あなたに誓いの言葉を

眠りん

文字の大きさ
上 下
11 / 26
一章

十話 直人の核心

しおりを挟む
 翌日、海斗の世話を終えて会社に着くと、正嗣に早速相談をした。

「えっ。会社内の人間がストーカーなんですか?」

 正嗣は訝しむ顔を一樹に向ける。一樹は正嗣の納得がいくように説明をした。

「そうです。犯人は、この会社内にいて、尚且つ海斗を知っている人です」

「あぁ、彼氏さんにメールが送られてきたんでしたっけ?」

「よく覚えてましたね。そうです、俺と先輩が歩いているところを写真に撮って、あたかも俺が浮気しているという体でメールが送られたんです!
 お陰で、まだ俺が浮気してるっていう疑惑が晴れてないんですよ!」

「まだ彼氏さん、好きなんですね」

「当たり前ですよ。とりあえず、社内の人間って分かった事は収穫です」

 一樹はフロア全体を見渡した。怪しい人物がいればすぐに問い詰めるつもりで視線を巡らすと、ある人物と目が合う。
 だが、その人物は一樹と目が合うと立ち去ってしまった。

「え?」

「どうしたんですか?」

 正嗣は一樹に心配そうな目を向けた。一樹は一点を見つめたまま答える。

「……今、直人が」

「直人?」

「直人、です。経理部の俺の幼馴染み。まさか」

「心当たりでもあるんですか?」

 一樹は頷いた。思い返すと、直人が怪しいと思う場面があった。
 
「海斗に送った、俺と先輩が写ってる写真。あの時撮れる人がいたとしたら、直人なら近くにいたからいつでも撮れたと思います。
 それに、休日に外で声を掛けられたんですけど、あれが偶然じゃなかったら……?」

「まぁ、その直人さんって人って決まったわけじゃないですし。話を聞いてみましょうよ」

「ああ……」


 一樹は直人に昼休憩の時に「退社後に話がある」と、その日は早々に仕事を片付けて二人で会社の屋上へ行った。

「もう梅雨だってのに、今日は良い天気だねぇ」

 直人は呑気に笑いながら空を仰ぎ見ている。そんな直人に不信感を隠せない一樹は、返事をせずに無言のままだ。

「一樹、どうしたんだ? 今日なんか変だぞ。昼もなんか睨まれてた気もするし。俺、何かしたかな?」

「あのさ。俺に何か言う事ない? 俺の勘違いなら良いんだけど、もしそうなら……怒るかも」

「えっ」

 直人は急に挙動不審になった。眼球がキョロキョロ動き回り、手持ち無沙汰となった両手をモミモミと握って指が忙しなく動く。

 隠し事をしてバレた子供のようである。一樹は、やはり直人が犯人かと覚悟する。

「ごめん。今までずっと……」

「なんでだよ、正直に言ってくれれば許したのに」

「うん。でもさ、言えるわけないよね。一樹は彼氏さんいるし、言っても迷惑になるだけだと思って」

「言わなくても迷惑だったけど。まぁこれからは変な事するなよ」

「そ、そんなに分かりやすかった?」

「アピールしてたんじゃないの?」

「そうだよな。うん、もうそういう事はしない。悪かった」

「俺も気付かなくてごめん」

 そこで会話は終了し、それぞれ帰路についた。

 犯人は直人だったのだ。これで後は海斗との問題だけが解決すれば幸せになれる。そう信じて一樹は駅からアパートまでの道を歩いた。

 だが……。
 アパートに近付くにつれ、後ろを誰かが着いてきている気配を感じた。
 いつものストーカーだ。振り返っても姿を見せないのに歩き出すと距離を詰めてくる。

 一樹はスマホを手に取りすぐに直人に電話をした。直人はすぐに電話に出たが、電話口からは騒がしい音がしている。

「も、もしもし? 直人、今、どこにいる?」

「え? 居酒屋だけど。振られたから傷心を癒そうと思ってね」

「振られたって、さっきの話?」

「それ以外に何があるんだよ。まぁ分かってたけどさ。もう一樹の部署覗いたり、昼食誘わないから安心して」

 一樹の額から汗が流れた。直人はストーカーではなかったのだ。
 悪寒を感じて、早歩きになる。

「さっきの話さ、俺と直人の話食い違ってたかも」

「どういう意味?」

「とりあえず直人がストーカーじゃないって事は分かった」

「はあ!? 俺ストーカー疑われてたの!? しないよそんな事!! そもそもそんな暇ねぇって。仕事終わったらジムか遊びに行ってたし」

「はは……。ありがと。明日からも昼飯くらいは一緒に食べるのはいい、かな?」

「いいよ。じゃ、明日な」

 電話を切ると、一樹は走って部屋に帰った。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 こんな時、海斗に悩みを相談出来たら少しは気持ちが軽くなるのに、と悲しくなった。

 ストーカーの事は忘れて家事をしなければ、そう思いながら靴を脱ごうとした時、玄関にはいつもはこの時間には無い海斗の靴があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

幼馴染から離れたい。

じゅーん
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

元会計には首輪がついている

笹坂寧
BL
 【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。  こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。  卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。  俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。    なのに。 「逃げられると思ったか?颯夏」 「ーーな、んで」  目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...