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第二章 儚き

第五話

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「今日は一緒に帰ろう」

 放課後、オレは秋月に話しかけた。

「えっ、いいの?」

 秋月の表情がパッと輝く。

 今朝のオレは公共交通機関で通学してきたのだ。
 卒業も近いのに電車賃をねだったオレに、母は変な顔をしていたが。
 残り少ない日々を少しでも友人たちと、とかなんとか言ったら納得していた。
 色々と裏読みをされていそうな雰囲気はあったけど知らない。
 秋月とのことは、言わないつもりだ。

「なら、私は用事があるから。先に帰ってね」

 葵はそう言って教室を出て行った。

「変に気を遣わせちゃったかな?」
「ん、違う。帆乃夏ちゃんは、先生に呼ばれたの」

 本当に用事があったようで、オレはホッとした。
 百合ップルと呼ばれる二人を引き裂いて蒸発するような目にはあいたくない。

「ふふ。初めてのデートだね」
「えっ?」

 秋月は上機嫌でオレの手を引いた。

 デートか。
 これはデートになるのか。

 秋月と二人で昇降口を出てバス乗り場に向かう。
 電車の駅までは徒歩でも行ける距離なので、バスを使う生徒ばかりではない。
 トコトコと歩いて駅を目指す生徒たちに横目でチェックされながら、オレは秋月と並んでバスを待つ。
 オレも単純に公共交通機関で通学するだけなら、このバスは使わない。
 でも病気をして痩せてしまった秋月には、駅までの道のりもキツイだろう。
 秋月の体調を気遣って、彼女にあわせてバスに乗る。
 その意味では、デートになるのだろうか。

 てか、デートの定義ってナニ?

 これってデート?

 よく分からないなぁ、と思いながら、オレはよろけそうになる秋月を後ろから支えながらバスに乗り込んだ。
 運よく座れたから二人並んで座って、他愛もない話をしながら駅に向かう。
 バスから降りるときも秋月は危なっかしくて、オレは彼女を支えながら降りた。
 電車は混んでいて座れなかったから立って最寄り駅を目指す。
 二人並んで立っていると、身長差をより実感するわけで。
 背の高いオレの横に背の低い秋月が立つと、つむじを見下ろす感じになる。
 細くて小さいから、守ってやらなきゃ、って気分になるけど。
 同級生相手に、それはおかしな話じゃないか? とも思う。
 彼女に適当に相槌を打ちながら他愛もない話をするのは、割と気楽だ。

「秋月さんの降りる駅って、オレの降りる駅の1つ前だよね?」
「うん」
「オレは1つ前で降りても歩いて家まで帰れる距離なんだけど。秋月さんの家まで送ろうか?」
「気を遣わなくていいよ。親が駅まで迎えにくるから」

 オレの提案は秋月に却下された。

「そっか」

 オレが秋月を親に会わせるつもりがないように、秋月もオレを親に会わせるつもりはないらしい。
 ちょっと複雑な心境になる。
 オレが秋月を親と会わせるつもりがないんだから、オレが秋月の親に会わせてもらえなくても、気にする必要はないんじゃない?
 そうも思うが、なんだか引っかかる。
 昨日今日できた彼氏なんだから、そういうものなんだろうけど。
 ちょっと引っかかる。

 なんでだろうか?

 モヤモヤしながらグルグルと考えたり、内容のない会話をしているうちに秋月の家の最寄り駅に着き、彼女は手を振って電車を降りていった。
 笑顔の秋月にオレも笑顔を返して手を振って。
 電車が再び走り出して、二人の距離は遠くなる。

 これって、初デートなのか?

 厳密には違うんだろうなぁ、と思いつつ、だったらデートしたらいいんだ、と思いついたオレだった。
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