上 下
10 / 68
オメガだからって甘く見てるから溺愛する羽目になるんだよっ!

シェリング侯爵家の朝

しおりを挟む
 爽やかな朝。オレは食堂に居た。

 ルノワール・シェリング侯爵(バカ)は、デカいテーブルの向こう側で、優雅にコーヒーを飲んでいる。

 ベーコンに目玉焼き、ふかふかのパンにサラダ、温かなスープ。朝食は美味かった。

 オメガとして引きこもるように生活していたから環境が変わって慣れるまでには時間がかかるだろうな、と、思っていたのだが朝からしっかり味わって食べることができたので驚いている。

 オレって意外と図太いタイプだったようだ。

 まぁ、兄たちに鍛えられていたから、繊細なオメガちゃんたちに比べたらメンタル丈夫なタイプな自覚はある。

 でも、さすがに侯爵家なんて格上のトコに突然くることになったから。

 こう、もっと。精神的にキちゃうかと思っていたが違った。

 なんか秒で慣れたという感覚の方が近い。

 オレは人との接触を最低限に抑えて生きてきたから他人に囲まれる生活というのが想像つかなかったけど。

 気疲れしちゃうかな、とか、思っていたけど。

 早くもシェリング侯爵家に馴染んでいるような気がする。

 ルノワール・シェリング侯爵(バカ)がバカなことをしてくれたおかげか?

 セルジュとマーサが温かな眼差しをこちらに向けているけれど。

 なんも無かったからね? 分かってるよね? ちょっとしたセクハラと、ちょっとした暴力があっただけだからね?

 新鮮な朝のルノワール・シェリング侯爵はキラキラと輝いていて、いかにもアルファって感じだ。

 昨夜のルノワール・シェリング侯爵(バカ)とは別人のように見える。

 でもコイツが(バカ)である事実を知っているオレにとっては、ドキドキワクワク緊張しちゃうタイプの美形アルファ侯爵さまには見えない。

 だからオレは朝一番からリラックスモード全開だ。

 長い足を優雅に組んだルノワールが、ゆったりとした口調で言う。

「今日は王宮へ行く」

「そうなんだ」

 コイツ、声までイイんだぜ。少し低めで澄んだ感じの声なんだ。

 (バカ)だけど。落ち着いたイイ声なんだ。(バカ)だけど。

「王命について国王さまに説明して貰わねば。なぜ急に私とキミを結婚させたのか。意味が分からない」

「そうなんだ」

 オレの声は中途半端に高いだけで綺麗でも可愛くもない。男らしさも女らしさもない中途半端な声だ。

 オメガという足枷つけるなら、もうちょっと特典つけてくれたら良かったのに。

「ん? 他人事みたいだな。キミも行くんだよ?」

「えっ、オレも?」

「ああ。だって当事者だろ? 当然じゃないか」

「えー……」

 オレ、当事者になっても自力で物事を動かしたことないからな。

 当然じゃなかったことが突然に当然となったら戸惑うって。

「露骨に面倒そうな顔だな?」

「だって。面倒だもん」

 ん、面倒。自分の事だから自分も参加できて嬉しいとかないな。

 兄さまたちが優秀だったから、へーへーってうなずいていれば、まぁまぁうまくいってたからな。

 自分のことだから意見言っていいよ、っていわれても面倒って気持ちが先にくる。

 これからは慣れてかなきゃいけないかなぁ、とは思うけど。面倒は面倒だ。

「理由を知りたくないのか?」

「知ったところで意味あるの? 何も変わらないでしょ?」

 顔をしかめるオレを見て、ルノワールは目を真ん丸にして驚いている。

 なんでだろ?

「理由次第かもしれない。国王さまの思考は意味分からん方向に飛んでいく時がある。事情を説明して貰えば、違う形で対応できることも考えられるよ」

「そうなのか? でも、国王さまはオレたちの初夜が未遂に終わったことなんて知らないだろ?」

「……ん?」

「王命で結婚させるより、処女(?)を失ったオメガの婚姻を無かったことにするほうが問題あるよね?」

「……そうか」

 ルノワールがウンウンとうなずいている。頭動くたびに銀髪キラキラすんのムカつく。

「そこは納得するのかよ」

「まぁ、な」

「オレたちは未遂だから婚姻解消して貰ってもいいけどな」

「えっ?」

 驚いてこちらを見る整った顔。侯爵でアルファでキラキラしてるくせに表情豊かだな、コイツ。

「えっ?」

 驚かれたことに驚いてオレはルノワールを見た。

「そこは、そのままでもいいのでは?」

 とか言うアルファにオレは顔をしかめた。

「はぁ?」

 意味わからん。なのに。

「ん?」

 とか言って、甘い笑みを浮かべオレを見るアルファさま。

 なんだコイツ。昨日、あんな対応しといて結婚についてはノリノリだったとか言うなよ? 言われても信じねーからな。

「でもオレさー。国王さまに会うには難があるんだよなぁ。一応、貴族だけども。キチンとした礼儀作法とか学んでないわけよ。オメガだから」

「……ん?」

 意味わかんねぇ、って顔をしてオレを見るルノワール。そりゃ、そうだよな。

 オレだって一応は伯爵子息だから、普通は礼儀くらい学んでると思うよなぁ。

「だから、オメガは学ぶのも大変なんだって。学校行けないし。家庭教師選びも大変だし。個人での依頼になるから金かかるし」

「そうか」

 とか言ってるけど、ホントに分かってんのかなコイツ。

「国王さまとの謁見なんて作法の塊だろ? 失敗して、不敬だぁー、って言われて、処刑されたりすんのヤだ、オレ」

「大丈夫でしょ」

 そりゃ、お前は侯爵だから慣れてるんだろうけどさぁ。

「いや、マジでダメなんだって。ほぼ身内にしか会わない生活だったからさ。礼儀作法なんて必要なかったし。オレってば自分に必要だと思わないことは学ばない合理主義でもあるからさー。所作なんてマジメに学んでないんだよ。そんなオレに、王宮なんて無理ー。王宮なんて行けなーい」

「んー。たしかに緊張はするかもしれないけれど。私も一緒に行くわけだし、相手は国王さまなわけだから。問題ないと思うよ」

「……いや、国王さまだから問題あるでしょうよ……」

 ナニを言ってるんだ、この侯爵は。国民全員からツッコミが入りそうなことを言うなよ。

「正面から行けば、色々と煩いけれど。裏から行くから。お忍びで会える方のルートを使うから大丈夫だよ」

「正面とか裏とか、あるんだ」

「ああ。王族だって親戚付き合いもあれば友人関係もあるからね。しかもあの方々は忙しいから。正式な挨拶を飛ばして時間を有効活用しないと間に合わない」

「だから裏ルートなのか……」

「私も友人枠で、そっちを使うことがあるから。今回は、そっちルートで行く」

「それって国王さまが選ぶんじゃないの? こっちで勝手に決めていいものなの?」

「まぁ、国王さまだから。大丈夫でしょ」

「……その感覚がワカラナイ……」

 よく分からないが、オレは国王さまに会うことに決まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄
BL
本編完結しました。 お読みくださりありがとうございます! 番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。 番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。 第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_ 【本編】 ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。 ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長 2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m 2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。 【取り下げ中】 【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。 ※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。 早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。 ***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。

守護獣騎士団物語 犬と羽付き馬

葉薊【ハアザミ】
BL
一夜にして養父と仲間を喪い天涯孤独となったアブニールは、その後十年間たったひとり何でも屋として生き延びてきた。 そんなある日、依頼を断った相手から命を狙われ気絶したところを守護獣騎士団団長のフラムに助けられる。 フラム曰く、長年の戦闘によって体内に有害物質が蓄積しているというアブニールは長期間のケアのため騎士団の宿舎に留まることになる。 気障な騎士団長×天涯孤独の何でも屋のお話です。

傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします

槿 資紀
BL
 傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。  自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。  そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。  しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。  さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。  リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。  それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。  リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。  愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。  今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。  いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。  推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。  不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

処理中です...