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「何怒ってるんだよ?」

 部屋の隅々まで掃除機をかけて女の痕跡を消した。ゆうくんが愛美を思い出さないように。

「別に、怒ってない」

 同僚と部屋で飲んでいた。本当だろう。分かってる。こんな近くに住んでいて浮気するなんて考えられない。するならホテルにでも行くはずだ。

 問題はそこじゃない。ていうか、これは浮気なのか。いびつな私たちの関係に浮気など存在しないような気もする。

「可愛い子だね?」

 掃除機の電源を切ってゆうくんに尋ねた。なんの意味もない質問。

「ん、ああ、そうだな」

「あの子、ゆうくんのこと狙ってるんじゃない?」

 だから何だというのか。どんな答えが聞きたいのか自分でも分からない。

「え、ああ。前に告られたけど」

「は?」

「ちゃんと断ったよ、彼女がいるって。だからバーベキューにも呼んだんだよ」

「ふーん」

 まんまと敵におびき寄せられて、こちらの戦力を計られた。その末に導き出された答えは強行突破。強奪。

「あんまり思わせぶりな態度取らない方が良いよ……」

 あーあ。

 ウザイ女一一。

「は? だからとってないって。紹介しただろ? お前のこと」

 やめて、お前とか言うの。

「でも家とか呼んだら勘違いするよ」

「だーかーらー。みんなで飲んでて、終電なくなったから家に来たんだよ。愛美だけじゃないしさあ」

 やめてよ、呼び捨てにするの。

「タクシーで帰ればいいじゃん」

「あのさぁ、分からないかも知れないけど社会人には付き合いがあるんだよ。チームワークが大切なの」

 なに、それ? 

「だからって、知らない女が寝たベッドなんて気持ち悪い」

「知るかよ、お前だって毎日旦那と寝てるんだろ? そっちのが気持ち悪いよ」

「それは……」

「セックスもしてるんだろ? そんなやつにぶつぶつ言われたくねえよ」

 それは、そうだ。でも。

「ゆうくんがそうしようって……」

「はぁ、俺のせい?」

「そうじゃないけど」

「とにかく俺は浮気なんてしてないし、これからもしない。余計なこと勘繰るな」

「はい……」

 私がわがままなの?

 父親としての自覚ある?

 こんな事になるなら行かなければ良かった。バーベキューなんて。
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