上 下
313 / 450
異変

313

しおりを挟む
 一礼して私は国王陛下の寝室を退出し廊下に出た。いくら嫌だと言っても国王陛下が決定されたことに対して、私ごときが意見することは許されないだろう。

 しかし、そうだと頭では分かっていても感情面では降嫁するという事実をを受け入れることが出来ず、足早で歩きながら手の甲で何度、目元をぬぐっても溢れて来る涙は止まらなかった。

「ローザ!」

「……女官長」

 後方から呼び止められ、振り向けばそこには黒髪の女官長ミランダがいた。

「どうしたの? そんなにも目を真っ赤にして涙を流して?」

「いえ、これは……。それよりも、私に何かご用ですか?」

 慌てて、涙を拭いて尋ねれば黒髪の女官長はハッとした様子で少し目を見開いた。

「ああ、そうよ。あなたの友人だというケーキ店の娘が、ケーキを持って第一の庭で待っているそうだけど、約束があったのではないの?」

「セリナが? あ、そういえば……。第一の庭でセリナと会う約束が……」

「やっぱりそうだったのね」

 先ほど私の降嫁について話を進められていたことを知って、セリナと会わなければいけないことを完全に失念していた。そのせいで多忙な女官長を煩わせてしまったことについて申し訳なく思い、頭を下げて謝罪した。

「ご足労をおかけしてしまってすいません。すぐに第一の庭へ向かいます」

「でも顔色が悪いわ……。体調が悪くて会える状態じゃないなら、あなたは部屋で休んでいなさい。私がケーキを受け取って後で部屋に届けるわよ?」

「いえ、行きます」

「ローザ……。大丈夫なの?」

「大丈夫です。私、セリナに会います」

 こうして私は長い回廊を歩き、第一の庭が見える長い通路に設置されているソファに腰かけているセリナと対面した。

「セリナ。ごめんなさい、待たせてしまって」

「ローザ! 会えて良かっ……。え!? 何があったの? 目が真っ赤じゃないの!?」

「その事についても話をするわ。ここでは何だから個室に入りましょう」

「うん……」

 個室に入って椅子に座ると、セリナが心配そうに私の顔をのぞき込んできた。

「ローザ、薄っすらと目の下にクマが出来てるわよ? あんまり眠ってないんじゃないの?」

「そう、かも知れないわね」

 正直なところ、レオン陛下に麻痺症状が出て病状が悪化する中、ゆっくり熟睡できる状況ではなくなっていた。多少、目の下にクマが出来ても仕方ない。

「あ、クマと言えばジンジャー&ナッツのクッキーを新商品として作ったの! このケーキが入ってる箱の中にも少し、入れておいたわ! これは目の下のクマにも改善効果があると思うから……」

「セリナ……。まずは私の話を聞いて」

「うん?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

よくある異世界転移モノ、と思いきや?

一色ほのか
ファンタジー
なんの前触れもなく異世界召喚の憂き目に遭った。しかも多分巻き込まれて。 だって他の二人は明らかに知り合い同士だし。あと主人公属性持ってそうな見た目と性格。 私が場違いっぽいのは気付いてるからもうさっさと外に放り出してくれないかな。ここに残るより多分マシだから。 そう思ってたんだけどいつの間にやら勝手に決められて召喚主?の関係者に保護されることになってしまった。 ……って、あれ?話を聞いてて分かったんだけど、ここ、私がプレイしてたゲームの世界っぽくない???

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

ree
ファンタジー
 波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。  生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。  夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。  神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。  これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。  ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。

処理中です...