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値段の高いケーキ

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 ひとまず店頭に黄金色の新作ケーキが綺麗に並んだことで、私は肩の力を抜いた。

「ショーケースの中にケーキのストックもあるし、私は市場で果物を買ってきて良いかしら?」

「はい! 大丈夫です!」

「店番はおまかせください!」

「うん。じゃあ、買い物に行ってる間よろしくね」

 こうして双子に店番をまかせると、いつもの手押し車を押して市場に向かった。空をあおげば澄んだ青空が広がっており白い雲の間から、まぶしい陽光が降り注いでいる。気持ち良い空気の中、歩いていると露店が立ち並び買い物客でにぎわう市場に到着した。

 いつも利用している果物屋の露店に行けば、小綺麗なメイド服を着た使用人らしき女が果物屋の店主であるおじさんや他のお客さん達と立ち話をしている。

「……そういう訳で『聖女の再来』と言われている心優しい伯爵令嬢、フローラお嬢様はレオン陛下の正当な婚約者であるにも関わらず、寵妃ローザの言いなりになってしまった国王陛下から遠ざけられてしまったんです」

「そうなのか」

「しかも寵妃ローザは『王妃の部屋』に居座り、王宮で我が物顔の生活を送っているのです」

「えっ! 寵妃が王妃の部屋に!?」

「いくらなんでも、それは聞いたことがないわねぇ……」

 メイドの周囲にいるおばさん達が寵妃という身分で、王妃の部屋で生活するのは非常識だと顔をしかめている。

「普通は寵妃といえば、どれだけ国王陛下から寵愛されていても後宮にいるものでしょう? 王宮の……。まして王妃の部屋に居座るなんて信じられないわね」

「寵妃ローザっていう女は、どれだけツラの皮が厚いんだろうねぇ?」

「伯爵令嬢フローラ様は王妃の部屋に居座る悪女にそそのかされている国王陛下が目を覚まして、自分に向き合ってくれるのを後宮で健気に待っていたのですが先日、国王陛下は重臣たちの前で『伯爵令嬢フローラとは婚約解消して、寵妃ローザと結婚したい』と発言されたのです」

「なんと!」

「寵妃と結婚!?」

 追い打ちをかけるようなメイドの話に、果物屋のおじさんや周囲の買い物客は目が点になった。

「伯爵令嬢フローラ様には、何の非も無いというのに国王陛下は『婚約解消したい』という意向だと聞き、フローラ様の母君はショックで倒れてしまいました」

「ええっ!?」

「大丈夫なのかい?」

「あれ以来、すっかり憔悴してしまった母君様はベッドから起き上がることも出来なくなってしまったのです……」

「それはお可哀想に」

「何の非も無い伯爵令嬢フローラ様との婚約を、一方的に解消したいだなんて……」

「酷い話だねぇ」

「フルオライト伯爵家のメイドである私は、涙にくれるフローラ様の母君に何もして差し上げることが出来ず心苦しくて……。ううっ」

 伯爵家のメイドが、うつむいて白いハンカチでそっと涙をぬぐう仕草をしているが涙は一滴たりとも浮かんでいない。にも関わらず、周囲の人たちはフルオライト伯爵家のメイドが話した言葉をうのみにして、すっかりフローラやその母、フルオライト伯爵家のメイドに同情している。

 その光景を目の当たりにした私は、アゴが外れるかと思うほど口を開けて呆然とした。
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