上 下
94 / 450
引っ越しとリフォーム

94

しおりを挟む
 リフォーム工事も無事終わり、いよいよ空き店舗に引っ越すことになった。その前に、どこの引越し業者に頼むべきか迷い、やはり「見積もりだけならタダ!」だと複数社見積もりをしてもらった所、業者によって値段が倍以上も違うことが分かり心底、複数社に見積もりしてもらって良かったと痛感した。

 そして、不動産見積り時のように設置看板が多く有名で、信頼と実績を売りにして『業界、最安値!』を売り文句にしている『ディーグレンツェ引越しサービス』という会社が、最も高い見積価格を提示してきた。

 すでに不動産屋の見積もりで経験していたので、大手企業がぼったくり価格を提示することに耐性がついていた私は、引越しの依頼について他社にお願いすると伝えたのだが、その時、ディーグレンツェ引越しサービスが中々、引き下がらなかったのがちょっと面倒だった。

 邸宅内から持ち出す荷物を説明し、見積りをしてもらった時のことだ。例によって「お安くさせて頂きました!」という言葉と、にこやかな営業スマイルと共に提示された見積り金額を見て、私は淡々と返事をした。


「ディーグレンツェ引越しサービスさんのお値段でしたら、他の引っ越し屋さんの方が安かったので、他の引っ越し屋さんにお願いしたいと思います」

「えっ! 」

「せっかく、見積もりして頂いたのに申し訳ないですが……」

 手短にお断りして早くお帰り頂こうと思ったのだが、営業マンは私の言葉をさえぎった。

「ちょっと待って下さい!」

「はい?」

「それなら、ウチも値引きします!」

「でも倍以上、他社と見積りの価格が違うんですよ?」

 さすがに、これだけ価格差があれば引き下がるだろうと思ったのだが、営業マンはドヤ顔で口角を上げた。

「それなら半額引きにしてサービス料金を削れば、そこよりもウチの方が安くなります!」

「えぇ……」


 どうやら会社の営業として一件でも多く仕事の依頼を受けると同時に極力、高い値段で仕事を請け負うのが良い営業マンらしいので、例によって引越し業界の適正価格を知らない上に、貴族だから金を余るほど持っているであろう小娘から、ぼったくってやろうと思われたらしい。

 そして、すでに私が複数見積をして他社から適正価格を提示され、相場を把握していたと気付いたとたん、手のひらを返して一気に半額以下まで値段を下げたのだ。


 最終的にディー・グレンツェ引越しサービスは、私から他社の具体的な値段を聞くと、それよりも安い値段を提示してくれた。確かに結果的にはディーグレンツェ引越しサービスが提唱している『業界最安値』になった訳だ。

 しかし、私は最初に相場の値段より倍額の価格提示をされた訳で、複数社見積をしていなかったら危うく、そこそこの金額をぼったくられる所だったのだ。


 何も知らない相手を、ぼったくろうとした会社に依頼する気にはなれず結局、最初から良心的な価格を提示してくれた引越し屋さんに依頼することにした。

 ディーグレンツェ引越しサービスの営業マンは、仕事の依頼を一件逃してしまうことになった訳で、非常に悔しそうな顔をしていたが他社の値段を聞いた途端「じゃあ、安くします」と半額以上の値引きをしたからといって、利用者が自社を選ぶと思ってるなら大きな間違いだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

処理中です...