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噴水広場にて

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「そう言ってもらえて嬉しいです。そうですね……。ポットで出さずに一杯だけならティーカップでなら、リンゴの皮と芯で淹れたフレッシュ・アップルティーを出すとかは出来ますね」

「ふむ」

「あと、ポットで提供する場合はフレッシュアップルティー用に、皮ごと果肉をカットしてティーポットに入れて出すとかすれば用意できるかな? まぁ、今回はあくまでプレオープンの裏メニューって所ですね」

 苦笑して、私も白磁器のティーカップを傾けて琥珀色の熱いお茶を飲めば、芳醇なフレッシュ・アップルティーの香りと味わいが口の中に広がった。そしてベルントさんが、皿に盛られた複数のスコーンとハチミツをチラチラ見つめているのに気付いた。

「あ、良かったらスコーンはジャムかハチミツをつけて召し上がって下さい。アップルティーとも合うと思いますし……。さっき窯で軽く温めたので、せっかくですから熱い内にどうぞ」

「そうか。では」

 私がうながすとベルントさんはようやくスコーンに手を伸ばした。複数種ある中から、ひときわ色の濃い黄金色のオレンジスコーンを手に取り、横の割れ目から上下を二つに割り分けると断面にハチミツをたらして口に入れた。

「うむ。旨いな……。オレンジピールの酸味が良いアクセントになっている」

「ありがとうございます」

「へぇ、オレンジの皮が練り込まれているのか?」

「はい。柑橘類の皮って栄養価が高いし、実はオレンジピールもフルーツケーキで使用したオレンジの果肉から出た皮を再利用してるんですよね」

 自嘲気味に笑うと、ヴォルフさんとベルントさんは感心した様子でオレンジスコーンを見つめた。

「そうなのか?」

「柑橘類の皮に栄養が……」

「あ、こっちのスコーンはレモンの皮とスパイスが入ってるんです。他のスコーンやジャムも良かったら召し上がってみて下さい」

 ヴォルフさんとベルントさんにすすめるとレモンピールとスパイスが練り込まれたスコーンや、ブルーベリーのスコーンにも手を伸ばし、味わって食べてくれた。

 スコーンを食べ進めるうちに飲み干されたティーカップに白磁器のポットから、おかわりのフレッシュアップルティーを注げば、ポットの中で熱いお湯に一定時間つかっていたリンゴの皮と芯が一杯目よりも濃厚な味と香りを出していた。

 さらに味や香りのみならずリンゴの赤い皮の色までアップルティーに色濃く出ていた事にヴォルフさんとベルントさんは目を丸くした。そして、そんな二人の様子が何だかおかしくて私は笑ってしまった。
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