396 / 450
第一の庭にて
396
しおりを挟む
そこまで考えていると不意に建物のドアが開いた。思わず街路樹の影に身を隠すと中から姿を現したのは、やはり赤髪の伯爵令嬢フローラだった。
口元に笑みを浮かべたフローラが意気揚々と白い馬車に乗り込むと、二頭立ての馬車は轍の音を立てながらゆっくりと動き出し走り去っていった。その様子を呆然と見送った私は、ハッと我に返ると伯爵令嬢フローラがたった今、出たばかりの魔道具屋に入る。
薄暗い店内には魔石が埋め込まれた謎の魔道具や、怪しげな色の薬品が入ったガラス製容器が所せましと木棚に並んでいる。そして店の奥にあるカウンターではランプの灯りに照らされた目つきの悪い黒髪の店主が、いつにも増して不機嫌そうな様子で顔をしかめていた。
「コルニクスさん!」
「あ゛? なんだ、テメェか……。ちょうど良い。これ持っていけ」
「これは?」
薄っすらと目の下にクマを作った魔道具屋の店主に謎の小袋を出され困惑していると、コルニクスさんは紫水晶色の瞳でこちらを見据えニヤリと笑った。
「『魔力の実』の種だ。テメェから受け取った分は全部、魔力増強剤にしたが……。あれから僅かながら種だけは入手できた。おまえ、それを育ててまた実が出来たら俺の所に持ってこい」
「えっ、また!? それは確定事項なんですか?」
「あ? 何か文句あんのか?」
「いえ……」
人相の悪い魔道具屋の店主に凄まれ、とても断れる雰囲気ではない。私は顔を引きつらせながら空気を読んでコルニクスさんから小袋を受け取った。しかし、こういう種をまく場合は時季も見なければならない。
これからどんどん寒くなっていくシーズンに土にまいて良い物なのか確かめないと、貴重な種をムダにしてしまいかねない。市場に行って植物の種や苗を取り扱う露店の者にでも聞けば、いつ種をまくべきか良いアドバイスをもらえるだろう。
この種をまくのにシーズンが早い場合は当初の予定通り、ハーブの種を購入して育てよう。もし種をまくのに問題がない場合でも、新規に少し大きめのプランターでも購入すればハーブも育てられるだろう。そんなことを考えていると眼前の魔道具屋店主は長い前髪をかき上げた後、自身の両腕を組んだ。
「そういえば、俺がおまえにやった魔力増強剤は使ったか?」
「あ、はい……。一本だけですが、使いました。ちょうど魔力が枯渇して大変だった時だったので、とても助かりました。……って違う! そうじゃないんです! 今日は聞きたいことがあって来たんです!」
「あ゛?」
口元に笑みを浮かべたフローラが意気揚々と白い馬車に乗り込むと、二頭立ての馬車は轍の音を立てながらゆっくりと動き出し走り去っていった。その様子を呆然と見送った私は、ハッと我に返ると伯爵令嬢フローラがたった今、出たばかりの魔道具屋に入る。
薄暗い店内には魔石が埋め込まれた謎の魔道具や、怪しげな色の薬品が入ったガラス製容器が所せましと木棚に並んでいる。そして店の奥にあるカウンターではランプの灯りに照らされた目つきの悪い黒髪の店主が、いつにも増して不機嫌そうな様子で顔をしかめていた。
「コルニクスさん!」
「あ゛? なんだ、テメェか……。ちょうど良い。これ持っていけ」
「これは?」
薄っすらと目の下にクマを作った魔道具屋の店主に謎の小袋を出され困惑していると、コルニクスさんは紫水晶色の瞳でこちらを見据えニヤリと笑った。
「『魔力の実』の種だ。テメェから受け取った分は全部、魔力増強剤にしたが……。あれから僅かながら種だけは入手できた。おまえ、それを育ててまた実が出来たら俺の所に持ってこい」
「えっ、また!? それは確定事項なんですか?」
「あ? 何か文句あんのか?」
「いえ……」
人相の悪い魔道具屋の店主に凄まれ、とても断れる雰囲気ではない。私は顔を引きつらせながら空気を読んでコルニクスさんから小袋を受け取った。しかし、こういう種をまく場合は時季も見なければならない。
これからどんどん寒くなっていくシーズンに土にまいて良い物なのか確かめないと、貴重な種をムダにしてしまいかねない。市場に行って植物の種や苗を取り扱う露店の者にでも聞けば、いつ種をまくべきか良いアドバイスをもらえるだろう。
この種をまくのにシーズンが早い場合は当初の予定通り、ハーブの種を購入して育てよう。もし種をまくのに問題がない場合でも、新規に少し大きめのプランターでも購入すればハーブも育てられるだろう。そんなことを考えていると眼前の魔道具屋店主は長い前髪をかき上げた後、自身の両腕を組んだ。
「そういえば、俺がおまえにやった魔力増強剤は使ったか?」
「あ、はい……。一本だけですが、使いました。ちょうど魔力が枯渇して大変だった時だったので、とても助かりました。……って違う! そうじゃないんです! 今日は聞きたいことがあって来たんです!」
「あ゛?」
1
お気に入りに追加
4,828
あなたにおすすめの小説
そして竜呪は輪廻する
アメイロ ニシキ
ファンタジー
肥溜めのような人生。
一花咲かせてこの暮らしを大きく変えてやろうと目論む1人の青年は、ある時訪れた転機に飛びついた。
しかしその先で待ち受けていた結末は、彼にとって最悪の終わりでしかなく……。
暗闇の中を彷徨い、やがて光が差す頃、青年はドラゴンとしての生を受ける。
「キュキュイ〜(パン食いたい)」
ファンタジーからファンタジーへの転生を果たした青年は、別の意味で大きく変わってしまった暮らしに戸惑いながら、これから続くであろうドラゴン生活に頭を抱えるのだった。
マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜
かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】
身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。
そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。
これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした
桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。
彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。
そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。
そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。
すると、予想外な事態に発展していった。
*作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。
男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」
そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。
曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。
当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。
そうですか。
ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?
私達、『領』から『国』になりますね?
これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。
※現在、3日に一回更新です。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く
ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの…
乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。
乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い!
原作小説?1巻しか読んでない!
暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。
だったら我が道を行くしかないじゃない?
両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。
本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。
※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました)
※残虐シーンは控えめの描写です
※カクヨム、小説家になろうでも公開中です
気づいたら異世界ライフ、始まっちゃってました!?
飛鳥井 真理
ファンタジー
何だか知らない間に異世界、来ちゃってました…。 どうするのこれ? 武器なしカネなし地図なし、おまけに記憶もなんですけど? 白い部屋にいた貴方っ、神だか邪神だか何だか知りませんけどクーリングオフを要求します!……ダメですかそうですか。
気づいたらエルフとなって異世界にいた女の子が、お金がないお金がないと言いながらも仲間と共に冒険者として生きていきます。
努力すれば必ず報われる優しい世界を、ほんのりコメディ風味も加えて進めていく予定です。
※一応、R15有りとしていますが、軽度の予定です。
※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。(第1話~第161話まで修正済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる