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ゼロス伯爵家の家業は業が深い
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ゼロス伯爵家の家業は業が深い。深いったら深い。
もともとは薬師の家系であったが、毒と薬は紙一重。王位争いなどで毒薬の需要が増えたことで『毒といったらゼロス伯爵家』という不名誉なイメージがついてしまった。依頼があってお金になれば断らない主義だったのも災いしたが、凝り性の家系だったことがそれに輪をかけた。
裏家業というには、あまりに威風堂々と毒を作っては売り、作っては売りしているうちに武器まで取り扱うようになる。よってマリアンヌが生まれた頃には、『毒といったらゼロス伯爵家。武器もね』と、ハートマーク付けんばかりの評判がしっかり根深く貴族社会に行き渡っていた。
武器があっても使い手がいなければ意味がない、とばかりに兵の育成にまで手を出して、ついでに影の訓練まで引き受けている。そのため『影はゼロス伯爵家で鍛錬を積んだ者が一番』とも言われているゼロス伯爵家であった。
色々とツッコミどころ満載のゼロス伯爵家の業であるが、マリアンヌは自分には激甘の父と溺愛してくる七人の兄に囲まれて幸せに暮らしていた。
「んー、マリアンヌちゃんは、お嫁になんていかないでちゅよね?」
と、父に言われ続け、
「いいよ、いいよ。マリアンヌは、ずぅぅぅぅぅぅぅっと、この家にいれば」
と、七人の兄たちにも言われ続け、本人もすっかりその気だったのである。
ああ、それなのに、それなのに。そこに持ってきて王太子との結婚話である。『甘々のお父さまが言うなら仕方ないかぁ』くらいのテンションで顔合わせに行ってみれば、あのザマである。愚痴のひとつもでてこようというものだ。
「ちょっとぉー、聞いてよォ~影ちゃん」
マリアンヌは豪奢な自室の、リボンやらフリルやらレースやら刺繍やらに埋もれたベッドにポフンと寝転がって、部屋の隅あたりの暗がりに話しかける。
「私は別に、王子さまと結婚なんてしたくないのよぉ~。むしろ結婚なんてしたくない。この家でゴロゴロしていたい。いつも通りに暮らしていたいだけなのよぉ~。別に贅沢は言ってないでしょ?」
『ふふ。お嬢さまったら』
響いた声を聞いて、マリアンヌはベッドの上でピョコンと跳ねあがり上半身を起こした。
「あっ、今日の影はミルドレッドね? ミルドレッドでしょ? ちょっと久しぶりじゃない。出てきなさいよぉ~」
「ふふ。流石ね、マリアンヌ。バレちゃったわ」
物陰から現れたのは、幼馴染にして影の金髪碧眼美女、ミルドレッドだ。
マリアンヌはポンッとベッドから飛び降りると、旧友に駆け寄って抱きついた。
「うわぁ、久しぶりぃ~。元気?」
「ええ、元気よ。アナタは?」
「私も見ての通り元気よ。あー今日は変装もしてなーい。まんまのミルドレッドだぁ」
少し体を離したふたりは手だけ繋いで、ピョンピョン跳ねながらお互いの姿を確認する。
「うふん。どう? 美しいかしら?」
「うんうん、美人、美人。昔通り美人だから。ねぇねぇ、今夜は女子会しよー、女子会~」
ボンキュッボンのグラマラスな体でポーズをとるミルドレッドに、マリアンヌは手を叩いて喜んだ。
「そうねぇ。ご主人さまに確認してみないと」
「お父さまに? お父さまには、私が嫌とは言わせないわ」
「ふふ、そうね。でも、女子会をするのなら代わりの影も手配して貰わないと」
「うん、うん。流石は責任感ある大人の影だね、いう事が違う」
「まぁ、マリアンヌってば」
ふたりはキャッキャウフフと笑い合い、その夜は女子会とあいなったのである。
もともとは薬師の家系であったが、毒と薬は紙一重。王位争いなどで毒薬の需要が増えたことで『毒といったらゼロス伯爵家』という不名誉なイメージがついてしまった。依頼があってお金になれば断らない主義だったのも災いしたが、凝り性の家系だったことがそれに輪をかけた。
裏家業というには、あまりに威風堂々と毒を作っては売り、作っては売りしているうちに武器まで取り扱うようになる。よってマリアンヌが生まれた頃には、『毒といったらゼロス伯爵家。武器もね』と、ハートマーク付けんばかりの評判がしっかり根深く貴族社会に行き渡っていた。
武器があっても使い手がいなければ意味がない、とばかりに兵の育成にまで手を出して、ついでに影の訓練まで引き受けている。そのため『影はゼロス伯爵家で鍛錬を積んだ者が一番』とも言われているゼロス伯爵家であった。
色々とツッコミどころ満載のゼロス伯爵家の業であるが、マリアンヌは自分には激甘の父と溺愛してくる七人の兄に囲まれて幸せに暮らしていた。
「んー、マリアンヌちゃんは、お嫁になんていかないでちゅよね?」
と、父に言われ続け、
「いいよ、いいよ。マリアンヌは、ずぅぅぅぅぅぅぅっと、この家にいれば」
と、七人の兄たちにも言われ続け、本人もすっかりその気だったのである。
ああ、それなのに、それなのに。そこに持ってきて王太子との結婚話である。『甘々のお父さまが言うなら仕方ないかぁ』くらいのテンションで顔合わせに行ってみれば、あのザマである。愚痴のひとつもでてこようというものだ。
「ちょっとぉー、聞いてよォ~影ちゃん」
マリアンヌは豪奢な自室の、リボンやらフリルやらレースやら刺繍やらに埋もれたベッドにポフンと寝転がって、部屋の隅あたりの暗がりに話しかける。
「私は別に、王子さまと結婚なんてしたくないのよぉ~。むしろ結婚なんてしたくない。この家でゴロゴロしていたい。いつも通りに暮らしていたいだけなのよぉ~。別に贅沢は言ってないでしょ?」
『ふふ。お嬢さまったら』
響いた声を聞いて、マリアンヌはベッドの上でピョコンと跳ねあがり上半身を起こした。
「あっ、今日の影はミルドレッドね? ミルドレッドでしょ? ちょっと久しぶりじゃない。出てきなさいよぉ~」
「ふふ。流石ね、マリアンヌ。バレちゃったわ」
物陰から現れたのは、幼馴染にして影の金髪碧眼美女、ミルドレッドだ。
マリアンヌはポンッとベッドから飛び降りると、旧友に駆け寄って抱きついた。
「うわぁ、久しぶりぃ~。元気?」
「ええ、元気よ。アナタは?」
「私も見ての通り元気よ。あー今日は変装もしてなーい。まんまのミルドレッドだぁ」
少し体を離したふたりは手だけ繋いで、ピョンピョン跳ねながらお互いの姿を確認する。
「うふん。どう? 美しいかしら?」
「うんうん、美人、美人。昔通り美人だから。ねぇねぇ、今夜は女子会しよー、女子会~」
ボンキュッボンのグラマラスな体でポーズをとるミルドレッドに、マリアンヌは手を叩いて喜んだ。
「そうねぇ。ご主人さまに確認してみないと」
「お父さまに? お父さまには、私が嫌とは言わせないわ」
「ふふ、そうね。でも、女子会をするのなら代わりの影も手配して貰わないと」
「うん、うん。流石は責任感ある大人の影だね、いう事が違う」
「まぁ、マリアンヌってば」
ふたりはキャッキャウフフと笑い合い、その夜は女子会とあいなったのである。
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