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銀狼ヴォルフ

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 まさか、そこまで町の住人の王墓や遺物、過去の文化遺産に対する意識が低いとは思っていなかったので思わず、ため息を吐く。

「仮に新たな王墓を発見したら、そこも荒らされそうだな」

「おや、アンタ。新たな王墓をお探しなのかい?」

 声をかけられ、視線を向ければ低いテーブルの上に水晶を鎮座させて笑みを浮かべる占い師らしき、腰の曲がった老婆の姿があった。老人なら何かと情報に精通しているはずだと思い、老婆に尋ねる。

「ああ、そうなんだ……。バアさん、何か知らないか?」

「さてね……。古代王墓はすでに掘り尽くされてるって話だよ」

「やっぱり、バアさんも知らないか」

 これほど高齢の老婆でも何も知らないとなると、やはり地道に歩いて王墓の痕跡を探すしかないのかと肩を落とせば、老婆はしわがれた声で嗤う。

「ヒヒッ。知らない方が良いこともあるもんだよ?」

「なんでだ? この町は元々、墓荒らしの町なんだろう? 古代王墓から盗掘された財宝で潤って出来た町の子孫が『知らない方が良い』なんて、らしくないんじゃないのか?」

「ああ、折角だから教えてあげようかね……。古代王墓を見つけた人間ってのは『王の呪い』にかかると言われてるんだよ」

「王の呪い?」

「そうさね。恐ろしい死の呪いと言われておる……。だから『見つからない方が良い』と言ったのさ」

「ハッ。バカバカしい……。大方、財宝を独り占めしたい奴が流したデマに決まってるさ」

「そうかも知れんし、そうじゃないかも知れん。おまえさんが未盗掘の王墓を見つけられたら王の呪いが真実かどうか分かるのぅ……。フヒヒヒッ」



 独特の嗤い方をする占い師の老婆とつい話し込んでしまい、気付けば日が落ちてきた。宿を探した俺は食事付きで宿泊したい旨を告げると、宿の女将は眉根を寄せた。

「悪いけど……。今日は団体の観光客が泊まりで、もう満室なんだよ」

「他に宿はないのか?」

「あいにく、この町にはウチしか宿がないんだよ」

「そうか……。食事だけなら大丈夫か?」

「ええ、食事だけで良いなら用意できるけど……」

 宿は無理でも、食事は用意してもらえた。焼きたての薄いパン、羊肉をスパイスで味付けし、温かい煮豆と共に盛られた皿。熱い鶏肉と野菜スープが湯気と共に食欲をそそる香りを放ち鼻腔をくすぐる。

 芳ばしい香りに食欲を刺激され、料理を口に運びながら腹を満たす。ひとまず、温かい食事にありつけただけでも良かったと思うべきだろう。冒険者家業などやっていれば野宿は珍しくない。

 適当な場所でマントにくるまって野宿すればいい。そう考えながら鶏肉と野菜のスープを飲んでいると女将が心配そうな顔でこちらに視線を向ける。

「あんた。今晩は野宿する気かい?」

「そのつもりだ。まぁ、慣れているから問題ないさ」

「でもねぇ……。この辺りで野宿は物騒だよ?」

 夜盗ふぜいが何人かかってこようと後れを取ることは無いが、こちらに到着したばかりで地元の人間とのトラブルは極力避けたい。

「じゃあ、どこか適当に休める場所はないか?」

「う~ん。あ、町の外れに小屋がいくつかあるはずだよ! ボロい小屋だけど、外で野宿するよりはマシなはずさ!」

「小屋? 勝手に入って大丈夫なのか?」

「昔、発掘に使われてた小屋で、もう古すぎて崩れかけで誰も使ってない小屋なら、勝手に入っても大丈夫だよ!」



 女将に小屋の位置を聞いた俺は、町の外れにポツンと建つ崩れかけの小屋を発見した。すでに辺りは暗くなっている。小屋の中に人の気配が無い事を確認して中に入れば本当に長年、人気が無かったようでホコリっぽいというか、カビのような鼻につく独特のニオイすら感じられて、お世辞にも居心地が良いとは言えそうも無い空気だった。

「こういう時、鼻は利きすぎるのは辛いな……。普通の人間なら、さほど気にならないんだろうが狼獣人にはキツイ」

 扉を開けて換気するが気休めにしかならないようで、うんざりした。室内に使えそうな生活用品は何も無い、かろうじてテーブルの上に金具部分はサビつき、ガラス部分にはヒビの入ったランプや木材の切れっ端がある程度で、後はもぬけの殻。だが小屋内部から、かんぬきで戸締まり出来るため、外で野宿するよりは安心して眠ることができそうだ。

「まぁ、屋根と壁があるだけ野宿よりはマシか」

 ため息をつきながらゴロリと横になると、どこからともなく流れてくる冷たいすきま風が頬を撫でるのが感じられた。砂漠は昼夜の温度差が激しい。身体を冷やさないようにマントに包まる。長旅の疲れと夕食後の満腹感も相まって、まぶたを閉じると急激な睡魔に襲われ、そのまま眠りについた。
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