326 / 450
急変
326
しおりを挟む
「うっ……!」
「陛下?」
「くっ! ハァハァ……」
寝台の中で小康状態のまま横臥していた金髪の国王陛下は突如うめき声を上げながら苦しそうに呼吸を乱し、額からは脂汗がしたたり落ちてきた。
「レオン陛下!」
私は手にした布で陛下の汗をぬぐうが、苦悶の表情を浮かべ激しく胸を上下させる国王陛下の呼吸が良くなる気配は一切無い。
「ローザ……。医師が処方して下さったシロップなら、国王陛下の苦しみを軽減して差し上げられるわ」
「シロップ」
黒髪の女官長ミランダがシロップを使うように言うのはもっとも……。私はベッドサイドのキャビネットに置かれた透明ガラスビンに入ったシロップに手を伸ばし、震える右手で持ったが耐えきれず首を横に振って元に戻した。
「やっぱりダメです! 普通の人間が口にしてはいけないような依存性がある物を、自らの手でレオン陛下の口に入れるなんて!」
「でも、少量ならば普通に使われている物だと医師も言っていたわ。そのシロップを使わないと陛下の苦しみが深くなるばかりなのよ?」
「わかってます……。わかってます! でも!」
私は震える右手を左手で押さえ、唇を噛みしめていたが堪えきれず、涙が次から次へと零れ落ちた。俯いて肩を震わせていると黒髪の女官長はベッドサイドのキャビネットに置かれているシロップに手を伸ばした。
「あなたが無理なら、私がやります」
「女官長!」
冷徹な黒い瞳でガラスビンを開けようとする女官長が信じられず、私は思わず責める様な声を上げてしまった。すると黒髪の女官長ミランダはわずかに瞳を潤ませながら辛そうに眉根を寄せた。
「もう、これしか手段が無いのです。あなたは依存症や中毒症状を懸念しているのでしょうけど、呼吸障害を起こしている以上は、医師も長くは持たないと言っていたでしょう? この状況で依存症について心配しても詮無きことです」
「それは、そうかも知れませんが……」
「今の国王陛下の状況をよくご覧なさい。このシロップで苦痛を和らげる以外に最早、私たちに出来る事はないでしょう?」
寝台の中で苦しそうに呼吸を荒げ、金髪を乱すレオン陛下の苦しそうな表情。その横顔を見ていると、これまでの様々な事が思い出される。そして、まだ試していないことがある事実に気がつき私は目を見開いた。
「いいえ」
「ローザ?」
「女官長……。お願いがあります」
私が試したいことを告げると、黒髪の女官長は明らかに戸惑いの表情を浮かべた。
「陛下?」
「くっ! ハァハァ……」
寝台の中で小康状態のまま横臥していた金髪の国王陛下は突如うめき声を上げながら苦しそうに呼吸を乱し、額からは脂汗がしたたり落ちてきた。
「レオン陛下!」
私は手にした布で陛下の汗をぬぐうが、苦悶の表情を浮かべ激しく胸を上下させる国王陛下の呼吸が良くなる気配は一切無い。
「ローザ……。医師が処方して下さったシロップなら、国王陛下の苦しみを軽減して差し上げられるわ」
「シロップ」
黒髪の女官長ミランダがシロップを使うように言うのはもっとも……。私はベッドサイドのキャビネットに置かれた透明ガラスビンに入ったシロップに手を伸ばし、震える右手で持ったが耐えきれず首を横に振って元に戻した。
「やっぱりダメです! 普通の人間が口にしてはいけないような依存性がある物を、自らの手でレオン陛下の口に入れるなんて!」
「でも、少量ならば普通に使われている物だと医師も言っていたわ。そのシロップを使わないと陛下の苦しみが深くなるばかりなのよ?」
「わかってます……。わかってます! でも!」
私は震える右手を左手で押さえ、唇を噛みしめていたが堪えきれず、涙が次から次へと零れ落ちた。俯いて肩を震わせていると黒髪の女官長はベッドサイドのキャビネットに置かれているシロップに手を伸ばした。
「あなたが無理なら、私がやります」
「女官長!」
冷徹な黒い瞳でガラスビンを開けようとする女官長が信じられず、私は思わず責める様な声を上げてしまった。すると黒髪の女官長ミランダはわずかに瞳を潤ませながら辛そうに眉根を寄せた。
「もう、これしか手段が無いのです。あなたは依存症や中毒症状を懸念しているのでしょうけど、呼吸障害を起こしている以上は、医師も長くは持たないと言っていたでしょう? この状況で依存症について心配しても詮無きことです」
「それは、そうかも知れませんが……」
「今の国王陛下の状況をよくご覧なさい。このシロップで苦痛を和らげる以外に最早、私たちに出来る事はないでしょう?」
寝台の中で苦しそうに呼吸を荒げ、金髪を乱すレオン陛下の苦しそうな表情。その横顔を見ていると、これまでの様々な事が思い出される。そして、まだ試していないことがある事実に気がつき私は目を見開いた。
「いいえ」
「ローザ?」
「女官長……。お願いがあります」
私が試したいことを告げると、黒髪の女官長は明らかに戸惑いの表情を浮かべた。
0
お気に入りに追加
4,828
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~
ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」
聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。
その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。
ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。
王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。
「では、そう仰るならそう致しましょう」
だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。
言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、
森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。
これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。
身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「おい、アドレーラ。死んだか?」
私の婚約者であるルーパート様は、私を井戸の底へと突き落としてから、そう問いかけてきました。……ルーパート様は、長い間、私を虐待していた事実が明るみになるのを恐れ、私を殺し、すべてを隠ぺいしようとしたのです。
井戸に落ちたショックで、私は正気を失い、実家に戻ることになりました。心も体も元には戻らず、ただ、涙を流し続ける悲しい日々。そんなある日のこと、私の幼馴染であるランディスが、私の体に残っていた『虐待の痕跡』に気がつき、ルーパート様を厳しく問い詰めました。
ルーパート様は知らぬ存ぜぬを貫くだけでしたが、ランディスは虐待があったという確信を持ち、決定的な証拠をつかむため、特殊な方法を使う決意をしたのです。
そして、すべてが白日の下にさらされた時。
ルーパート様は、とてつもなく恐ろしい目にあうことになるのでした……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる