上 下
191 / 450
侍女見習いローザ

191

しおりを挟む
 まずは一番シンプルな焼き色がついたケーキを一口食べる。濃厚なチーズの風味と、ほどよい甘さが口の中に広がったと思った次の瞬間、舌の上でケーキがじゅわっと蕩けるのが感じられた。

「こ、これは……!」

「どうしたのだ!?」

「チーズのケーキなんですが、信じられない位ふんわりしてて……。口の中で溶けてしまいました!」

「そんな馬鹿な。チーズが溶ける訳が……」

 言いながらチーズケーキをフォークで一口大にカットして食べると、王太子殿下も琥珀色の瞳を大きく見開いた。

「溶けましたよね?」

「ああ、確かに……。これは一体どうなっているのだ!?」

 金髪の王太子は不可解だという顔をしながらも手と口を動かし続け、チーズケーキをあっという間に食べきった。

「じゃあ、次はクランベリーのタルトを」

「うむ!」

 甘酸っぱいクランベリーの酸味とアーモンドの香ばしさが絶妙な、クランベリータルトは食欲をそそる味わいで、これもあっという間に王太子の胃袋に収まり、最後のフルーツケーキもぺろりと平らげた。

「まぁ……。王太子殿下に召し上がって頂けたと知ったら、セリナも喜ぶでしょうね」

「セリナとは誰だ?」

「このケーキを販売している店の者です。私の友達で……」

「ふむ」

 金髪の王太子殿下は満足した様子で白磁器のティーカップを傾け、食後のお茶を飲んでいる。

「ところで先ほども伺いましたが、どうしてレオン様は伯爵令嬢フローラに追いかけられていたのですか?」

「…………私が居室に戻った時に宰相がやって来て、王太子妃候補である伯爵令嬢と話をして欲しいと言われたのだ」

「はぁ」

 何故、話をすることから追いかけっこになったのか全く分からないまま、相づちを打つと王太子殿下が死んだ魚のような目で虚空を見つめた。

「居室で二人きりになった途端。赤髪の伯爵令嬢が、私を押し倒してきた」

「えっ」

「そして、私に顔を近づけながら『殿下の子供が欲しいのです』と迫ってきたのだ……」

「うわぁ……」

「私は速やかに戦略的撤退を選んだ。……後はそなたも知る通りだ」

「それは、大変でしたね」

「ああ。私とて、王太子として生まれたからには政略結婚や愛の無い結婚も覚悟しているが、初めての時くらいは好きな相手と……」

「え?」

 政略結婚や愛の無い結婚も覚悟しているが……。までは聞こえたが、最後の方は小声で聞き取れなかったので思わず聞き返してしまった。しかし、金髪の王太子は何故か少し頬を赤らめて、焦った様子で首を横に振った。

「いや、何でもない」

「そうですか? あ、レオン様。ケーキの欠片とクリームが少し口元に付いてます」

「む……。そうか」

 王太子殿下は右手で口元を拭うが、ケーキの欠片とクリームが付いているのは反対側なので取れていない。

「いえ、そちら側ではありません。ちょっと取りますね」

「うむ」

 私は身を乗り出して王太子殿下の口元にあったケーキの欠片を取り、指でクリームを拭った。綺麗に取れたので、にっこり笑うと金髪の王太子は何故か、顔が真っ赤になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...