花言葉を俺は知らない

李林檎

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歩む道

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ーイノリsideー

ハイドが壁に寄りかかり寝てるのが見えた。
ハイドの傍には真っ白な馬が寄り添っていた…ハイドの愛馬だ。
あれ?なんでここにいる?というかここはどこ?
イノリは状況が飲み込めず慌てて帰ろうと立ち上がる。

そこで妙に肌寒いなと違和感に気付き下を見る。
自分の格好を見て敷かれた毛布を抱えて頭から被る。
ハイドは起きる気配がなくて一先ずホッとした。

「な、なんで俺…裸?」

洞窟の入り口付近には干された洗濯物があった。
濡れたままだと風邪引くとハイドがやったのだろうか。
掛け布団の代わりにハイドの上着が掛けられていて、ハイドの優しさを感じて感謝してハイドに掛けた。

干されていたイノリの服はまだ少し生乾きだったが我慢して着て、洞窟を出るとすっかり晴れた夜空がキラキラと輝いてきた。
精霊がイノリの周りに集まり帰りの道案内をしてくれて服を引っ張る。
それと同時に拾ってくれたのかイノリのカゴを渡してくれた。

きっと傷は精霊の癒しの力で治してくれたからお世話になったと精霊にお礼の木の実を渡した。
そしてハイドの側に行き、お礼の品を側に置く。

外に出てハイドがまだいる洞窟を振り返る。

姿形が違うからきっとイノリが瞬だとは気付いていないだろう。
何故森の中にいるのか分からないが、ハイドのおかげで命が救われたんだ。

「…でも、ごめんなさい…もう俺は、貴方に会えない」

直接ハイドにお礼が言えない、瞬だと知られるわけにはいかないから…
お礼の代わりに、森で出会った少女にもらったイチゴを置いてきた…大切な人と食べてくださいという想いを込めて…

ハイドの幸せを誰よりも願いハイドと残る精霊に「ハイドさんの事、よろしくね」と言い精霊と共に森を抜けた。
自分がどんなに傷付こうと関係ない、ハイドが…幸せならそれでいい。

洞窟から離れた場所の木に寄りかかって夜空を眺めた。
無数の星が散りばめられていてとても美しいと感じた。

イノリは誰にも気付かれないようにこっそりと涙を流した。
本当は声を出して泣きたかったが、今のイノリにその資格はない。
…ハイドに愛されなかったのは瞬に振り向かせる魅力がないからだ。

精霊以外に聞かれないから本音を呟く、さっきハイドの前で言えなかった…心の叫び…

「俺は、ここにいるよ?…ずっとずっと大好きだよ」

大好きな人を想い、彼はこの世の何処かにいるかもしれない神様に願う。

幸せであれ…






ーーー

街に戻って何だか急に会いたくなり、一度店に戻った。

今日は休業していてお菓子はあまり作っていなかったが明日店に出そうと思っていたカップケーキを厨房の冷蔵庫から取り出した。
そこには誰もいないが手土産はあった方がいいと思いカップケーキの袋を持ちある場所に向かった。

夜遅いが酒場とかから明るい声が響き、夜道が怖くなくなった。

町外れの静かな丘の上にそれは沢山並んでいた。

この場所はいろんな人が眠る人生の最後の場所と言われている。

カップケーキと一緒に持ってきた懐中電灯で照らしそこに早川瞬の名前を探す。

「なんか、自分の墓を見るって変な感じだな」

目の前には瞬の墓があった。
一度掘り起こされたからか厳重に鎖が巻かれていて苦笑いする。
お供え物のカップケーキが入った袋を置くともう一つのお供え物が目に入った。

そよ風に揺られている黄色い花びらが眩しいひまわりだった。
確かこの世界では一般的な墓参りの花は白い花だったと記憶している。
この世界のひまわりは夏の花じゃないのかと思い、誰がくれたのか気になった。

そこで思い浮かんだのはたった一人の男性だった。
あの人は花に詳しい、きっとなにかメッセージが込められているのだろうか。

…しかし、イノリには花言葉をよく知らない…ハイドも誰かに花言葉を読み取ってほしいわけじゃないだろう。
ハイドから貰い、聞いた花言葉なら覚えているがこの花は知らない。

きっと瞬にお供えする花だからお別れの花なのだろうと考えた。
…だったら知らなくていい、分かってはいたが直接さようならを言われるのが怖かった。
イノリは瞬の墓石を撫でて自分自身にお別れを告げた。

「…さようなら、早川瞬…君の想いをずっと引き継ぎ…ハイドさんの幸せを願うから」

だから、安らかに寝てていいんだよ…

本当は魂がない身体だけの墓石に向かって微笑む。
なんだかイノリとして生きていくと改めて思えて気持ちが軽くなった気がした。
さっき一目でもハイドを見られたからかすんなり瞬にお別れを言えた。

イノリの時間は少しずつだが、動き進み始めている。
第二の人生だ、瞬より幸せになって大切に歩もう。
冷たい風が吹きひまわりがまるで手を振るように小さく揺れた。

「誰かいるのか?」

イノリしかいなかったのに突然声が聞こえて驚いて後ろを振り返る。
そこには白い花を持った少年が一人立っていた。
御墓参りかと思い邪魔にならないようにすぐに立ち去ろうとしたが、少年はこんな時間に御墓参りをする人がいるのかとイノリを不思議に思いながらまっすぐに瞬の墓石に近付き花を置いた。

白と黄色の花が仲良さそうに美しく咲いていた。
やっぱ御墓参りは花が良かっただろうか、でも今の時間花屋はやってないしで今更お供え物で悩む。
少年はイノリが置いていったカップケーキをチラッと見た。

「これ、あんたの?」

「え…あ、うん…そうだけど」

「そう…」

イノリは彼を知らなかったが、彼は瞬を知ってるのだろうか。
騎士団員の中で見た事がなく入ったばかりの新人で瞬の事を聞いて御墓参りに来ただけかと考える。
それにしてはこんな時間に来るなんてと不思議に思った。
イノリも人の事言えないけど…

風が吹き、花弁が数枚舞った。
少年は墓石に手を合わせてこちらを振り返る。

「この人とどういう関係?」

「え…と、友人?」

「………なんで疑問形?」
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