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第一の庭にて

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 そこまで考えていると不意に建物のドアが開いた。思わず街路樹の影に身を隠すと中から姿を現したのは、やはり赤髪の伯爵令嬢フローラだった。

 口元に笑みを浮かべたフローラが意気揚々と白い馬車に乗り込むと、二頭立ての馬車は轍の音を立てながらゆっくりと動き出し走り去っていった。その様子を呆然と見送った私は、ハッと我に返ると伯爵令嬢フローラがたった今、出たばかりの魔道具屋に入る。

 薄暗い店内には魔石が埋め込まれた謎の魔道具や、怪しげな色の薬品が入ったガラス製容器が所せましと木棚に並んでいる。そして店の奥にあるカウンターではランプの灯りに照らされた目つきの悪い黒髪の店主が、いつにも増して不機嫌そうな様子で顔をしかめていた。

「コルニクスさん!」

「あ゛? なんだ、テメェか……。ちょうど良い。これ持っていけ」

「これは?」

 薄っすらと目の下にクマを作った魔道具屋の店主に謎の小袋を出され困惑していると、コルニクスさんは紫水晶色の瞳でこちらを見据えニヤリと笑った。

「『魔力の実』の種だ。テメェから受け取った分は全部、魔力増強剤にしたが……。あれから僅かながら種だけは入手できた。おまえ、それを育ててまた実が出来たら俺の所に持ってこい」

「えっ、また!? それは確定事項なんですか?」

「あ? 何か文句あんのか?」

「いえ……」

 人相の悪い魔道具屋の店主に凄まれ、とても断れる雰囲気ではない。私は顔を引きつらせながら空気を読んでコルニクスさんから小袋を受け取った。しかし、こういう種をまく場合は時季も見なければならない。

 これからどんどん寒くなっていくシーズンに土にまいて良い物なのか確かめないと、貴重な種をムダにしてしまいかねない。市場に行って植物の種や苗を取り扱う露店の者にでも聞けば、いつ種をまくべきか良いアドバイスをもらえるだろう。

 この種をまくのにシーズンが早い場合は当初の予定通り、ハーブの種を購入して育てよう。もし種をまくのに問題がない場合でも、新規に少し大きめのプランターでも購入すればハーブも育てられるだろう。そんなことを考えていると眼前の魔道具屋店主は長い前髪をかき上げた後、自身の両腕を組んだ。

「そういえば、俺がおまえにやった魔力増強剤は使ったか?」

「あ、はい……。一本だけですが、使いました。ちょうど魔力が枯渇して大変だった時だったので、とても助かりました。……って違う! そうじゃないんです! 今日は聞きたいことがあって来たんです!」

「あ゛?」
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