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パティスリーにて
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途方にくれていても仕方ない。私は眼前のベルントさんとヴォルフさんに視線を向けた。
「まず、ハリエッタ姫がヴォルフさんのことを『婚約者』と言っていた件についてですが先日、王宮にケーキを届けに行った際にハリエッタ姫本人が『アルジェント公爵家の当主クルト様が不治の病にかかり、クルト様に子供がいないことから本来は次男が公爵家を継ぐことになるけど、次男がすでに病で亡くなっているから行方不明の三男を呼び戻して、アルジェント公爵家当主の座を三男に継がせる』という話になったと言っていました。それと同時に、蒼狼王国の王によってヴォルフさんとハリエッタ姫の婚約が決められたそうです」
「俺の知らないところで勝手な……」
ヴォルフさんは忌々しそうに顔をゆがめた。そんな銀狼獣人の横にいるベルントさんは白磁器の皿に鎮座しているクルミとレーズンのはちみつケーキを銀色のフォークで大きめにカットして口に入れ、目を閉じよく味わって二度ほど頷きながら噛みしめて咽下した後、まぶたを開け琥珀色の瞳でヴォルフさんを見た。
「おまえ、公爵家の人間だったのか?」
「まぁな……。もっとも狼獣人の一族は実家にいる間は基本的に、当主夫婦しか子供を作ることができないということになっている。だから当主以外は成人したら実家を出て縁を切るんだ。次男は長兄に何か不測の事態があった時のために蒼狼王国内にいるが、三男の立場だと完全に縁が切れる……。だから実家が公爵家といっても他国に来ればほとんど関係ない話になる」
公爵家の三男という身分でありながら、冒険者として生計を立てていたのは狼獣人の慣習や生態によるところが大きかったのかと、ようやく腑に落ちた。
「公爵家の当主になって、姫君と結婚するというのは条件的には悪い話ではないと思いますが。ヴォルフさんはハリエッタ姫と一緒に蒼狼王国に戻る気はないですか?」
「俺は……。すでに心に決めた相手がいる。狼獣人はこれと決めた相手とは一生、添い遂げたい性分だ。姫君との結婚をチラつかされたところで気持ちが揺らぐことは無い」
真摯な色を浮かべるアイスブルーの瞳で真っすぐに見つめられ、私は銀狼獣人の言葉にウソやいつわりが一切ないのが分かった。
「ヴォルフさん、好きな人がいたんですか……。それじゃあハリエッタ姫との婚約話なんて突然、持って来られても迷惑ですよね。でも、ハリエッタ姫の気性だとヴォルフさんに好きな人がいるなんて分かったら相手の女性を逆恨みしそうだから怖いですね。私がヴォルフさんからお肉をもらってるのを見ただけでも、あんなに逆上したわけだし……」
私の言葉を聞いたヴォルフさんは、なぜか自身の両手で顔をおおってうつむき落ち込んでいる。そんな銀狼獣人の姿を見た黒熊獣人は「ドンマイ」とでも言って、なぐさめるかのようにヴォルフさんの肩にポンと手を置いた。
そして消沈し続けるヴォルフさんの様子を遠くから見守っていた猫耳メイドの二人も、何故かプルプルと震えながら大きな瞳に薄っすらと光る涙をハンカチでぬぐっていた。
「まず、ハリエッタ姫がヴォルフさんのことを『婚約者』と言っていた件についてですが先日、王宮にケーキを届けに行った際にハリエッタ姫本人が『アルジェント公爵家の当主クルト様が不治の病にかかり、クルト様に子供がいないことから本来は次男が公爵家を継ぐことになるけど、次男がすでに病で亡くなっているから行方不明の三男を呼び戻して、アルジェント公爵家当主の座を三男に継がせる』という話になったと言っていました。それと同時に、蒼狼王国の王によってヴォルフさんとハリエッタ姫の婚約が決められたそうです」
「俺の知らないところで勝手な……」
ヴォルフさんは忌々しそうに顔をゆがめた。そんな銀狼獣人の横にいるベルントさんは白磁器の皿に鎮座しているクルミとレーズンのはちみつケーキを銀色のフォークで大きめにカットして口に入れ、目を閉じよく味わって二度ほど頷きながら噛みしめて咽下した後、まぶたを開け琥珀色の瞳でヴォルフさんを見た。
「おまえ、公爵家の人間だったのか?」
「まぁな……。もっとも狼獣人の一族は実家にいる間は基本的に、当主夫婦しか子供を作ることができないということになっている。だから当主以外は成人したら実家を出て縁を切るんだ。次男は長兄に何か不測の事態があった時のために蒼狼王国内にいるが、三男の立場だと完全に縁が切れる……。だから実家が公爵家といっても他国に来ればほとんど関係ない話になる」
公爵家の三男という身分でありながら、冒険者として生計を立てていたのは狼獣人の慣習や生態によるところが大きかったのかと、ようやく腑に落ちた。
「公爵家の当主になって、姫君と結婚するというのは条件的には悪い話ではないと思いますが。ヴォルフさんはハリエッタ姫と一緒に蒼狼王国に戻る気はないですか?」
「俺は……。すでに心に決めた相手がいる。狼獣人はこれと決めた相手とは一生、添い遂げたい性分だ。姫君との結婚をチラつかされたところで気持ちが揺らぐことは無い」
真摯な色を浮かべるアイスブルーの瞳で真っすぐに見つめられ、私は銀狼獣人の言葉にウソやいつわりが一切ないのが分かった。
「ヴォルフさん、好きな人がいたんですか……。それじゃあハリエッタ姫との婚約話なんて突然、持って来られても迷惑ですよね。でも、ハリエッタ姫の気性だとヴォルフさんに好きな人がいるなんて分かったら相手の女性を逆恨みしそうだから怖いですね。私がヴォルフさんからお肉をもらってるのを見ただけでも、あんなに逆上したわけだし……」
私の言葉を聞いたヴォルフさんは、なぜか自身の両手で顔をおおってうつむき落ち込んでいる。そんな銀狼獣人の姿を見た黒熊獣人は「ドンマイ」とでも言って、なぐさめるかのようにヴォルフさんの肩にポンと手を置いた。
そして消沈し続けるヴォルフさんの様子を遠くから見守っていた猫耳メイドの二人も、何故かプルプルと震えながら大きな瞳に薄っすらと光る涙をハンカチでぬぐっていた。
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