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企画は取り上げられ恋人は出ていった

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 気付いてはいた。

 いつもの通勤ラッシュに揉まれて出社したナツコが目にしたのは、自分が丹精込めて作ったのに自分の名前がどこにもない企画を上司が得意げに発表する姿だった。

 正式にゴーサインが出たようだ。

 得意げな上司が、ナツコに手柄を分けてくれる様子はない。

 それはいつものことだ。

 同僚たちがナツコを見て、ヒソヒソクスクス嗤っている。

 それもいつものことだった。

 一時的なやり甲斐に振り回された後は、面白みのない日常業務。

 いずれにせよ忙しいことに変わりはない。

 相変わらずの暑さと控えめだけれどしっかり効いた冷房との間で、ナツコは自律神経をかき乱されながら遅くまで働いた。

◇◇◇

 自宅に戻ると、そこにはなぜかアキラの姿があった。

「帰ってたんだ」

 フローリングの上に敷いたラグの上に座ってテレビを見ていた彼は、ナツコに気付いてこちらを見上げた。

「おう。嬉しいだろ? オレがいて」

 ニコニコしているアキラの顔を見ながら、それはどうだろうかとナツコは疑問に思った。

「なんでいるの? 女の所にでも転がり込んでいるかと思ったのに」

「まぁな。でも今日はお前の給料日じゃないか」

「……は?」

 言われてナツコは気付いた。確かに今日は給料日だ。忙しすぎて忘れていた。

「忙しそうにしてたから、稼げたかと思って」

 ヘラヘラと笑うアキラにナツコは顔をしかめた。

「忙しくても基本給が上がるわけじゃないから、そう変わらないけど」

 そもそも、給料の使い道なんて大体決まっている。

 毎月かかる費用を支払えているだけ奇跡的だ。

 なのに、その原因となっている男は不満げな表情を浮かべた。

「えー、こないだ企画がどうの、ってやってたじゃん」

「アレは上司の手柄になったけど?」

 ナツコはイラッとしてアキラに八つ当たりしたくなった。

 だが、アキラの次の言葉に彼女は毒気を抜かれてしまう。

「ちっ。それじゃ給料上がんねぇ~じゃん」

「……え?」

 意味が分からない。

 ナツコの昇給がアキラに関係あるのだろうか。

「忙しそうにしてっからさ。てっきり給料上がるかと思って、待っててやったのに」

「……は?」

 アキラは溜息を吐くと椅子から立ち上がった。

「ホント、使えねぇーヤツだな。オレ、新しい彼女のトコに移るわ」

「ちょっと、なによそれ」

「だってお前、貧乏じゃん。彼女は自分の店持ってて稼いでるの。忙しいだけのお前と違って」

 そんな言葉を残して、アキラは出て家から出ていった。

「……なんで?」

 ナツコは一人残された部屋で呆然と突っ立っていた。

 人生は100じゃないけど0でもない。

 頑張れば少しは100に近付くと思っていたのに。

「……なんで?」

 もっと明るい未来を想像していたハズなのに――――
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