上 下
163 / 450
銀狼ヴォルフ

163

しおりを挟む
 俺がここに来た目的は、未発見の王墓を見つけ出すことであり、物見遊山で来ている訳では無いのだ。露店でガイドの少年の分と自分の昼食を調達していると昨晩、泊まったボロ小屋が見えたので思わず視線を向ける。今日も宿が満室なら、またあそこに泊まるかと考えていると少年が苦笑する。

「あの小屋が珍しいのかい? まぁ、あんなボロい日干しレンガの小屋、なかなか無いだろうけどさぁ……」

「俺は昨晩、あそこに泊まったんだが」

「……兄ちゃん、あんなボロ小屋に泊まってんのかよ」

「ああ。生憎、昨日は宿屋が満室でな……。まぁ、雨風がしのげるだけ野宿よりはマシさ」

「野宿よりはマシって言っても。この小屋、何百年前に作られたか……」

 呆れ果てた様子の少年が、何気なく言った言葉に驚く。

「何百年? ボロいとは思ってたが、そんなに古いのか?」

「ああ、俺が物心ついたときには、もうこのボロ小屋はあったし、位置的に真下の王墓を調べるのに使った小屋だと思うから」

「そうなのか?」

「この真下ってかなり大規模な王墓があるからさ。それの発掘だか、盗掘だかで作られた小屋のはずだよ。でも放置されてるってことは、固い岩盤に当たって掘れなかったんじゃないかな?」

「その発見済みの王墓が見つかったのは何年前だ?」

「ん~。二百年? 三百年前だったかな?」

「ふむ。なるほど……」

「石造りならともかく、日干しレンガで築、数百年は無いよなぁ……。こんな、いつ崩れるか分からない小屋、誰も好んで使おうとは思わないから、気兼ねなく泊まれるだろうけどさぁ……」

「他にも発掘小屋があるのか?」

「ん? ああ、ちょっと離れたところにあるよ」

「案内してくれないか?」

「別にいいけど……」

 ガイドの少年レトは困惑しながらも、少し離れた場所にある崩れかけた発掘小屋に案内してくれた。

「ここも、日干しレンガ造りの小屋か」

「兄ちゃん。王墓じゃ無くて、発掘小屋に興味があるのか?」

「ああ、まぁな」

「ふ~ん。変わってるなぁ……。観光客が興味があるのは、古代王墓の見学と土産物って相場が決まってんだけど」

「そうか?」

 少年の問いかけに答えながら、発掘小屋の中に入り確認する。

「あ! もしかして、兄ちゃん考古学者って奴か!?」

「なんで、そう思う?」

「発掘現場に興味がある奴なんて、考古学者くらいだろ?」

「残念だが、学者じゃない。冒険者だ」

「冒険者? なんで冒険者がこんな小屋なんかに?」

「ちょっと確かめたいことがあっただけだ」

「確かめたいことって?」

 少年は小首をかしげたが、その質問に答える必要は無いと判断した俺は、懐の小袋から銀貨を数枚取り出して少年に手渡す。

「案内はここまででいい。ガイドの報酬はこれでいいか?」

「え? こんなに弾んでくれるの!? やった!」

「おまえのおかげで、スムーズに調べることが出来たからな」

「よく分かんないけど役に立てて良かったよ! 明日もガイドが必要なら声かけてくれよっ!」

 金を受け取った少年は強い太陽の日差しの下、元気よく走り去っていった。そして、俺も崩れかけた砂漠の発掘小屋を後にする。


「めぼしい場所は墓荒らしや、遺跡の発掘調査をしている者が掘り尽くしているというのは分かっていた。もし、まだ未盗掘の王墓があるとすれば盲点になっているような場所だと考えてはいたが……」

 俺は初日に泊まった古びた発掘小屋に再び戻った。小屋の中は相変わらず僅かに、冷たい隙間風を感じる。先ほどレト少年に案内された、崩れかけの発掘小屋では壁に隙間が空いていても、冷たい風を感じなかった。今は昼間だから熱い砂漠の空気のせいとも思ったが違う。ここは砂塵混じりの乾いた風と明らかに匂いが違うのだ。

 そもそも、この小屋は空気が全く異質だった。初めて、この町に来て、あの小屋に泊まったとき、長年、人が使用していなかったから埃をかぶっているせいかと思ったが、そうじゃない。感じた冷たい風、独特な匂い……。床に片膝をつき地面に手を当てながら探していると小屋の隅から冷たい隙間風が僅かにもれているのを発見した。


「昨晩、眠りにつく前に、頬を撫でた冷たい風。小屋の壁に空いた隙間風が流れているのかと思ったが。違う。乾燥した砂漠の風に乗ってくる空気に、妙な異臭を感じたんじゃない。この風は、下から吹いている!」

 地面の砂をかきわけ、床部分の日干しレンガを崩すと底から古びた木製の扉が現れ、さらに砂をよけて扉を開けばそこには地下へと続く砂岩を削った階段があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...