上 下
174 / 450
セリナと銀狼

174

しおりを挟む
 いつも通り、眠い目をこすって起きた私は、すくすくと育ち続けている『魔力の実』の苗に魔力入りの水をあたえた後、早朝から調理場で複数のケーキを作った。ようやく作業を一段落終えた頃、外の空気を吸うために店の外に出る。


 冷たい朝の空気を吸って眠気を冷まし、もう一頑張りしようと思ったその時、頭から白い布をかぶった人物が店の外壁に寄りかかるように座り込んでいるのを発見した。

 最初は大酒を飲んで前後不覚になった酔っ払いかと思ったが、どうも様子がおかしい。血の気が完全に失せた、ほおの色は真っ白を通り越して、青ざめているように見える。さらに、くちびるは乾ききってヒビ割れている。

 かすかに手が動いたのが見えて、ちゃんと生きているのは分かったが、このまま寒空の下で放置しておけば命に関わるだろう。

「あの、大丈夫ですか?」

 声をかけるが全く反応がない。力無くうなだれたような状態で意識が無いように見える。これは一刻も早く、起こして意識を取り戻させるべきだと思った私は、意を決して白い布をかぶった人物の肩をゆすった。

「起きて下さいっ!」

 私がゆさぶったことで頭から、かぶっていた白い布がパサリと肩に落ちて、顔があらわになる。銀髪と同じ色の長いまつげが、血の気を失った白皙の顔に暗い影を落としている。

 高く通った鼻筋や整った顔立ちを見るに、まぶたを閉じてはいるが間違いなくイケメンだろう。いや、そんなことより、その銀髪の頭についている物に視線がクギづけになる。

「ケモノの耳。犬耳かしら? 獣人なのね」

 その時、銀の犬耳らしき物がついたイケメンがゆっくりとまぶたを開けた。瞳は白みがかった碧眼だった。

「あ、気がつきましたか?」

「悪いが、話しかけられても、もう聞こえないんだ……」

「え?」

 意味が分からず聞き返すと、犬耳の青年は自嘲気味に嗤う。

「タチの悪い呪いにかかってな……」

「呪い?」

「耳はぜんぜん聞こえないし、目もほとんど見えなくなってしまった」

「ええっ!?」

 どうも様子がおかしいとは思ったが、まさかそんな状況だったとは夢にも思わず愕然としていると銀髪犬耳の青年は弱々しく息をはいた。

「もう歩く力もない……。俺は、もう間もなく死ぬだろう」

「そんな……」

「死んだら、遺体はどこへなりとも、うち捨ててくれ……」

 言いきると犬耳の青年は再び、まぶたを閉じる。知らなかったならともかく、知ってしまった以上このまま、みすみす死なせることは出来ない。

「まだ、あきらめるのは早いです!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!

naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。 うん?力を貸せ?無理だ! ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか? いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。 えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪ ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。 この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である! (けっこうゆるゆる設定です)

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...