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第一章 青春

第二話

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 淡く霞む青い空の下。
 入学式を終えたオレばかりのオレたちは、これから使うことになる教室へゾロゾロと移動した。
 中学生に毛が生えた程度のお子ちゃまなオレたちは、キャラキャラと笑いじゃれあいながら、慣れない校舎を進んでいく。

「おらぁ~、お前たち。真面目に前見て歩け~」

 竹刀を持ったいかつい教師が渡り廊下の入り口に立って生徒を誘導していた。
 怖いというより、おどけた感じだ。
 毎年のお約束なのか、先生も半笑いである。
 今日だけは特別なのだろう。
 新一年生たちは特別を噛みしめながら、楽しそうに歩いているように見える。
 じゃれついてくる颯太をくっつけて歩ているオレにとっては、あんまり特別な感じはしないけれど。
 高校生になったはずだが、一年生になったことで、中学三年生よりも幼くなったみたいだ。
 特に今日は新一年生ということで子どもっぽく見える。
 それでも中学生から高校生になったということで、一歩また大人に近付いたわけだが。
 変わっていく日常のなかにいても、自分が変わっていくとか回りが変わっていくとかの実感がない。
 昨日と同じ今日が来て、今日と同じ明日が来る。
 そう思っているし、信じているのだ。
 自覚しているにせよ、無自覚にせよ、そう信じてしまっているものはしょうがない。
 新しい制服を着たって、知らない校舎を使うことになったって、基本的にオレは変わらないと感じている。

 ゾロゾロと皆で歩いていく校舎内は、中学校よりも古びていてホコリっぽい。
 今のところ、違いといえばそのくらいだろうか。
 階段で声が響きやすいところも中学校と変わらない。
 誰かの上げた奇声と、それに続いた笑い声が耳にガンガン響いてくる。

「高校生って、思ってたより子どもっぽいね」
「そうだな」

 大東と颯太の会話を聞きながら、オレは彼らの後に続く。
 一年生の校舎は体育館から一番遠い場所にあった。
 学年が上がるごとに校舎が体育館の近くになっていくシステムのようだ。

「ここだって」
「おお。なんか高校って感じだな」

 ロッカーが並ぶ廊下を歩いて辿り着いた教室の前で、大東と颯太がはしゃいでいる。

 高校っぽいっていうか、ホコリっぽいけどな。

 オレはそう思いつつも、颯太たちに適当な相槌を打って、初めての教室へと足を踏み入れた。
 そこには入学式で見かけたデカい女子とちんまりした女子のコンビがいた。

「おー、噂の百合ップル、同じクラスだったのか。ラッキー」

 颯太がニヤニヤしながら言うと、それを見た大東が彼の背中をドンと音がするほど叩いた。

「もうっ、クラスメイトにソレは気持ち悪いっ」
「っ……イテェ~、もう乱暴なんだから大東は」

 仲良しな二人は放っておいて、オレは教室内を見回した。
 教室内は既にいくつかのグループができていてザワザワと騒がしい。
 ここで一年間過ごすのか、と薄ぼんやり思っていると聞きなれた声に呼ばれた。

「おーい、冬吾の席はコッチだぞぉ~」

 オレが振り向くと、元気に手を振りながらこちらを見ている颯太と目が合った。
 教室内が爆笑に包まれる。

 どんな自己紹介だよ。
 こーゆーのマジ要らん。

 オレはガックリとうなだれながら、颯太のひとつ後ろにある机を目指した。
 まぁいいけど。どうせオレの青春なんて煌めきやドキドキわくわくとは縁遠いんだから。
 そんなことを思いながら、オレの高校生活は幕を開けたのだった。
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