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利益率と金髪碧眼の少年
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役人から門前払いのような形で追い払われた私は、トボトボと石畳の道を歩いた。
「屋外に飲食スペースを作るって、良いアイデアだと思ったんだけどなぁ」
噴水広場どころか、店舗前のスペースすら利用許可が出ず、思わずうなだれる。
「許可が下りない以上は仕方ないわよね。残念だけど飲食スペースのことは置いといて、ケーキ類の販売で利益が出るように頑張るしかないか……。ん? あれは」
パティスリーの前に見覚えのある、金髪碧眼の少年が立っているのが見えた。
「あなたは……。ケヴィン君よね?」
「あ、こんにちは。セリナさん」
外から真剣な表情でウチの店内をうかがっていたのはローザの弟だった。親友であるローザによく似た面差しを持つ、幼い美少年の訪問に私は自然と笑顔になった。
「こんにちは、ケヴィン君。ウチの店をのぞいたってことは、ケーキを買いに来てくれたのかしら?」
「実は……。今日、これから姉に会いに王宮へ行くので」
「ああ! それでローザへのお土産にケーキを持っていこうと思ってくれたのね」
「はい、そうなんですけど……。色んな種類があるみたいだし、どうしようかと思って……」
「そうね。初めてだと悩んじゃうわよね。とりあえず店内に入りましょう!」
「え、ええっ!?」
戸惑うケヴィン君の背中を押して、やや強引に店内に入れると双子が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~!」
「うわぁ! セリナ様が、可愛いお客様を連れて来て下さいました~!」
「か、可愛い?」
大きな瞳を輝かせる猫耳メイドのテンションに、困惑する金髪碧眼の美少年を横目にショーケースの中を見渡す。幸い品切れのケーキは無いので、売れ筋商品もきちんと選べる。
「ルル、ララ。最近人気なのはどのケーキか、ケヴィン君に教えてあげて」
「はい! 最近はアップルパイの人気が急上昇です! スパイスの入った大人向けアップルパイと、リンゴ本来の味を生かしたノーマルタイプの二種類があります!」
「真っ赤な色がキレイなクランベリータルトや、旬の果物がたっぷり乗ったフルーツケーキ、濃厚なチーズケーキも人気です!」
「だって? どうするケヴィン君?」
「じゃあ、それを一個づつ」
「ありがとうございます!」
王宮までの移動時間を考えて、ケーキと共に十分な量の保冷剤も一緒につめるよう私は双子に指示を出した。
「えーと、合計金額は……」
「あ、いいわ」
各ケーキの種類と金額を確認して、合計額を出そうとするルルを私が制止すると、財布からお金を出そうとしていたケヴィン君も小首をかしげる。
「え?」
「このケーキは私から、ローザとケヴィン君へのプレゼントよ」
「そんな! 悪いですよ。受け取れません!」
首を横にふる金髪の少年に私はやんわりと微笑む。
「まぁ、ローザには学園時代、お世話になったし……。初回限定のサービスだと思って受け取ってちょうだい」
「セリナさん……」
「その代わりと言っては何だけど。ケヴィン君がローザに会ったら、私がよろしく言ってたって伝えてもらえるかしら?」
「分かりました。ありがとうございます、セリナさん」
金髪碧眼の少年は花がほころぶように微笑みながら、箱詰めされたケーキを嬉しそうに受け取ってくれた。そして、店舗のドアの前で最後に一礼して笑顔で去って行った。
「やだ、可愛い……。私も、あんな弟ほしい……」
不覚にも初めて見たケヴィン君の笑顔に、ときめいてしまった。猫耳の双子やローザを見てると「美少女は眼福」と日々、心が洗われる思いだったが、年端も行かない美少年というのも尊い物だとしみじみ思う。
今日はいかにも面倒くさそうな態度のチョビヒゲ役人に怒鳴られたり、門前払い状態になったりして少し落ち込んでいたが、ささくれだった心が美少年のあどけない微笑みで浄化されて完璧に癒されるのを感じた。
「屋外に飲食スペースを作るって、良いアイデアだと思ったんだけどなぁ」
噴水広場どころか、店舗前のスペースすら利用許可が出ず、思わずうなだれる。
「許可が下りない以上は仕方ないわよね。残念だけど飲食スペースのことは置いといて、ケーキ類の販売で利益が出るように頑張るしかないか……。ん? あれは」
パティスリーの前に見覚えのある、金髪碧眼の少年が立っているのが見えた。
「あなたは……。ケヴィン君よね?」
「あ、こんにちは。セリナさん」
外から真剣な表情でウチの店内をうかがっていたのはローザの弟だった。親友であるローザによく似た面差しを持つ、幼い美少年の訪問に私は自然と笑顔になった。
「こんにちは、ケヴィン君。ウチの店をのぞいたってことは、ケーキを買いに来てくれたのかしら?」
「実は……。今日、これから姉に会いに王宮へ行くので」
「ああ! それでローザへのお土産にケーキを持っていこうと思ってくれたのね」
「はい、そうなんですけど……。色んな種類があるみたいだし、どうしようかと思って……」
「そうね。初めてだと悩んじゃうわよね。とりあえず店内に入りましょう!」
「え、ええっ!?」
戸惑うケヴィン君の背中を押して、やや強引に店内に入れると双子が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~!」
「うわぁ! セリナ様が、可愛いお客様を連れて来て下さいました~!」
「か、可愛い?」
大きな瞳を輝かせる猫耳メイドのテンションに、困惑する金髪碧眼の美少年を横目にショーケースの中を見渡す。幸い品切れのケーキは無いので、売れ筋商品もきちんと選べる。
「ルル、ララ。最近人気なのはどのケーキか、ケヴィン君に教えてあげて」
「はい! 最近はアップルパイの人気が急上昇です! スパイスの入った大人向けアップルパイと、リンゴ本来の味を生かしたノーマルタイプの二種類があります!」
「真っ赤な色がキレイなクランベリータルトや、旬の果物がたっぷり乗ったフルーツケーキ、濃厚なチーズケーキも人気です!」
「だって? どうするケヴィン君?」
「じゃあ、それを一個づつ」
「ありがとうございます!」
王宮までの移動時間を考えて、ケーキと共に十分な量の保冷剤も一緒につめるよう私は双子に指示を出した。
「えーと、合計金額は……」
「あ、いいわ」
各ケーキの種類と金額を確認して、合計額を出そうとするルルを私が制止すると、財布からお金を出そうとしていたケヴィン君も小首をかしげる。
「え?」
「このケーキは私から、ローザとケヴィン君へのプレゼントよ」
「そんな! 悪いですよ。受け取れません!」
首を横にふる金髪の少年に私はやんわりと微笑む。
「まぁ、ローザには学園時代、お世話になったし……。初回限定のサービスだと思って受け取ってちょうだい」
「セリナさん……」
「その代わりと言っては何だけど。ケヴィン君がローザに会ったら、私がよろしく言ってたって伝えてもらえるかしら?」
「分かりました。ありがとうございます、セリナさん」
金髪碧眼の少年は花がほころぶように微笑みながら、箱詰めされたケーキを嬉しそうに受け取ってくれた。そして、店舗のドアの前で最後に一礼して笑顔で去って行った。
「やだ、可愛い……。私も、あんな弟ほしい……」
不覚にも初めて見たケヴィン君の笑顔に、ときめいてしまった。猫耳の双子やローザを見てると「美少女は眼福」と日々、心が洗われる思いだったが、年端も行かない美少年というのも尊い物だとしみじみ思う。
今日はいかにも面倒くさそうな態度のチョビヒゲ役人に怒鳴られたり、門前払い状態になったりして少し落ち込んでいたが、ささくれだった心が美少年のあどけない微笑みで浄化されて完璧に癒されるのを感じた。
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