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セリナ、謁見の間へ

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「後宮に入れるとか、寵妃にするというのはあくまで母上の戯れ言だ。気にせずともよい」

「は、はい……」

 金髪の国王陛下が呆れ顔で断言してくれたおかげで、ひとまず私の後宮入りと寵妃になる可能性が断たれホッと安堵の息を吐いた。ローザが若干、不満気な顔をしているのは見なかったことにする。

「とにかく、ローザが申したように余の麻痺症状が回復したのはセレニテス子爵家の息女セリナによる所が大きい。そこでだ。礼として、何か望みがあれば叶えたいと思うのだがどうだ?」

「望み、ですか?」

「うむ。余の用意できる物か、余が叶えられる範囲でならば何なりと申してみよ」

「急に言われましても……」

 一国の王に『用意できる物か、余が叶えられる範囲』など漠然とした事を告げられても、何を要求すべきなのかとっさには思いつかない。困惑していると国王陛下はチラリとローザの方を見てから一つ、頷いて微笑を浮かべた。

「そうか……。ところで、そなたは父母や肉親を立て続けに亡くして両親から受け継ぐはずだった子爵家の領地を手放したのであろう?」

「はい……」

「もし、そなたが望めば手放した子爵家の領地を取り戻す事も可能だ」

「え、セレニテス子爵家の領地を?」

「ああ……。聞けば、そなたは貴族令嬢として生まれながらも肉親や領地を失ったばっかりに、何かと苦労をしているのだろう? 領地を取り戻せば今後は女子爵として領地収入を得ながら生活できるはずだ」

「女子爵として……」

「うむ。そうすれば、もう城下で苦労せずとも貴族として暮らせよう」

 レオン陛下からの思いもよらない申し出に、思わず横にいる親友を見ればローザは水宝玉色の瞳を輝かせて、こぼれんばかりの笑顔を浮かべていた。

 ローザの表情を見て確信した。今日、この場に呼ばれたのは国王陛下を麻痺症状から救ったという手柄を公表すると同時に、褒美として私にセレニテス子爵家の領地を取り戻させるという意図があったのだ。

 国王陛下がこれと言った理由も公言せずに突然、何の接点も無い私に手放したセレニテス子爵家の領地を与えるというのは普通に考えたらありえないし、ローザの働きかけでそんなことをしたというウワサでも広まれば国王陛下にとっても寵妃であるローザにとっても痛くない腹を探られるような物。しかし、こうして堂々と『国王陛下の命を救った礼』としてなら誰もが納得できる。

 だからローザは私が伏せたがっていた回復魔法のことまで発言して、国王陛下の麻痺症状を回復させたのはあくまでも私の力による所が大きいと重臣たちにも印象づけたかったのだろう。

「セリナ、遠慮せずにレオン陛下のご厚意をお受けするべきだわ」

「ローザ。私は…………」
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