上 下
10 / 31
第一章 青春

第九話

しおりを挟む
 春から夏に向かっていくほどに、二年生の生活は華やいでいく。
 つつじが咲いて枯れ、藤が咲いて枯れ、あじさいが咲いては枯れて夏が来る。
 制服が夏服になると、その華やかさは一気に加速した。
 ハイビスカスやヒマワリが咲くころには、同級生の中にもカップルがゾクゾクと誕生していったのだ。

 やってらんねぇな!

 オレと颯太は教室の窓から昇降口を見下ろして、なんだか甘酸っぱい青春を味わっている同級生を眺めていた。
 仲良く並んで帰っていくカップルもいれば、一人ソワソワしながらパートナーを待っている者もいる。
 受験に向けて目が血走っている三年生と、初々しい一年生とは、明らかに雰囲気が違う。

「オレは変わらんけどな」
「オレだって」

 思わずつぶやいたオレの言葉に、颯太が反応した。

 嘘つけ。
 オレは知っているぞ。

「颯太には大東が……」
「だから、違うって」

 颯太は赤くなって否定する。
 ソレがまた怪しさを増すということを本人は気付いていない。
 もちろん、周りがいくらピンク色になっていこうとも、マイペースを保つ者は多い。
 むしろそっちの方が多いことぐらい、オレも気付いている。

 だけど颯太。
 お前は違うな?
 マジでくっつく五分前でも、五ヶ月前でも、五年前でも構わないが。
 ちょっと微妙な感じの相手がいるだけマシだ。
 オレなんてゼロだ、ゼロ。
 皆無だぞ。
 ちょっと拗ねちゃいたくなるけど、いいもんねー。

「いいよ、いいよ。オレには右手という恋人が……」
「あっ、冬吾って右手派?」
「ん。最終的には両手使うけどさー……って言わせんなよっ」

「あー、またイチャイチャしてるー」

 唐突に響く大東の声にビクッとするオレたち。
 教室に残っていた者の笑い声が響いた。
 オレと颯太のコンビに大東が突っ込みを入れるのは、まるで芸人のコントのように、もはやお約束となっている。

「もうっ。お前が変な突っ込み入れるから、みんなに笑われちゃったじゃないか」
「何言ってるの颯太。私のせいじゃないでしょ? 突っ込まれたくなければ、こんなトコでイチャイチャしないで密室でやりなよ」
「なんだよ、密室って」
「お互いの自宅とかさー」

 いや、わかってないな大東。
 そこはプライベート空間としてしっかりと守るのがな……。

「夏休みになったら、冬吾ん家へゲームしにいくよ」
「おう」

 そういやオレたち、プライベート空間とか守れてなかったな。

「いやぁ、ラブラブですなぁ~」

 ニヤニヤしながらわざとらしい口調で、大東がなんか言っている。

 いや、大東。
 違うからっ。
 ちらっとネットで腐女子が嗜むと呼ばれている創作物をいくつかチェックしてみたけど……。
 マジで違うからなっ!
 おいっ、大東!
 その表情、やめろっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音
青春
 交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※第7回ライト文芸大賞奨励賞受賞作品です。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...