斗はいいの? 俺と離れてもいいの?」
泣きそうな声で縋るような目を向けられると、海斗は弱くなるが、男がそれを制した。
「その言い方は卑怯ですよ。相手を思いやってくださいよ、いつもみたいに。じゃあまた明日」
海斗は男に手を引かれて外に出た。約一ヶ月ぶりの外だ。涼しい風が頬を凪いだ。
「……空気がおいしい」
ポツリと呟くと、聞いていた男がクスリと笑った。
「ずっとあんな部屋にいたんだから、外の方が気持ち良く感じるだろ」
「そうですね。あ、ありがとうございます。もう一生出られないかと思っていました」
「気にすんなよ。俺も中途半端に関わっちまったから、気になってな。
そういえば言い忘れてた。俺は清水正嗣っていう。あなたは海斗さん、だよな?」
「はい。清水さん……」
「気軽にマサでいいぜ」
「それで一樹がマサさんって呼んでたんですね」
「ああ」
二人は外灯と星の明かりだけが頼りの暗い住宅地を歩きだした。
「一樹のストーカーしてたんですか?」
「……ああ」
「まさか今日も……?」
「いや。チャイム鳴らしたけど出ないから、心配でさ。仁科さんが海斗さんを監禁してたのは知ってたし」
「一樹とどういう関係?」
「一樹は職場の先輩なんだよ。まぁ一樹目当てで入社したんだけどな。因みに年は俺の方が上だから」
ムッとして海斗が睨むと、正嗣は自信ありげな笑みを浮かべた。
「あんな事されても仁科さんが好きなんだ?」
「悪いですか? どんな一樹だって、俺にとっちゃ大事な人には変わりないし」
「なのにDVしてたのか?」
言い訳のしようもない事実を突きつけられ、海斗は苦い顔になる。
「うっ……。今までずっと自分の事しか大事に出来てなかったんです。一樹を大事にしなきゃって頭では分かっているのに、それが出来なかった」
「皆そんなもんだろ」
「けど、あいつはずっと苦しんできたから、俺が守らなきゃいけなかった。なのに守れないどころか傷付けた。
また自分を大事にしてしまった」
海斗は俯いた。外に出れた事は嬉しいが、一樹を思うと出てはいけなかった気がしている。
そんな海斗を見て、正嗣は溜息をついた。
「はぁ。人間皆そんなもんだろ。海斗君は実家に帰りたいんだっけ?」
「はい」
「なら今日は俺の家で寝て、明日仁科さんが仕事行ってる間に荷物持って実家に帰りな」
海斗は涙を流した。やっと実家に戻れると思ったらホッとしたのだ。
正嗣の家は一軒家だ。二階建てで一人暮らしをしている。
二階は殆ど使っていないので一階の寝室で二人で寝る事にした。夜が更けてからダブルベッドに二人並んで横になる。
「あの、ありがとうございます。ここまでしてもらって」
「仁科さんへの罪滅ぼしの気持ちが強いかな。多分、彼を追い詰めたのは俺だろうし」
「ストーカーしてた件か?」
ふーっと息を吐く正嗣。言いづらそうに、だがゆっくりと話し始めた。
「信じてもらえないと思うけど。俺さ、最初はストーカーしてる自覚なかったんだよ」
「はぁ?」
「とあるきっかけで仁科さんの事を知って、でも仁科さんは俺の事知らないから、遠くから見守ってた。
仁科さんが帰り道後ろを警戒するようになって、俺がストーカーだと思われてるって気付いた」
「そこでやめなかったのかよ?」
「怖がらせてでも本気で仁科さんを救うって決めたんだ。ストーカー行為は続行して、海斗君と別れさせるって躍起になってた」
「マジかよ」
海斗は引いた。自分がした事を棚上げしていると分かっているが、それでも正嗣の行動は理解不能だ。
もっとやりようはなかったのか。
「海斗君に送っただろ、一樹と職場の先輩のツーショット」
「あ、あれお前か!」
「そう。普通の先輩と後輩って関係で、全く浮気とかしてないから」
「それくらい最初から分かってる。分かってて、一樹を責める口実にしたんだ」
海斗は唇を噛んだ。そんな事ばかりしてしまった後悔が止まらない。一樹の思いを知ってから、後悔だけが頭から離れないのだ。
「あれは、仁科さんの浮気が原因で別れる期待を込めて送った。まさかそれが原因で仁科さんがここまで暴走するとは……」
「普段大人しい奴ほどって事か?」
「いや、仁科さんの怒りの琴線に触れたんだろう。君からの暴力より、浮気の証拠の捏造に怒っていんだと思う」
「やっぱり俺が一樹の傍にいて変態ストーカーから守らないと」
「俺はもうそんな事しないよ」
その話を少し安心した海斗は、久々にゆっくり眠れそうだとウトウトした。
男は今までの挑発的な言い方ではなく、落ち着いた声で一樹に言った。
怒りの顔を見せる一樹だが、海斗が拒んでいないどころか、安心したような顔になったので、取り返せなくなる。
「……海斗はいいの? 俺と離れてもいいの?」
泣きそうな声で縋るような目を向けられると、海斗は弱くなるが、男がそれを制した。
「その言い方は卑怯ですよ。相手を思いやってくださいよ、いつもみたいに。じゃあまた明日」
海斗は男に手を引かれて外に出た。約一ヶ月ぶりの外だ。涼しい風が頬を凪いだ。
「……空気がおいしい」
ポツリと呟くと、聞いていた男がクスリと笑った。
「ずっとあんな部屋にいたんだから、外の方が気持ち良く感じるだろ」
「そうですね。あ、ありがとうございます。もう一生出られないかと思っていました」
「気にすんなよ。俺も中途半端に関わっちまったから、気になってな。
そういえば言い忘れてた。俺は清水正嗣っていう。あなたは海斗さん、だよな?」
「はい。清水さん……」
「気軽にマサでいいぜ」
「それで一樹がマサさんって呼んでたんですね」
「ああ」
二人は外灯と星の明かりだけが頼りの暗い住宅地を歩きだした。
「一樹のストーカーしてたんですか?」
「……ああ」
「まさか今日も……?」
「いや。チャイム鳴らしたけど出ないから、心配でさ。仁科さんが海斗さんを監禁してたのは知ってたし」
「一樹とどういう関係?」
「一樹は職場の先輩なんだよ。まぁ一樹目当てで入社したんだけどな。因みに年は俺の方が上だから」
ムッとして海斗が睨むと、正嗣は自信ありげな笑みを浮かべた。
「あんな事されても仁科さんが好きなんだ?」
「悪いですか? どんな一樹だって、俺にとっちゃ大事な人には変わりないし」
「なのにDVしてたのか?」
言い訳のしようもない事実を突きつけられ、海斗は苦い顔になる。
「うっ……。今までずっと自分の事しか大事に出来てなかったんです。一樹を大事にしなきゃって頭では分かっているのに、それが出来なかった」
「皆そんなもんだろ」
「けど、あいつはずっと苦しんできたから、俺が守らなきゃいけなかった。なのに守れないどころか傷付けた。
また自分を大事にしてしまった」
海斗は俯いた。外に出れた事は嬉しいが、一樹を思うと出てはいけなかった気がしている。
そんな海斗を見て、正嗣は溜息をついた。
「はぁ。人間皆そんなもんだろ。海斗君は実家に帰りたいんだっけ?」
「はい」
「なら今日は俺の家で寝て、明日仁科さんが仕事行ってる間に荷物持って実家に帰りな」
海斗は涙を流した。やっと実家に戻れると思ったらホッとしたのだ。
正嗣の家は一軒家だ。二階建てで一人暮らしをしている。
二階は殆ど使っていないので一階の寝室で二人で寝る事にした。夜が更けてからダブルベッドに二人並んで横になる。
「あの、ありがとうございます。ここまでしてもらって」
「仁科さんへの罪滅ぼしの気持ちが強いかな。多分、彼を追い詰めたのは俺だろうし」
「ストーカーしてた件か?」
ふーっと息を吐く正嗣。言いづらそうに、だがゆっくりと話し始めた。
「信じてもらえないと思うけど。俺さ、最初はストーカーしてる自覚なかったんだよ」
「はぁ?」
「とあるきっかけで仁科さんの事を知って、でも仁科さんは俺の事知らないから、遠くから見守ってた。
仁科さんが帰り道後ろを警戒するようになって、俺がストーカーだと思われてるって気付いた」
「そこでやめなかったのかよ?」
「怖がらせてでも本気で仁科さんを救うって決めたんだ。ストーカー行為は続行して、海斗君と別れさせるって躍起になってた」
「マジかよ」
海斗は引いた。自分がした事を棚上げしていると分かっているが、それでも正嗣の行動は理解不能だ。
もっとやりようはなかったのか。
「海斗君に送っただろ、一樹と職場の先輩のツーショット」
「あ、あれお前か!」
「そう。普通の先輩と後輩って関係で、全く浮気とかしてないから」
「それくらい最初から分かってる。分かってて、一樹を責める口実にしたんだ」
海斗は唇を噛んだ。そんな事ばかりしてしまった後悔が止まらない。一樹の思いを知ってから、後悔だけが頭から離れないのだ。
「あれは、仁科さんの浮気が原因で別れる期待を込めて送った。まさかそれが原因で仁科さんがここまで暴走するとは……」
「普段大人しい奴ほどって事か?」
「いや、仁科さんの怒りの琴線に触れたんだろう。君からの暴力より、浮気の証拠の捏造に怒っていんだと思う」
「やっぱり俺が一樹の傍にいて変態ストーカーから守らないと」
「俺はもうそんな事しないよ」
その話を少し安心した海斗は、久々にゆっくり眠れそうだとウトウトした。
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