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パティスリーにて

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 侍女たちに支えられた銀髪の姫君は地面に足を踏みしめて身体を起こし、私を一瞥するとヴォルフさんを見つめた。

「ヴォルフェール様は、その娘に騙されてますわ!」

「ハリエッタ姫?」

「騙す……?」

 姫君から指をさされたが、何のことだかサッパリ分からず呆然とした。そんな私の様子を見てハリエッタ姫は不快そうに目元をヒクつかせた。

「このセリナとかいう平民の娘は金獅子国の王、レオン陛下に寵愛されている寵姫ローザに取り入って王宮に入り込んで、第二の庭で貴族令嬢のフリをしていたのです! 私、まんまと騙されてしまいましたわ! こんな身分をわきまえない厚顔な娘、ヴォルフェール様が心を砕く価値はありませんわ!」

「ええっ!」

 突然、ハリエッタ姫から怒りの矛先を向けられて戸惑っていると銀髪の姫は眉間のシワを深くして、さらに私をにらみつけた。

「それに先日、王宮でヴォルフェール様を探して蒼狼王国からはるばる金獅子国に来たと言って、この娘にもヴォルフェール様の名前と髪色、目の色を告げた上で知らないか尋ねたというのに。このセリナという平民はあろうことかヴォルフェール様のことを知らないフリをしたんです!」

「いえ、知らないフリをしたのではなく、まさかハリエッタ姫が探してる公爵家の三男がヴォルフさんだとは思わなかったので……」

「言い訳はけっこうよ! どうせ、私にヴォルフェール様を探し当てられたくないからウソをついたんでしょう!?」

「ウソをついたつもりなんて」

「お黙りなさい! こんなウソつき女の言うことなんて、みじんも信用できませんわ!」

「そんな……」

 私の言うことに聞く耳もをたないハリエッタ姫のあまりの剣幕に絶句していると、姫君の怒気をはらんだ視線をさえぎるようにヴォルフさんが私の前に立った。

「ハリエッタ姫。それ以上、セリナのことを悪く言うのはおやめ頂きたい」

「ヴォルフェール様! そんな平民の肩を持つと言うのですか!?」

「そもそも……。セリナが平民か、貴族かなど関係ないことです」

「え?」

「セリナは俺にとって命の恩人で大切な人だ。これ以上、愚弄することはいかに姫君が相手とはいえ許せるものではありません。これ以上はおひかえ下さい」

 真っすぐに見つめて告げられた言葉にハリエッタ姫は一瞬、泣きそうな顔をしてうつむいた。

「ヴォルフェール様。そんなにその女を……。分かりましたわ」

「分かって頂けましたか」

 ホッと安堵した様子で息を吐いたヴォルフさんを見た姫君は、次に私と視線をあわせた。
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