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バラ園と異国の姫君
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「実は我が蒼狼王国でね。私のお姉様が降嫁したアルジェント公爵家の当主、クルト様が不治の病にかかったのよ」
「まぁ……」
「少し前に、不治の病にかかった金獅子国王レオン陛下を死の淵から救ったのは、寵姫ローザが『聖女の力』で癒したからだってウワサを聞きつけて、病にかかっていたアルジェント公爵本人がこの王宮まで寵姫ローザを訪ねて来ていたはずよ。知らない?」
「そういう問い合わせや、私を訪ねて来る方がいるというのは聞いておりますが……。さきほどお話した通り、私は何のお役にも立てないので……。基本的に私を聖女だと誤解して来る方とはお会いしていないのです」
「そうね。確かに寵姫ローザが聖女ではないなら、先方の勝手な思い込みや誤解ということになるわね。直接、会った上で下手に『聖女ではないから病を癒せない』と断れば逆上されたり、逆恨みされる可能性もあるのだから最初から会わないという対応で正解かもしれないわね」
銀髪の姫君が冷淡に見解を述べれば、ローザは瞳に憂いの色を浮かべて俯いた。ローザにしてみれば他国からワラをも掴む思いで自分を頼って来られても何の役にも立てない心苦しさがあるのだろう。
しかし、この銀髪の姫君。自分の姉が降嫁した公爵家の当主が不治の病にかかったということは、義理の兄が病に苦しんでいるということだ。
「その『アルジェント公爵家の当主』が不治の病になっているのにローザが聖女ではなかったことが、どうして『良かった』ことなんですか?」
「それはね。姉夫婦には子供が生まれていなくて公爵家を継ぐ者がいないから、本来なら次男が後を継ぐんだけど次男も病で亡くなったの。そこでアルジェント公爵家を出て行方不明の三男を呼び戻して現在の公爵家当主が亡くなり次第、アルジェント公爵家当主の座を継がせるという話になったの」
「はぁ」
「それでね。私、父王から、そのアルジェント公爵家の三男との婚約が決められたの」
「それは……」
王侯貴族の姫や令嬢は政略結婚が当たり前。とはいえ、やはり突然、父親から結婚相手を通告されるというのはショックもあっただろう。ローザが銀髪の姫君にどのような言葉をかけるべきか戸惑っていると、銀髪の縦ロールを揺らした姫はみじんの悲壮感もなく微笑んだ。
「ああ、気の毒に思ってくれなくて大丈夫よ」
「え?」
「数年前、我が蒼狼王国で御前試合が行われた時……。私、その公爵家の三男ヴォルフェール様が御前試合で優勝した際、あまりにも素晴らしい剣の腕前と雄姿にすっかり心を奪われてしまって……。今回こうして婚約者になるように言われて、とても嬉しかったの!」
「まぁ……」
「少し前に、不治の病にかかった金獅子国王レオン陛下を死の淵から救ったのは、寵姫ローザが『聖女の力』で癒したからだってウワサを聞きつけて、病にかかっていたアルジェント公爵本人がこの王宮まで寵姫ローザを訪ねて来ていたはずよ。知らない?」
「そういう問い合わせや、私を訪ねて来る方がいるというのは聞いておりますが……。さきほどお話した通り、私は何のお役にも立てないので……。基本的に私を聖女だと誤解して来る方とはお会いしていないのです」
「そうね。確かに寵姫ローザが聖女ではないなら、先方の勝手な思い込みや誤解ということになるわね。直接、会った上で下手に『聖女ではないから病を癒せない』と断れば逆上されたり、逆恨みされる可能性もあるのだから最初から会わないという対応で正解かもしれないわね」
銀髪の姫君が冷淡に見解を述べれば、ローザは瞳に憂いの色を浮かべて俯いた。ローザにしてみれば他国からワラをも掴む思いで自分を頼って来られても何の役にも立てない心苦しさがあるのだろう。
しかし、この銀髪の姫君。自分の姉が降嫁した公爵家の当主が不治の病にかかったということは、義理の兄が病に苦しんでいるということだ。
「その『アルジェント公爵家の当主』が不治の病になっているのにローザが聖女ではなかったことが、どうして『良かった』ことなんですか?」
「それはね。姉夫婦には子供が生まれていなくて公爵家を継ぐ者がいないから、本来なら次男が後を継ぐんだけど次男も病で亡くなったの。そこでアルジェント公爵家を出て行方不明の三男を呼び戻して現在の公爵家当主が亡くなり次第、アルジェント公爵家当主の座を継がせるという話になったの」
「はぁ」
「それでね。私、父王から、そのアルジェント公爵家の三男との婚約が決められたの」
「それは……」
王侯貴族の姫や令嬢は政略結婚が当たり前。とはいえ、やはり突然、父親から結婚相手を通告されるというのはショックもあっただろう。ローザが銀髪の姫君にどのような言葉をかけるべきか戸惑っていると、銀髪の縦ロールを揺らした姫はみじんの悲壮感もなく微笑んだ。
「ああ、気の毒に思ってくれなくて大丈夫よ」
「え?」
「数年前、我が蒼狼王国で御前試合が行われた時……。私、その公爵家の三男ヴォルフェール様が御前試合で優勝した際、あまりにも素晴らしい剣の腕前と雄姿にすっかり心を奪われてしまって……。今回こうして婚約者になるように言われて、とても嬉しかったの!」
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