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セリナの憂鬱と決断

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 それと、実は前世の知識でこの虫に酷似した物を見たことがある。それはマダニだ。日本には生息していない特定のマダニに噛まれることによって犬や猫などのペットや人間がダニ麻痺症を引き起こすという事例を知識としては知っていた。

 可愛い犬、猫などのペットが原因不明の麻痺症状になったり、人間も原因であるマダニを発見できず特定できなかった場合は原因不明で死亡してしまう事もあるという、恐ろしいダニ麻痺症。

 前世でも犬や猫などの生物が大好きだった私は、日本国内でも犬や猫からダニを媒介にして人間が感染し、死亡する例がある重症熱性血小板減少症候群のようなダニ媒介性感染症が増えていた事を知っていたので、ダニ麻痺症は海外での事例とはいえ他人事では無い気がしていた。

 もしダニ麻痺症を引き起こすような生物に噛まれて寄生されていた場合どうすれな良いのか、念の為に調べていたのを先ほどレオン国王の耳にへばりついていた寄生生物の形状を目の当たりにして一気に思い出した。そして当時の知識が今回、役に立ったようだ。

「じゃあ、あなたが陛下の耳にクリームを入れたのは?」

「クリームを入れた理由については、まず耳の中で寄生している虫の動きを封じるのが第一の目的でした。下手にピンセットでつついて、虫が耳のさらに奥へ逃げ出して入り込んだら、取り出すのは困難になりますし事態が悪化してしまいますから……」

「第一の目的ということは虫の動きを封じる以外に、耳にクリームを入れる目的があったの?」

「はい。第二の目的としては寄生生物がレオン陛下の皮膚にぴったりとくっついていましたから、皮膚に深く牙を刺しているような状態だと思ったんです。仮に虫が逃げ出さなかったとしてもピンセットで、それを無理やり取ろうとすれば深く刺さった牙が抜けずに陛下の耳の中を傷つける恐れがありました」

「クリームで傷つくのが防げると?」

「防げると言うか……。クリームに包むことで寄生している虫が強く食いついてる皮膚から、自発的に口を放してくれる可能性があるんじゃないかと思ったので試してみたんです……。バタークリームで包めば周囲の異変を感じて皮膚から口を放して、寄生生物がはがれてくれる可能性が高いんじゃないかと考えて」

 日本国内でもマダニに刺された時にシロウトが無理やり取った結果、人間の皮膚に深く食らいついていたマダニの口部分が皮膚の中に残ってしまう事例があるのだという。

 皮膚内に寄生生物の口や牙が残った場合、痛みが残る可能性が高いし微小な異物をすぐに取り出そうと思ったら、周囲の肉ごと取りのぞかないといけなくなる。

 本当は専門の医者に処置してもらって除去するのが一番だけど今回は緊急性が高かった為、手元にあったバタークリームで虫の動きを封じるという選択をした。

 噛まれている傷口のことを考えれば、本来なら使用するのは傷口に塗る軟膏のような塗り薬が良かっただろうし、衛生面を考えると砂糖が入った食品をこういう形で使うのは良くないんだろうけど、麻痺症状で今にも息を引き取りそうな国王陛下を救うため一刻を争う緊急事態だったので許してほしい。
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