花言葉を俺は知らない

李林檎

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日常

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ーイノリsideー

翌朝、とてもモヤモヤした気持ちで起きた。
…ハイドのあんな夢を見た事もきっと関係しているだろう。
そして、ロミオの事も少し考えていた。

ロミオの気持ちに早く気付いていれば、ちゃんと断っていたら彼にとって別の幸せがあったのではないかと…
いくら考えたってもう遅いけど…
そしてもう一つ、気になってる事を1日寝てすっきりした脳が思い出した。

ロミオは誰に瞬がイノリだと教えたのか、イノリが瞬なんて知ってるのは本人だけなのに…
聞きたくてもロミオはいない、その事実がイノリを不安にさせる。
……ただ一つ、そうなんじゃないかという疑問があった。

誰かがイノリを殺そうとしている。

考え過ぎだったらいいけどと思いながら布団から出て片付ける。






ーーー

「おはよー!イノリさん」

「おはようシヴァくん」

あの事件から数日が経ち、店を開店させて少ししたらすっかり常連客になったシヴァがやって来た。
名前はこの前お互い教え合って、イノリの方が年下なのに何故か今の呼び名で落ち着いてしまった。

シヴァにはよく新作お菓子の味見を頼んでいる。
一見絶賛しかしないように見えて、ちゃんと意見を言ってくれるから助かっている。

今日も新しいお菓子をシヴァに味見してもらおうと一口サイズにカットしたケーキの端を渡す。
シヴァは不思議そうに見ていた。

「イノリさんこれは?」

「チーズケーキだよ、甘さ控えめだけど苦くはないから」

シヴァは苦い…つまりビターなお菓子が苦手で一度も口にした事がないと言っていた。
休憩の合間に角砂糖を食べるほどの甘党で、正直糖分の摂り過ぎが気になる。
最近だとイノリのお菓子を食べて角砂糖は食べてないみたいでホッとしつつ、ほどほどにと言っておく。

苦くないほどに野菜も混ぜてみようかな?と真剣に考える。

チーズケーキをよく味わい食べて、飲み込む。
ドキドキしながらシヴァを見るとニコッと笑っていた。

「美味しいよ、けど俺はもっと甘いのがいいな」

シヴァには甘さ控えめのお菓子は好きじゃないみたいだ。
じゃあ今度はシヴァが好きな甘いお菓子の新作を考えよう。
ハイドはチーズケーキ喜んでくれるかな?と渡す勇気もないのに考える。

シヴァのお気に入りで砂糖を煮詰めた液体と混ぜて焼いたスポンジに冷たいアイスが乗ったカップケーキを指差した。
今日はこれを買いに来たようだ。
持ち帰ると溶けそうだと思っていたら「今日は非番だからここで食べるよ」と言うから会計を済ませてトレイにカップケーキとフォークとスプーンを乗せて食事スペースに座るシヴァの前まで持ってくる。

「あっ、トッピング出来る?」

「今日はチョコとベリー草があったかな」

「ベリー草って花の蜜だっけ?」

ベリー草は蜂蜜のような甘い蜜が取れる花で雨の日にしか花が咲かず、なかなか採取が難しいと言われているがこの間よろず屋のおじさんがたまたま雨の日に出かけて大量に仕入れたらしくイノリは一度お菓子に使ってみたく買ってきた。
ベリー草はいろんなお菓子に使うからレパートリーが増える。

まだベリー草は沢山あるからシヴァにすすめるとシヴァもベリー草は初めてだからか目を輝かせて「じゃあそれで!」と言ったから急いで厨房に戻る。
棚に置いてあったベリー草がいっぱい入っている瓶を取る。
中から二本取り出し残りは棚に戻す。
すり潰し、蜜を出して小皿に入れてシヴァが待つ店内に戻る。

「はぁー、やっぱり暑い日は冷たくて甘いものだよねぇ」

「そうだね」

今日は客が少なくのんびりと出来ていた。
ベリー草の蜜が掛かったアイスをスプーンで掬い一口食べては幸せそうな顔をする。
まだ夏じゃないのに最近暑くて冷風機でも買おうかと迷っていた。
イノリだけなら我慢できるがお客さんのために真剣に考える。

思い出したようにシヴァはイノリを見た。
その瞳は期待に満ち溢れていた。

「イノリさんはカーニバルに行かないの?」

「え?カーニバル?」

「…まさか、知らないの?」

イノリが首を傾げているとシヴァはとても驚いた顔をする。
この国の常識なのかと一生懸命考える。

イズレイン帝国は世界の中心で大きな国だからいろんなお祭りが多くて正直一回しか行ってないからあまり覚えていない。
…そういえば一つだけ恋人のお祭りがあった気がした。
あの時はまだハイドと恋人同士じゃなかったから、いつか一緒に行きたいなと思っていた記憶がある。

……今年はハイドは婚約者と行くのかなとシュンと落ち込んだ。

それに気付いたシヴァは何にイノリが落ち込んでるのか分からず首を傾げる。

「…イノリさん?」

「ご、ごめんね!何のカーニバル?」

イノリはせっかくシヴァが美味しそうにお菓子を食べてくれてるのに空気を悪くさせちゃダメだと笑うが、無理してるのがバレバレなのかシヴァは苦笑いしていた。
それでも何も聞かないシヴァの優しさに救われたような気がした。
シヴァはどう説明しようか悩んで、諦めた顔をした。

勉強不足で申し訳なく思った。
分かってたらシヴァの負担を無くせたのにと思う。
イノリとして一生を過ごすならいろいろ経験が大事だろう。
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