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神さまからのギフト
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エレノアはぶっちぎりで早かった。
高速ハイハイは、意外と小回りが利く。
しかもエレノアは兄たちを翻弄する術に長けていた。
「「まってぇぇぇ、エレノア~!」」
「ばぁ~ぃぃぃぃっ」
エレノアは超ご機嫌。
手の平に草と土を感じながら前進する。
可愛いドレスや体が汚れるのなんてどうでもいい。
今のエレノアは赤ちゃんなのだ。
多少汚れたって有能な大人が処理してくれる。
そんな事よりも兄たちとの勝負の方が重要だ。
エレノアは真剣だった。
だが、しかし。
(ふふふ。私の優勝!)
などと、いい気になっていたのがいけなかった。
ハイハイの弱点。
それは前方を見続けるのが難しいことだ。
首を上げた状態を維持するのは難しく、視線がどうしても下がってしまう。
「エレノアっ! 危ないっ!」
「まえっ! まえを見て! エレノア!」
兄たちが騒いでいたが、ハイハイに夢中になっているエレノアは気付かない。
エレノアは失念していた。
ココはバッカス家の庭であり、勝手知ったる自分の部屋とは違う。
危険を軽やかに避けながら高速ハイハイで進むのは難易度が高い。
でも、そこは一歳。
転生前が何歳だろうと、今のエレノアは赤ちゃんでしかなかった。
(ふふふ。負けたくないからって、私の気をそらそうとしているのね。その手には乗らないわよ!)
と、ばかりに爆走ハイハイしてしまうのである。
「ガッコ―ンッ!」
「ぎゃっ」
オデコに走った激痛と、盛大な音で、ようやくエレノアは木がそこにあった事を知ったのであった。
(あぁぁぁっ、ホントに危険があったぁぁぁぁぁぁ)
「「「「「キャー―――ッ!」」」」」
頭を強かにぶつけてひっくり返ったエレノアに、回りにいる皆が悲鳴を上げた。
「あぁぁぁ、大丈夫かしら!? エレノア!?」
「だから言ったのに~。頭、大丈夫?」
「いたそう~。たんこぶ、できちゃったかも」
「ん、エレノアもノリノリだったからね。仕方ない。たんこぶくらいで済めばいいけど」
「大丈夫ですわ、旦那さま。出血している様子もありませんし……」
「あっ、気が付いたわ。エレノア? 大丈夫?」
「びぇーん」
泣き出した赤ちゃんを見て、大人たちはホッと息を吐いた。
「痛そう」
「いたいよね」
兄たちは半泣きだ。
乳母がエレノアを覗き込んで確認する。
「無事か? 私のお姫さまは」
「女の子なのに。大丈夫かしら?」
「意識はあるようですし、出血もしていません。傷が残るような事はなさそうですわ、奥さま」
「ふぎぃぃぃ」
涙をボロボロ流しながら見上げてくるエレノアを、母は抱き上げた。
「あらあら、驚いちゃったわね。痛かったでしょ? よしよし」
「この子はお転婆さんだね。今度から外で遊ぶ時には、おリボンではなくて、ヘルメットでもかぶるかい?」
「まぁ、アナタったら大袈裟よ」
「ふふふ。お嬢さまにヘルメット……ふふふ。重たくてハイハイするどころではないかもしれませんね」
「ふふふ。ばぁやってば」
「ふふふ。奥さま。ヘルメットをかぶったお嬢さま、可愛いかもしれません」
「ふふふ。そうかもしれないわね。ふふふ」
「ふふふ」
ホッとした勢いで変なテンションになってしまったらしい女性二人が笑っているのを見て、男性たちは顔を見合わせた。
だが、エレノアにとっては、そんな事はどうでも良い事だ。
(何なのコレ―! 目の前に何か表示されているー!)
――――――――――――――――――――――――――――
【庭の木】
バッカス家の屋敷に植えられている木。
屋敷の中で一番大きく太いが、樹齢の長さは三番目。
――――――――――――――――――――――――――――
※ 説明書はコチラ
(えっ? どういう事?)
チカチカ光っている、
※ 説明書はコチラ
の部分に目をやり、パチパチとまばたきすると別の画面が立ち上がった。
――――――――――――――――――――――――――――
【説明書】
ハーイ、神さまだよ。
お誕生日おめでとう。
お祝いに、ちょっとしたギフトをあげるね。
『鑑定』することが出来る能力だよ。
使い方は簡単。
対象物を見て、情報を知りたいと願うだけ。
必要な情報が表示されるよ。
上手に使ってね。
――――――――――――――――――――――――――――
(どうしろと? 鑑定なんて、何に使うの?)
エレノアは戸惑いながら空を見つめた。
「あら? エレノア? どうしたのかしら」
「ん? 泣き止んだから、痛いわけでもないと思うが」
「どうしたのでしょうか? 一点を見つめてボーッとしているようですね、お嬢さま」
「ねぇねぇ、地面にもどしてみたら?」
「そうだよ。エレノアはハイハイが好きだから、そっちの方が元気になるよ」
「そうかしらね?」
息子たちに言われて、母はエレノアをそっと地面に降ろした。
(上手に使うって……私、何かしなきゃいけない事でもあるのかしらね?)
エレノアは自分がぶつかった大木に、ゆっくりとハイハイでにじり寄る。
そして、じっと見上げた。
木の横には相変わらず、鑑定情報が表示されている。
――――――――――――――――――――――――――――
【庭の木】
バッカス家の屋敷に植えられている木。
屋敷の中で一番大きく太いが、樹齢の長さは三番目。
――――――――――――――――――――――――――――
意味は分かるが、コレって必要な情報なのであろうか?
エレノアは首をひねった。
「私の娘は、どうしちゃったのかしら?」
「ジッと木を見つめているね」
「コイツが悪い、とか思ってるんじゃないの?」
「えっ? でも兄さま、ぶつかっていったのはエレノアだよ?」
「ふふふ。お嬢さまは、木の方がぶつかって来たと思っているかもしれませんね」
「「まさかっ!」」
「あら、エレノアは赤ちゃんだもの」
「キミたちだって赤ちゃんの頃には色々と面白い事があったよ?」
「「えっ!?」」
回りが関係ない事にザワザワしているようなので、コレはエレノアだけに見えるようだ。
木の横で空中に浮かんでいる文字を見つめながら、その意味を考える。
(いや。何か意味があって、私にやらせたいことがあるとしても。この情報、必要? 分からない。分からないわ、神さま……)
エレノアは木の根元をペチペチ叩きながら確認する。
(うん、やっぱり。この木は、どうって事ない普通の木……)
「……おい、見てみなさい。エレノアを」
「見てるわ、アナタ……」
「お嬢さま……」
「エレノアが……立った」
「ボクたちの妹が立ったぞー!」
初のつかまり立ちに興奮する家族をよそに、
(分かんないわー。このギフト、必要?)
と、エレノアは頭を傾げながら空を見上げるのであった。
高速ハイハイは、意外と小回りが利く。
しかもエレノアは兄たちを翻弄する術に長けていた。
「「まってぇぇぇ、エレノア~!」」
「ばぁ~ぃぃぃぃっ」
エレノアは超ご機嫌。
手の平に草と土を感じながら前進する。
可愛いドレスや体が汚れるのなんてどうでもいい。
今のエレノアは赤ちゃんなのだ。
多少汚れたって有能な大人が処理してくれる。
そんな事よりも兄たちとの勝負の方が重要だ。
エレノアは真剣だった。
だが、しかし。
(ふふふ。私の優勝!)
などと、いい気になっていたのがいけなかった。
ハイハイの弱点。
それは前方を見続けるのが難しいことだ。
首を上げた状態を維持するのは難しく、視線がどうしても下がってしまう。
「エレノアっ! 危ないっ!」
「まえっ! まえを見て! エレノア!」
兄たちが騒いでいたが、ハイハイに夢中になっているエレノアは気付かない。
エレノアは失念していた。
ココはバッカス家の庭であり、勝手知ったる自分の部屋とは違う。
危険を軽やかに避けながら高速ハイハイで進むのは難易度が高い。
でも、そこは一歳。
転生前が何歳だろうと、今のエレノアは赤ちゃんでしかなかった。
(ふふふ。負けたくないからって、私の気をそらそうとしているのね。その手には乗らないわよ!)
と、ばかりに爆走ハイハイしてしまうのである。
「ガッコ―ンッ!」
「ぎゃっ」
オデコに走った激痛と、盛大な音で、ようやくエレノアは木がそこにあった事を知ったのであった。
(あぁぁぁっ、ホントに危険があったぁぁぁぁぁぁ)
「「「「「キャー―――ッ!」」」」」
頭を強かにぶつけてひっくり返ったエレノアに、回りにいる皆が悲鳴を上げた。
「あぁぁぁ、大丈夫かしら!? エレノア!?」
「だから言ったのに~。頭、大丈夫?」
「いたそう~。たんこぶ、できちゃったかも」
「ん、エレノアもノリノリだったからね。仕方ない。たんこぶくらいで済めばいいけど」
「大丈夫ですわ、旦那さま。出血している様子もありませんし……」
「あっ、気が付いたわ。エレノア? 大丈夫?」
「びぇーん」
泣き出した赤ちゃんを見て、大人たちはホッと息を吐いた。
「痛そう」
「いたいよね」
兄たちは半泣きだ。
乳母がエレノアを覗き込んで確認する。
「無事か? 私のお姫さまは」
「女の子なのに。大丈夫かしら?」
「意識はあるようですし、出血もしていません。傷が残るような事はなさそうですわ、奥さま」
「ふぎぃぃぃ」
涙をボロボロ流しながら見上げてくるエレノアを、母は抱き上げた。
「あらあら、驚いちゃったわね。痛かったでしょ? よしよし」
「この子はお転婆さんだね。今度から外で遊ぶ時には、おリボンではなくて、ヘルメットでもかぶるかい?」
「まぁ、アナタったら大袈裟よ」
「ふふふ。お嬢さまにヘルメット……ふふふ。重たくてハイハイするどころではないかもしれませんね」
「ふふふ。ばぁやってば」
「ふふふ。奥さま。ヘルメットをかぶったお嬢さま、可愛いかもしれません」
「ふふふ。そうかもしれないわね。ふふふ」
「ふふふ」
ホッとした勢いで変なテンションになってしまったらしい女性二人が笑っているのを見て、男性たちは顔を見合わせた。
だが、エレノアにとっては、そんな事はどうでも良い事だ。
(何なのコレ―! 目の前に何か表示されているー!)
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【庭の木】
バッカス家の屋敷に植えられている木。
屋敷の中で一番大きく太いが、樹齢の長さは三番目。
――――――――――――――――――――――――――――
※ 説明書はコチラ
(えっ? どういう事?)
チカチカ光っている、
※ 説明書はコチラ
の部分に目をやり、パチパチとまばたきすると別の画面が立ち上がった。
――――――――――――――――――――――――――――
【説明書】
ハーイ、神さまだよ。
お誕生日おめでとう。
お祝いに、ちょっとしたギフトをあげるね。
『鑑定』することが出来る能力だよ。
使い方は簡単。
対象物を見て、情報を知りたいと願うだけ。
必要な情報が表示されるよ。
上手に使ってね。
――――――――――――――――――――――――――――
(どうしろと? 鑑定なんて、何に使うの?)
エレノアは戸惑いながら空を見つめた。
「あら? エレノア? どうしたのかしら」
「ん? 泣き止んだから、痛いわけでもないと思うが」
「どうしたのでしょうか? 一点を見つめてボーッとしているようですね、お嬢さま」
「ねぇねぇ、地面にもどしてみたら?」
「そうだよ。エレノアはハイハイが好きだから、そっちの方が元気になるよ」
「そうかしらね?」
息子たちに言われて、母はエレノアをそっと地面に降ろした。
(上手に使うって……私、何かしなきゃいけない事でもあるのかしらね?)
エレノアは自分がぶつかった大木に、ゆっくりとハイハイでにじり寄る。
そして、じっと見上げた。
木の横には相変わらず、鑑定情報が表示されている。
――――――――――――――――――――――――――――
【庭の木】
バッカス家の屋敷に植えられている木。
屋敷の中で一番大きく太いが、樹齢の長さは三番目。
――――――――――――――――――――――――――――
意味は分かるが、コレって必要な情報なのであろうか?
エレノアは首をひねった。
「私の娘は、どうしちゃったのかしら?」
「ジッと木を見つめているね」
「コイツが悪い、とか思ってるんじゃないの?」
「えっ? でも兄さま、ぶつかっていったのはエレノアだよ?」
「ふふふ。お嬢さまは、木の方がぶつかって来たと思っているかもしれませんね」
「「まさかっ!」」
「あら、エレノアは赤ちゃんだもの」
「キミたちだって赤ちゃんの頃には色々と面白い事があったよ?」
「「えっ!?」」
回りが関係ない事にザワザワしているようなので、コレはエレノアだけに見えるようだ。
木の横で空中に浮かんでいる文字を見つめながら、その意味を考える。
(いや。何か意味があって、私にやらせたいことがあるとしても。この情報、必要? 分からない。分からないわ、神さま……)
エレノアは木の根元をペチペチ叩きながら確認する。
(うん、やっぱり。この木は、どうって事ない普通の木……)
「……おい、見てみなさい。エレノアを」
「見てるわ、アナタ……」
「お嬢さま……」
「エレノアが……立った」
「ボクたちの妹が立ったぞー!」
初のつかまり立ちに興奮する家族をよそに、
(分かんないわー。このギフト、必要?)
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