上 下
40 / 65

空気の読みすぎ Ⅲ

しおりを挟む
「ゴホッ!!……ペッペッ!……なんか、少し飲んじゃったけど、大丈夫だろうかっ!」

 ガーゼルが口からスライムを吐き出しながら、激しく肩を上下させている。

「口を、ゆすいだ方が良い」
 フォンシルが優しくも、指先からチョロチョロと水魔法を出して顔に向かって流している。
 まだ、さきほどのガーゼルの発言を許していないグランはその姿を黙って見ているだけだ。

 グランの持つ清廉潔白で前向きな加護は、この怒りには作動しなかったようである。

「……ところで、ガーゼルはアルフのいるところへは行った事あるんですか?」

 だが、必要な情報だけは手に入れておかないと。

「もちろんですよ。ほら、ご飯を持っていくこともありますし。さすがに最下層の方の魔物は固くて肉が美味しくないですから」

 このダンジョンの魔物を食べてるのか。
 森と比べ、何となくまずそうで抵抗があるが。

「最下層って何階くらいですか?」
「100階です。すごいですよね。まあ、創造神からしたら、大した事ないかもしれませんけど」
「もしかして、魔物は下につれて強くなるパターンとか?」
「まぁ、そうですね」

 終わった。
 まだ一階で、この大惨事なのに。

 さきほど水魔法を出したついでだと言いながら、物陰でセルフシャワーを浴び、服を浄化魔法で綺麗にしたフォンシルが戻ってきていた。
 入れ違いに、汚れたガーゼルが物陰に行く。

「……そうか。じゃあ、少なくとも10日間はかかりそうだな」
 フォンシルが、顎に指先をあて眉をひそめながら考え込む。
「では、食料などを買って戻ってきますか?」
「いや、グラン。アダマゼインは先に行っているのだろう?保存食と魔物食で何とかしよう」

 うーん。
 嫌だけど仕方ない。
 あきらめて、出発するしかないか。

 そう2人でいろんな可能性を考えつつ、ついに諦めて立ち上がると、自分の体と服を浄化させて戻ってきていたガーゼルにも意見を求めた。
 やはり、有識者にも相談しなければ。

「過酷かもしれないけど、このまま進むで良いですか?それしか方法がないみたいで」

 すると、ガーゼルは手のひらを上に向け魔法鍵を浮かび上がらせる。

「アルフが作った近道がありますけど、使いますか?」
「………え?」

 近道があるのか。
 なのに、何でもっと早く言わないのか。

「使います。早く教えて下さい。そういうのを待ってた!」
「会議中のようでしたので……」
「ケンカ?ケンカしたいの?やる?」

 ついつい、グランは敬語も忘れて腕を掴む。
 積もりに積もった怒りが、爆発しそうだ。

「うぅ、そんな、怒らなくても。ジャスキル石をたくさん集めていたようだったので、あえてかと……」

 ……ジャスキル石?
 ゆっくりと、ガーゼルから手を離す。

 それは、少し、いや、かなり魅力的だ。

「このダンジョンに名付けられてない石を持った魔物は、どれくらいいますか?」
「まぁ、上層部はアルフがたいてい手に入れてたようですが、最下層の方のは期待が持てるかと」

 ……そうか。

「じゃあ近道で一気に90層くらい下り、あとは戦闘をしながら下がりましょう。いかがですか?フォンシル様」

 フォンシルは、グランの提案に急いだほうが良いのではないかと思いつつも、少し考えてからうなずく。

「……アダマゼインの話を聞いた限り、その石に何か秘密がある気もする。集めておいた方が良いかもしれないな」

 その返事に、グランの目がキラキラと輝く。

「ありがとうございます。きっと、1日いただければ全て集められるかと」

 よし。

 一瞬だけ両親の事も、この世界の事も、すべてを忘れるくらい興奮してしまった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...