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異変

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「陛下に治癒術をかけている最中、まるで魔力が奪われるような恐ろしい感覚を味わいました……」

「魔力が奪われるだと? そんな馬鹿な話は聞いたことが無いぞ! その方、陛下の治療ができぬと見て、適当な事を申しておるのではなかろうな!?」

 しわがれた手の甲で汗をぬぐう治癒術師の老婆に、銀髪の宰相閣下は虫ケラを見る様な視線を向けて顔をしかめたが、老婆は首を横に振った。

「めっそうもございません。妾は感じたまま申したに過ぎませぬ」

「どうであろうな? そなたのような老女では太刀打ち出来なかったのを誤魔化しておるのではないのか?」

 意地悪く尋ねる宰相に、治癒術師の老婆は憮然とした面持ちをした。

「そうお思いならば、それで構いませぬ。宰相閣下の申される通り、妾のような老女では国王陛下の症状を快癒させることは出来ぬようでございます。陛下、妾の力が及ばずお役に立てなんだ事、どうかお許し下さいませ」

 床に頭をこすりつけて謝罪する治癒術師の老婆を見た陛下はなじることなど一切せず、足労をかけた礼として心ばかりの謝礼を取らせて下がらせた。

 治癒術師が国王陛下に魔法を使うと「魔力が奪われる」と話していたのを受けて、陛下の身体や周囲に魔力を奪うような物が存在するのではないかと念入りに調べられたが、それらしき物は何も発見できなかった。

 その後、他の治癒術師にも治療を依頼したが、やはり治癒術を使い始めた途端、老女と同じように苦しみ出して皆「これ以上、治癒術を使うのは無理です」そう言って頭を下げた。

 さらに治癒術を使えば、術師ばかりでなくレオン陛下も苦痛を伴う上、麻痺症状が快癒する兆しも見えなかったので治癒術師を呼ぶと言う事も無くなっていった。


 レオン陛下の症状は良くなるどころか日々、悪化していくばかりで侍従、宰相らの顔色も冴えない。一向に回復する気配の見えない国王陛下の病状に王宮内は暗い空気に包まれていった。

 そして後宮からレオン陛下の見舞いにやってきた金髪金目の王太后リオネーラ様は、国王陛下の居室でレオン陛下の麻痺症状の原因が何なのか、手がかりすら掴めない宮廷医師たちを前に紫色の扇を手にして、怒りを爆発させた。

「国一番の医療知識を誇るはずの宮廷医師ともあろう者が、麻痺症状の原因が何なのか未だに解明できぬのか!?」

「リオネーラ王太后様。レオン陛下の症状は、今まで金獅子国では無かった物です」

「原因不明と言うことですか?」

「はい。識者が全力で文献などを調べておりますが、古い文献を見てもこのような症状が記された痕跡はありません。これは我が金獅子国、初の症例なのです」
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