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セリナの憂鬱と決断

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 そうこうしている間にもライガ王子によって麻痺症状となっているレオン国王の容態は悪化しているに違いない。一体、私はどうすれば良いのか。そんなことを考えながらパティスリーに戻ると、店の前に見覚えのある馬車が停まっていた。

「あれは……」

 もしやと思いながらパティスリーの中に入れば見知った黒髪の貴婦人が立っていた。

「ミランダさん!?」

「久しぶりですね」

 何度か面識がある女官長ミランダさんが店に来ているなんて、これは千載一遇のチャンスだ。私は思わず、前のめりになった。

「お久しぶりです! ちょうど良かったです! 実は……」

「悪いですが、無駄話をしている時間はありません」

「えっ?」

「陛下に召し上がって頂きたいから、あなたの作った経口補水液とケーキを持ってきてほしいとローザに頼まれて、こちらに足を運んだのです」

「経口補水液とケーキですね。分かりました。すぐ用意します!」

「でも、きっと陛下が召し上がることは……」

 黒髪の女官長は悲痛そうにうつむき、その顔に暗い影を落とした。

「ミランダさん……?」

「とにかく、急いでちょうだい」

「分かりました。ただし経口補水液とケーキはいつも通り、私に持って行かせてください! ローザが心配なんです!」

「……良いでしょう。急ぎなさい」

「はい!」

 私は身体が弱っているであろう国王陛下が食べやすいようにと柔らかなチーズケーキやフルーツケーキ、そしてバタークリームケーキなどを箱に詰めた後、調理場で氷魔法、火魔法、風魔法を駆使して、手早くはちみつドリンクの経口補水液を用意した。そして、急いで二階に上がって念の為に魔力増強剤が入った小瓶を一つカバンに入れた。

「ミランダさん! お待たせしました!」

「じゃあ、行くわよ」

 ケーキの入った箱と経口補水液を入れたビンを持って黒髪の女官長の後を追い、店を出る前に双子を見れば二人は困惑した表情を浮かべていた。

「セリナ様……」

「ルル、ララ! 今日は店頭のケーキが売切れたら店仕舞いにして!」

 不安そうに私を見送る猫耳の双子に心配はいらないと笑顔で指示を出せば、ルルとララも大きく頷いた。

「了解しました!」

「セリナ様、お気をつけて!」

 私は店番を双子にまかせて、ミランダさんと共に二頭立ての馬車に乗り込んだ。私が乗り込むとほど同時に御者が馬車を走らせ始める。轍の音と共に窓の外で流れる景色を横目に、私は黒髪の女官長と視線をあわせた。
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