289 / 450
忍び寄る影
289
しおりを挟む
「う……」
ゆっくりとまぶたを開けると霧がかかったように、視界がはっきりとしない。うつぶせに倒れていた私が、フラつきながら立ち上がると遠くに光が見えた。
周囲を見渡しても、その光以外は何も見えない。私は一点の光を頼りに歩きだした。その光に近づくにつれて、そこに白い大きな門があるのが分かった。
そしてさらに近づくと門の向こうに人影が見える。逆光でよく見えないが近づいて行く内に、その人影がシルエットから成人の男女であるということが分かってきた。
「あの人たちに、ここがどこか尋ねよう。それにしても……」
近づけば近づくほど、妙な既視感を覚えて胸が騒ぐ。そう思いながら、やっと声が届くほどの距離まで近づいた時。私は何故、強い既視感を持ったのか理解した。白い門の向こうでたたずんでいる男女の姿。それは。
「お父様と、お母様?」
まさかという思いで両手で口をおさえる。驚きのあまり唇が震え、瞳に熱い物が込み上げる。海難事故で亡くなった父と、私が幼い頃に亡くなった母が微笑みながら、すぐ近くの距離にいる。私は懐かしい両親の元へ行く為、走り出した。
「行くな!」
「え?」
背後から突然、声をかけられ振り向くが誰の姿も見えない。気のせいかと思い私はまた両親の元へと歩き出した。
「行かないでくれ!」
「だれ?」
再び声をかけられ周囲を見渡すが辺り一帯、相変わらず濃い霧がかかっているし、それらしい人物の姿も見えない。
「戻って来い!」
「でも、お父様とお母様が……」
「ローザ!」
強く呼ばれた瞬間、目を覚ますと眼前には金髪の国王レオン陛下がいた。私は瞳を瞬きさせながら呆然とする。何故なら、私がいたのはレオン陛下の逞しい腕の中で上半身を抱き起こされてる。というか、抱きしめられてるような形だったからだ。
「陛下?」
「良かった……。死んでしまったのかと……!」
安堵して今にも涙がこぼれそうな程、金色の瞳を潤ませながら僅かに震える手で、私の頬に優しく触れる陛下の様子に驚く。
しかし、焦げ付く臭いと白煙。周囲で何かが小さく弾けるような音が連続して聞こえ、ただならぬ雰囲気を感じて陛下の横へ視線を彷徨わせると、寵妃の部屋としてあたえられた室内には火の手が上がり、私と陛下は今まさに炎に包まれようとしているという事実に気付いて愕然とした。
「これは!?」
「ローザ。暫し、我慢してくれ」
「え?」
金髪の国王陛下は返事を待たずに私を横抱きで持ち上げた。突如、宙に浮く形となった私は不安定さから、思わず陛下の肩から首に自分の腕を回して床に落ちない為、レオン陛下にしがみつくような状態になった。
ゆっくりとまぶたを開けると霧がかかったように、視界がはっきりとしない。うつぶせに倒れていた私が、フラつきながら立ち上がると遠くに光が見えた。
周囲を見渡しても、その光以外は何も見えない。私は一点の光を頼りに歩きだした。その光に近づくにつれて、そこに白い大きな門があるのが分かった。
そしてさらに近づくと門の向こうに人影が見える。逆光でよく見えないが近づいて行く内に、その人影がシルエットから成人の男女であるということが分かってきた。
「あの人たちに、ここがどこか尋ねよう。それにしても……」
近づけば近づくほど、妙な既視感を覚えて胸が騒ぐ。そう思いながら、やっと声が届くほどの距離まで近づいた時。私は何故、強い既視感を持ったのか理解した。白い門の向こうでたたずんでいる男女の姿。それは。
「お父様と、お母様?」
まさかという思いで両手で口をおさえる。驚きのあまり唇が震え、瞳に熱い物が込み上げる。海難事故で亡くなった父と、私が幼い頃に亡くなった母が微笑みながら、すぐ近くの距離にいる。私は懐かしい両親の元へ行く為、走り出した。
「行くな!」
「え?」
背後から突然、声をかけられ振り向くが誰の姿も見えない。気のせいかと思い私はまた両親の元へと歩き出した。
「行かないでくれ!」
「だれ?」
再び声をかけられ周囲を見渡すが辺り一帯、相変わらず濃い霧がかかっているし、それらしい人物の姿も見えない。
「戻って来い!」
「でも、お父様とお母様が……」
「ローザ!」
強く呼ばれた瞬間、目を覚ますと眼前には金髪の国王レオン陛下がいた。私は瞳を瞬きさせながら呆然とする。何故なら、私がいたのはレオン陛下の逞しい腕の中で上半身を抱き起こされてる。というか、抱きしめられてるような形だったからだ。
「陛下?」
「良かった……。死んでしまったのかと……!」
安堵して今にも涙がこぼれそうな程、金色の瞳を潤ませながら僅かに震える手で、私の頬に優しく触れる陛下の様子に驚く。
しかし、焦げ付く臭いと白煙。周囲で何かが小さく弾けるような音が連続して聞こえ、ただならぬ雰囲気を感じて陛下の横へ視線を彷徨わせると、寵妃の部屋としてあたえられた室内には火の手が上がり、私と陛下は今まさに炎に包まれようとしているという事実に気付いて愕然とした。
「これは!?」
「ローザ。暫し、我慢してくれ」
「え?」
金髪の国王陛下は返事を待たずに私を横抱きで持ち上げた。突如、宙に浮く形となった私は不安定さから、思わず陛下の肩から首に自分の腕を回して床に落ちない為、レオン陛下にしがみつくような状態になった。
1
お気に入りに追加
4,835
あなたにおすすめの小説
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ
もぐすけ
ファンタジー
シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。
あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。
テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる