花言葉を俺は知らない

李林檎

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.ハイドを想う者..

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10「…ちゃんと歩きなよ、それともあの変態になにか盛られた?」

「ううん、ありがとう…」

「別にアンタのためじゃないから、ハイド様のためなんだから」

そう冷たくイブは言うが何処か寂しそうな感じがする声だった。
イブがなにか思い悩む事があるのかと思ったが聞ける空気じゃなく、大人しくしていると突然明るい場所に出て目を瞑る。
一階に来たみたいで普通の部屋の明かりも暗い部屋にいたイノリにとって眩しかった。

しばらくすると目が明かりに慣れてゆっくりと開ける。
ロミオは金持ちだったのだろうか、豪華な客間が目の前に広がっていた。
まさかあの地下がロミオの家の地下だとは思わず驚いた。

イブは壁に寄りかかりイノリを見ていた。

「アンタ本当に瞬なわけ?」

「…お、俺の名前はイノリです」

「そう、なんか隠す事情があるんだ」

イブはなにかを察してそれ以上何も言わなかった。
イノリが瞬だと、ハイドが幸せになれない…結婚の邪魔をしてしまうから隠しているだけ…だからハイドの耳に瞬は生きていると入らないように瞬を知る人達には関わりたくなかった。
ロミオの件も瞬を愛しているから助けに来たわけではなく、知り合いだからという気持ちしかなかったのだろう。
…今回の事で二人にもバレてしまったから今度はちゃんと気を引き締めようと考えていた。

イブにも言わなきゃならない、ハイドに知られる前に…
今はどうか知らないがイブはハイドとは直接の面識はほとんどなかった。
リチャードの直属の部下でリチャードを通してハイドと会うぐらいだった。

リチャードに知られると幼馴染みで親友だから必ずハイドにも知られる、だからイブでも安心出来なかった。

誤魔化しても無駄なら覚悟を決めてイブを見た。
巻き込んでごめんなさい、でもたった一つのお願いを聞いてくれたらもうイブの前には現れないから…だから…

「イブくん、誰にも言わないで…特にハイドさんに…お願い」

「…アンタはそれでいいの?まだハイド様が好きなんじゃないの?」

「………」

好き、好きだよ…大声で叫びたいほど愛している。
けど、自分の想いだけ押し付けたってハイドが困るだけだと思っている。
…だからイノリは一人でハイドを想い続ける、いつか幸せな貴方の姿を祝福出来るその時まで…

イノリのなにか決意した顔を見て、イブは罪悪感が芽生えた。

もしかしたら自分がハイドの結婚を瞬に知らせたから死んだのではないかと…

イブの言葉だけを信じるとは思えないが、あの時のイブはハイドに裏切られた気持ちでショックで…何も知らず楽しそうにハイドへの贈り物を作る瞬にイライラして八つ当たりのように言った。
ハイドが婚約破棄しようとしている事はリチャードしか知らない事でイブはまだ知らなかった。
ハイドが他の人と結婚するから会いたくない気持ちは痛いほど分かった。

彼…イノリはハイドにもう会う気はないみたいだが、今のハイドは誰が見ても変わってしまった。
それが瞬の死に関連する事なら、イノリにはハイドの事は言わない方がいいと思った。
また余計な事を言ってイノリを傷付ける事がイブは怖かった。

誰かの足音が近付き再びイブは背中にイノリを隠した。
若干イノリの方が身長高いからしゃがむように言われて小さく縮こまる。
昔は同じくらいだったが、この身体の持ち主がやや大きいのだろう。

自分の身体じゃない筈なのに、日に日に違和感なく馴染んでいく気がした。
まるでこの身体が自分のもののように…

客間に入ってきたのは瞬の棺を運んでいた一人の騎士だった。

「こちらは終わりました!」

「分かった、すぐに行く」

騎士が出て行きイノリはイブの後ろから出る。
イノリの知るイブは新人だった。
あの騎士はイブの部下なのだろうか。
身長は相変わらず小さいが、出世したようだ。

新人の頃のイブを知ってるからかなんか成長を見守るお父さんのような気分で尋ねる。
とても優しい気持ちになった。

「イブくん出世したの?」

「…一年は長かったんだよ、もうアンタの知る騎士団は何処にもない」

イブはそう言い客間を出るから慌ててイノリも出た。
確かにハイドも変わったように思える。
イノリの記憶はずっと眠っていたから死ぬ前で止まっていた。
自分で歯車を回さなくてはすぐに皆に置いていかれるような気がして怖かった。

…イノリだけが、何も成長していない。
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