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伯爵令嬢に転生した私と魔法使い見習い

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 私は前世を覚えている。普通に日本の学校に通う女子学生だった。でも病気で苦しんで亡くなったと思ったら、異世界で生まれ変わり、伯爵令嬢マリアンヌとなった。自分で言うのも何ですが、中々の美少女です。

 そして現在、国立の学園に在学中だ。図書委員であるマリアンヌは現在、図書室常連で机に突っ伏して項垂れている友人のセラヴィをどう慰めるべきか考えあぐねていた。

 アイスブルーの瞳に美しい金髪が腰まである可憐な美少女セラヴィ。彼女は魔力の潜在能力が非常に高いという事で魔法の訓練を受けている魔法使い見習いだが、先日の魔法使い試験に不合格で超落ち込んでいる。

「はぁ……。やっぱり私は永遠に、見習い魔法使いのまま…。なのでしょうか……」

 嘆く金髪碧眼の美少女はアイスブルーの瞳にうっすらと涙を浮かべている。確か、彼女が魔法使い試験に落ちるのは3度目……。どう慰めるべきかマリアンヌは思案してしまう。

「セラヴィは魔法の潜在能力に関してならピカイチなのにね……」

「せっかく潜在能力があっても、まともに扱えないのでは話になりません………」

 そうなのだ。セラヴィはその大人しい性格が災いしたようで、攻撃魔法の威力が低いらしい。その為、ことごとく魔法使い試験に落ちているのだ。


「うーん。まぁ最悪、お嫁に行くって手もあるわよ?」

「お嫁って……………。それもどうでしょうね……。貧乏男爵家と婚姻を結びたがる物好きな人が早々いるとは思えませんし……」

「そうかなぁ? セラヴィなら可愛いから、間違いなく引く手あまたよ? 白馬に乗った素敵な人が求婚に現れるわよ? いいなぁ~」

「…………マリアンヌ様は白馬に乗った人と結婚したいのですか?」

セラヴィは白い目で私を見る。乙女の夢だと思うのだが、彼女は共感してくれないっぽい。

「まぁ、例えよ。でも憧れない? 白馬に乗った素敵な王子様が赤い薔薇の花束を持ってプロポーズするシチュエーションって? 誰でも一度は夢見ると思うけどなぁ~」

「私は別に……。それより魔法試験に合格できないのが目下の悩みですから…」


 現実主義者のセラヴィは魔法書を取り出し、目を通し始める。長い睫毛が綺麗なアイスブルーの瞳に影を落とす。彼女ほどの美貌なら本気で結婚相手には困らないと思うのだが、実家はお世辞にも裕福とは言えないらしいので、意地でも魔術師試験に受かって、宮廷魔術師として身を立てたいと思っているようだ。

 ちなみに私は比較的、裕福な伯爵家の令嬢なので、間違っても食うに困る事は無いだろう。こればかりは親に感謝だ…。


「ねぇ、セラヴィ……。攻撃魔法が上手く使えないなら、魔法杖に魔石を付けたら良いんじゃないかしら?」

 魔法杖に魔石を付ければ、魔法のコントロールもしやすくなると聞いた事がある。セラヴィの魔法杖には魔石が付いていないのだから、付ければ確実に力になると思う。

「それは私も考えた事があります……。でも魔石を買うのは……」

 魔石は高価だ。恐らく、セラヴィの家は魔石を購入する資金的な余裕は無いんだろう。私が両親に頼んで彼女に魔石をあげられたら話は早いと思うんだけど、セラヴィはそんなお金がかかる事は望まないだろうし、もしそれをしてしまったら、彼女と私は対等な友人関係では無くなってしまうだろう。それは避けたい……。

「うーん。それじゃあ、自分で魔石を採取したらいいんじゃないかな?」

「え?」

「東の山から昔、魔石が取れたと聞いた事があるの。今は廃鉱になってるけど、もしかしたら、魔石のかけらが残ってるかも知れないわ!」

「廃鉱ですか……。危険なんじゃないですか?」

「危険度の高い魔物の出現は報告されてないから大丈夫よ! それにリスクを恐れてたら何も出来ないし、何も手に入れられないわ! 幸い私は剣術の嗜みがあるし、セラヴィが行かないなら私一人でも……」

「何を言ってるんですか! マリアンヌ様をそんな所に一人で行かせる事は出来ません!」

「じゃあ決まりね! 次の休みの日は一緒に廃鉱探索よ! あ、親に言うと止められるから内緒でね!」

「…………………」

上機嫌のマリアンヌとは裏腹に金髪碧眼の美少女は「嵌められた……」などと呟き頭を抱えている。ともかく、こうしてセラヴィにとっては半ば強制的に廃鉱探索が決定したのだった。




 身支度を整え、休日に待ち合わせしたマリアンヌとセラヴィは約束通り二人で東の山まで行き、探索を始めた。ほどなくして廃鉱の入口が見つかり、ランプに火を灯して中に入った。

 廃鉱内の通路はにトロッコ用のレールが敷かれ、天井近くには古びたワイヤーが複数張られてる。片隅に壊れた照明器具や錆びたツルハシなど、採掘道具が放置されている事以外は殆ど洞窟といった雰囲気だった。ランプの灯りのおかげで何とか視界は確保されているが、廃鉱内はヒンヤリとしていて薄暗い。

「マリアンヌ様……。本当に行くんですか?」

「ここまで来たら、行くしかないでしょ!」

「でも、こんなに暗いんですよ? 怖くないですか?」

 セラヴィの顔色は真っ青でかなり怯えている。出来る事なら、すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいのようだ。

「確かに真っ暗で怖いけど、こうすれば平気よ」

 そう言うと、伯爵令嬢はぎゅっとセラヴィの手を握る。

「マリアンヌ様……」

「一人だったら怖いけど、二人一緒なら大丈夫よ。行きましょう!」

「はいっ!」

マリアンヌ自身、想像以上に真っ暗で不気味な廃鉱内部に恐怖心が出て、ついセラヴィの手を握ってしまったが、セラヴィも心強く思ってくれたようだ。青かった顔色に赤みが戻ってきている。

 幸いこの廃鉱は凶暴な魔物の出現報告は無い。もし出るとしても、自分でどうにか出来る程度の雑魚ばかりなのだから、足元や視界にさえ気を付けていれば問題ないはずと考えながら奥へと進む。

 しばらく歩くと階段があったので下りる。そこでふと鼻につく嫌な悪臭と妙な違和感を感じ、ランプで周囲を見渡し何気なく上に目を向けると天井にはびっしりとコウモリがとまっていた。

「キャアアアアアア!」

 二人は思わず悲鳴を上げてしまった。そして、その大声に反応したコウモリの群れが二人に襲い掛かる。

「しまった! こうなったら……!」

 マリアンヌは持参していたレイピアを鞘から抜き、迫り来るコウモリを次々と返り討ちにする。しかし、数が多い。攻撃を避け切れずダメージを負ってしまう。

「くっ! 吸血コウモリか……。一匹や二匹ならともかく、群れなんて……! 私のレイピアで防ぐには数が多すぎるわ……!」

「マリアンヌ様っ……!」

「このままじゃあキリが無いわ! セラヴィの魔法で何とかならない!?」

「えええ! わ、私ですか?」

「こんな時に魔法を使わなくて、いつ使うのよ!? 風でも氷でも何だって良いから!」

「か、風っ……! ウインドカッター! 」

 セラヴィは一生懸命、魔力を集中させて風魔法で攻撃しているが、単体攻撃しかできない魔法では埒が明かない。細剣でビュンビュンとコウモリを切り裂きながらマリアンヌが叫ぶ。

「複数攻撃が出来る魔法は使えないの!?」

「ううっ! 複数攻撃魔法は苦手なんです……!」

「…………じゃあ、光魔法で一時的に明るく出来ない!? コウモリは明るい所が苦手な筈よ!」

「それなら……! サンライト!」

 セラヴィは魔法で太陽のような強い光を作りだした。あたり一面が真昼のような光に包まれる。すると光を嫌ったコウモリの群れはバサバサといっせいに逃げて行った。

「はぁはぁ……。助かったわセラヴィ……」

「マリアンヌ様…! 血が……!」

 吸血コウモリの爪や牙の攻撃で、伯爵令嬢の腕や頬から少し血が滲んでいる。

「ああ、さっきコウモリにちょっとやられちゃった…。大丈夫、大した傷ではないわ」

「回復魔法をかけます! じっとしてて下さい!」

 魔法を唱えると温かい光がマリアンヌを癒し、綺麗に傷口は塞がった。

「ありがとうセラヴィ。すっかり治ったわ!」

 笑顔でお礼を言うマリアンヌだったが、セラヴィはと言うとアイスブルーの瞳から、ポロポロと涙を溢していた。

「セラヴィ泣かないで……。そんなにコウモリが怖かった?」

「いいえ、コウモリより、マリアンヌ様にケガをさせてしまった事がっ……!」

「ケガを負ったのは貴方のせいじゃ無いし、軽傷だった。それにセラヴィのおかげで完全に治ったから問題ないわよ」

「いいえ……。私がもっと早く機転をきかせて、魔法でコウモリを撃退出来ていれば、そもそも負傷せずに済んだ筈なのです……」

「セラヴィ……」

「私は自分で何も決められない…。ダメな奴です……。魔法使いを目指してる事だって、潜在能力が高いならばと親や先生に勧められたからで……。誰かに言われないと動けない…。本当に私はどうしようもない奴です………」

 アイスブルーの瞳から溢れる涙をマリアンヌはポケットから取り出したハンカチで優しく拭う。

「セラヴィ……。必要以上に自分を責めないで…。貴方がいつも努力してるの私は知ってる。貴方はもっと自信を持って良いはずよ。自分を信じて……」

「でも………」

 どうやら、この気弱な魔法使い見習いの自己不信の根は深いようだ。ならばとセラヴィの手を握った伯爵令嬢はアイスブルーの瞳を真摯に見つめて囁いた。

「自分で自分が信じられないなら、貴方を信じてる私を信じて…」

「マリアンヌ様……」

「それに、失敗する事は悪い事ばかりじゃないわ。人は失敗を重ねて成長するものよ。途中で、どんなにダメでも、時間がかかっても、いつか必ず成功して、最終的に笑えればそれでいいのよ!」

「!」

「さぁ、メソメソしてないで立ち上がりましょう! いつまでも辛気くさい顔してたら、幸せが逃げてしまうわよ!」

「………はい!」


 セラヴィが元気を取り戻した所で再び廃鉱内の探索に戻り、深部を目指す。途中、巨大なミミズやネズミの魔物が出たが二人で協力して倒しながら進むとやがて開けた場所に辿り着いた。

「どうやら、ここが最深部のようですね。マリアンヌ様……」

「そうね……。あら、奥に石が詰み上げられてる。魔石も混じってないかしら……」

 行動派の伯爵令嬢は早速、石コロの山に魔石が混ざってないか調べはじめた。セラヴィは呆れ顔である。

「さすがに、そう都合よく転がっては…」

 その時、マリアンヌは石コロの中から一つの輝石を取り出した。

「……………あ、これ! 魔石じゃない!?」

「ええっ!? まさか……」

 セラヴィもその輝石を確認する。

「驚きました………。確かにこれは魔石ですね……」

「良かったー! これでセラヴィの杖に魔石が付けられるわね!」

「驚きました…。まさか本当にあるなんて……。しかも、こんな大粒の魔石が無造作に転がってるなんて……」

「この石が詰み上げられてる場所……。真ん中が窪んでて、そこに魔石があったのよ。まるで誰かがわざと置いたみたいに綺麗に置かれてたから、すぐ分かったのよ!」

「え……。そ、それって、まさか……。魔物の巣なんじゃ……」

 すると後ろの方から、地響きを立てながら、何かが近づいてくる気配を感じる。恐る恐る背後を振り返るとそこには何と暗褐色のドラゴンがいた。


「なっ! なんでドラゴンがっ!?」

 人間程度なら軽々と丸飲みしてしまうであろう大きさのドラゴン……。対してこちらは細剣を持った少女と攻撃魔法の苦手な魔法使い……。

 細剣や威力の低い初歩攻撃魔法では固いドラゴンの鱗を通してダメージを与えるのはまず不可能だ……。いつもポジティブなマリアンヌもさすがに恐怖を隠し切れない……。これは詰んだと絶望しかけた、その時セラヴィが囁いた。

「マリアンヌ様、今から魔法を唱えます。直接見ないように少し目をつぶっていて下さい」

「え?」

「サンライト!」

 セラヴィが暗褐色のドラゴンの目の前に最高光度の魔法を繰り出す。

「グオォォォォォォォ!」

 暗闇に慣れ切っていたドラゴンは突然、目の前に現れた光球に網膜を焼かれ苦しみ出す。

「今です! 逃げましょう!」

 セラヴィはマリアンヌの手を取り駆け出す。苦しむドラゴンの横を素早く通り抜けて階段を目指すが、すぐに回復したドラゴンは二人を追いかけて来た。

「ウソっ! どうして追いかけてくるの!?」

「私たちを食べること以外で目的があるとしたら、きっと魔石を奪ったからです!」

「なんで!?」

「ドラゴンは光り物を集める習性があると言いますから……! マリアンヌ、魔石を!」

 セラヴィは魔石をマリアンヌの手から魔石を取るとドラゴンに向けて投げつけた。するとドラゴンは魔石を口に咥え、あっさりと巣へと戻って行く。その隙に二人は大急ぎで地上へと戻った。



 外はすっかり夕暮れだった。セラヴィは項垂れ、謝罪する。

「せっかくマリアンヌ様が私の為に探して下さった魔石なのに……。すいません…」

「杖に魔石が付けられないのは残念だけど……。あの状況じゃ仕方ないわ…。あなたが無事で良かった」

 ぎゅっとセラヴィを抱きしめる。

「マリアンヌ様…。あの、こんな……。いけません…。伯爵令嬢ともあろう御方が私のような者を……。」

 セラヴィは抱きしめられ、真っ赤になって狼狽えている。超可愛い。

「うふふ。いいじゃない。女同士ですもの」

 ますます、ぎゅっと抱きしめていると、セラヴィは思いもよらない事を告げた。

「………………あの、私は男です」

「……は?」

「私は男です。マリアンヌ様」

「え? ええええ!? 嘘? マジで!?」

 抱きしめていた腕をといて、セラヴィを覗き込む。とても冗談を言ってる顔では無い…。

「本当です……。以前から男扱いされて無いと思ってはいたんですが……。本気で私を女だと思っていたんですね………」

肩を落とし、力無く話すセラヴィ。腰まで伸ばした美しい金髪。憂いに満ちたアイスブルーの瞳、長い睫毛。白磁器のような美しい肌。こんな可憐な生き物が男だったなんて、にわかには信じられない。

「だ、だって、見た目もそうだし、名前だってセラヴィって……」

「見た目はまぁ、女の子に間違われる事もありますが…。この国ではセラヴィは男の名前ですよ……」

 えええー。マジかー。女の子だと疑いもしなかったわ……。


「いいですよ……。確かに私はお世辞にも、男らしい男には見えなかったでしょうし……」

 遠い目をしながら切なく微笑む彼女改め、彼に対して何だか、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「セラヴィ……」

 これはフォローすべきかと思い悩むマリアンヌだったが、先に口を開いたのはセラヴィだった。

「途中で、どんなにダメでも、時間がかかっても……。最後に成功して笑えるように、これから努力していきますから……」

「え?」

「覚悟してて下さいね」

セラヴィはアイスブルーの瞳で真っ直ぐマリアンヌを見つめると、にっこり微笑んだ。



 その後、ポジティブな伯爵令嬢のおかげで、自信を持てるようになった気弱な魔法使い見習いは無事、魔法使い試験に合格した。

 数年後には立派な美青年に成長して、やがてセラヴィは国の筆頭魔術師になった。そんな彼が白馬に乗って赤い薔薇の花束を携え、マリアンヌに求婚するのはまた別のお話………。
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