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第四王子ダーク

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「では、我々もレオン兄上の寝室に……」

 レオン兄上の命があと僅かだと言うのならば、せめて最後に別れの言葉を……。そう思いながら国王の寝室に向かうべきだと言ったのだが、窓から差し込む陽光を背中に受けているライガ兄上は顔に影を落としながら首を横に振った。

「その前にやるべきことがある」

「やるべきこと?」

「まず二人には、これをよく見て欲しい」

 第二王子ライガは重厚な執務机の上に光沢のある革製の小箱を置いて蓋を開けた。中にあった青と白の袱紗をめくればそこには黄金製の金印が鎮座していた。

「これはもしや……」

「ああ、国璽だ。すでにレオン兄上から預かっている。この国璽をよく見て欲しい」

 そう告げながらライガ兄上は俺とブランシュ兄上の背後に回った。国璽と言えば、国の最重要文章に国王が押して最終的な許可を出す物。それをレオン兄上がすでに託していると言う事は、国王としての自らの責務を託したのと同等の意味合いがあるだろう。

 しかし『国璽をよく見て欲しい』とはどういう事かと、怪訝に思いながら革製小箱に入った黄金に輝く国璽をのぞき込んでいると、不意に真横からくぐもった声と鈍い音が聞こえた。

 音のした方に視線を向ければ、そこにはライガ兄上がブランシュ兄上の背後から左手で口を押さえ、右手で首に短剣の切っ先を突き立てていた。

「な!?」

 突然の出来事に唖然としているとライガ兄上は深々と突き刺した短剣を真っすぐ水平にひいた。すると剣先の傷が頸動脈にまで達していたのだろう。おびただしい鮮血がブランシュ兄上の首から噴き出て、国王の執務机にボタボタと鮮血が滴り落ちる。そして、俺の顔にもブランシュ兄上の傷口から噴き出た血しぶきが数滴、附着し頬を伝ったのが感じられた。

 血走った眼をこれ以上ない程、見開いたブランシュ兄上は白い宮廷服を咽喉元からの鮮血で赤く染めながら信じられないといった表情を浮かべ、ライガ兄上を見つめて口をはくはくと動かしたが、すでに深く咽喉を切られているためだろう。まともな言葉を発することは出来ずその場に崩れ落ちた。

 大理石の床の上に倒れたブランシュ兄上の首元から、じわじわと血だまりが広がっていく。濃い血の匂いが室内に充満するのが感じられて俺は思わず一歩、後ずさった。

「何ということを!」

「フン。相手に隙を見せるからこうなるのだ。お前たちをここに呼んだのは、正式に新王となる前に懸念材料を取り除いておきたかったからだ」

「懸念材料……?」
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