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ヒーロー登場!
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「父上! これは何の騒ぎですか⁈」
アーサー王子は金色の髪を靡かせて学園の大広間へと入ってきた。
大広間には人間と動物とか入り交じり、羽やら何やらも飛び交っていて酷い騒ぎである。
「おお、アーサー。留学から戻ったか」
国王は救世主を見るように嬉々とした表情を浮かべた。
「ただいま戻りました、父上」
礼儀正しく父の前で片膝をつき頭を下げるアーサーは、第一王子にして王太子の22歳。
金髪碧眼でスラッと背の高い細マッチョな正妃の息子は、海外留学から戻ったところだった。
「なんですか? この騒ぎは」
大広間には、まだ動物の姿をしたまま逃げ回っている令嬢や令息、衛兵たちがいた。
その後ろを宮廷魔法士たちが追いかけては魔法を解いている。
「今日は卒業式典のはずでは? こんな道化たお祭り騒ぎをするような日ではないでしょう?」
「いや、そうなんだが……」
アーサーに詰め寄られ、国王は困った様子で視線を逸らした。
「クラウスさまが魔女との婚約を破棄したせいで、魔法契約が解けたのです。そして魔女は皆に魔法をかけて逃げました」
「なんだって⁈」
宰相が冷静に説明をすると、アーサーは怒気を含んだ驚きの叫びをあげた。
「どうしてそんなことになったんだ?」
もともとボニータと魔法契約を交わすはずだったのはアーサーだ。
それを「次期王妃が魔女では外聞が悪い」と無理やり引き離し、弟であるクラウスと婚約させたのは国王と宰相ではないか。
ボニータと結ばれなかったアーサーは涙を呑み、それでも彼女は大切にされて幸せにやっているという話を聞かされ、自分を無理矢理に納得させて遠い異国で勉学に励んでいたというのに。
それがクラウスから婚約を破棄したとは何事だ。
魔法で皆を動物に変え逃げたということは、ボニータはココでの暮らしを嫌がっていた証ではないのか。
それともクラウスに裏切られた心の痛みに堪えかねて……。
そこまで考えたアーサーは、自身の胸元辺りを右手でつかんだ。
青に金モールのついた華やかな衣装には張りのある固い生地が使われていたが、ギュウと力のこもったアーサーの指先で見事なシワを作っていた。
父や宰相たちに説得されて引き下がったものの、アーサーはボニータのことがまだ好きだった。
クラウスとボニータは年が近く意気投合して仲が良い、そんな風に聞いていたが嘘だったのか。
「ボニータは……本当に幸せだったのか?」
まだ静まらぬ大広間の騒ぎを見ながらアーサーは独り言ちる。
(私だったらボニータと婚約破棄などしないし、彼女が幸せになれるよう精一杯の努力をしたのに)
さざ波のように押し寄せていた後悔は、やがて大波になって彼を飲み込んだ。
そしてアーサーは気付いた時には叫んでいた。
「私がボニータと結婚するっ!」
「アーサー⁈」
「王太子殿下⁈」
国王と宰相は驚いて目を剥いた。
王妃が魔女など外聞が悪いと幼い王子に言って聞かせた十年前は、大人にとっては昨日に等しい。
今現在もボニータが王妃にふさわしくないことは変わらないのだ。
「いいですね、父上っ!」
しかし、アーサーに挑むように宣言されては反論の余地はない。
事ここに至っては、それもやむなしである。
私たちは失敗したのだ。
国王は苦渋の表情を浮かべて、アーサーの言葉にうなずいた。
アーサー王子は金色の髪を靡かせて学園の大広間へと入ってきた。
大広間には人間と動物とか入り交じり、羽やら何やらも飛び交っていて酷い騒ぎである。
「おお、アーサー。留学から戻ったか」
国王は救世主を見るように嬉々とした表情を浮かべた。
「ただいま戻りました、父上」
礼儀正しく父の前で片膝をつき頭を下げるアーサーは、第一王子にして王太子の22歳。
金髪碧眼でスラッと背の高い細マッチョな正妃の息子は、海外留学から戻ったところだった。
「なんですか? この騒ぎは」
大広間には、まだ動物の姿をしたまま逃げ回っている令嬢や令息、衛兵たちがいた。
その後ろを宮廷魔法士たちが追いかけては魔法を解いている。
「今日は卒業式典のはずでは? こんな道化たお祭り騒ぎをするような日ではないでしょう?」
「いや、そうなんだが……」
アーサーに詰め寄られ、国王は困った様子で視線を逸らした。
「クラウスさまが魔女との婚約を破棄したせいで、魔法契約が解けたのです。そして魔女は皆に魔法をかけて逃げました」
「なんだって⁈」
宰相が冷静に説明をすると、アーサーは怒気を含んだ驚きの叫びをあげた。
「どうしてそんなことになったんだ?」
もともとボニータと魔法契約を交わすはずだったのはアーサーだ。
それを「次期王妃が魔女では外聞が悪い」と無理やり引き離し、弟であるクラウスと婚約させたのは国王と宰相ではないか。
ボニータと結ばれなかったアーサーは涙を呑み、それでも彼女は大切にされて幸せにやっているという話を聞かされ、自分を無理矢理に納得させて遠い異国で勉学に励んでいたというのに。
それがクラウスから婚約を破棄したとは何事だ。
魔法で皆を動物に変え逃げたということは、ボニータはココでの暮らしを嫌がっていた証ではないのか。
それともクラウスに裏切られた心の痛みに堪えかねて……。
そこまで考えたアーサーは、自身の胸元辺りを右手でつかんだ。
青に金モールのついた華やかな衣装には張りのある固い生地が使われていたが、ギュウと力のこもったアーサーの指先で見事なシワを作っていた。
父や宰相たちに説得されて引き下がったものの、アーサーはボニータのことがまだ好きだった。
クラウスとボニータは年が近く意気投合して仲が良い、そんな風に聞いていたが嘘だったのか。
「ボニータは……本当に幸せだったのか?」
まだ静まらぬ大広間の騒ぎを見ながらアーサーは独り言ちる。
(私だったらボニータと婚約破棄などしないし、彼女が幸せになれるよう精一杯の努力をしたのに)
さざ波のように押し寄せていた後悔は、やがて大波になって彼を飲み込んだ。
そしてアーサーは気付いた時には叫んでいた。
「私がボニータと結婚するっ!」
「アーサー⁈」
「王太子殿下⁈」
国王と宰相は驚いて目を剥いた。
王妃が魔女など外聞が悪いと幼い王子に言って聞かせた十年前は、大人にとっては昨日に等しい。
今現在もボニータが王妃にふさわしくないことは変わらないのだ。
「いいですね、父上っ!」
しかし、アーサーに挑むように宣言されては反論の余地はない。
事ここに至っては、それもやむなしである。
私たちは失敗したのだ。
国王は苦渋の表情を浮かべて、アーサーの言葉にうなずいた。
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